紗月と北野
家に帰ると北野さんが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ」
「ただいま。北野さんなんで居るんですか?今日は田原さんの日ですよね?朝は田原さんいましたし。というか本来もう帰っている時間ですよね?」
「紗月様にお伝えすることがありまして、お帰りになるのを待っておりました」
「そうなんですか。ありがとうございます。遅くなってしまってすみません」
「とんでもございません。連絡しておりませんでしたので紗月様に責任はございません。この後、時間よろしいでしょうか」
「わかりました。夕飯食べながらでいいですか?」
「勿論でございます」
田原さんが作り置きしてくれてあったハンバーグをレンジで温めて食べる。北野さんにも何か食べるかと聞いたけれど、大丈夫とのことだったので遠慮なく食べ始める。
「食べながらですみません。話お願いします」
「承知いたしました。それでは話させていただきます。昨日のことですが、麗華様星花様は恐らく秘密の話をしていたと思われます」
「え?どういうことですか?昨日は私、ずっと一緒にいたのでそんな時間は無かったと思いますけど」
「星花様に身体を貸している間のことにしたのだと思われます」
「どうしてそう思うのですか?話し声聞こえていたんですか?」
「いいえ。逆です。何も聞こえてきませんでした。星花様にとってはひ孫と話せるまたとない機会だったはずなのに何も話さないのは不自然ではないでしょうか」
「それはそうかもしれないですけど、証拠はないですよね」
「はい、その通りでございます。証拠は何もありません。そのため、私の話は全て推測に基づくものになります」
「わかりました。続けてください」
「はい。これは私が星花様だった場合の話ですが、麗華様に片桐の家の降霊術について伝えます。麗華様は片桐家の術について余り知りません。紗月様は片桐家の除霊方法についてご存知でしょうか?」
「知らないですね。清めの塩を使うとかですか?」
「片桐家の主な除霊方法は幽霊を呼び出し使役するか、自ら霊体化することで霊への攻撃を可能にするというものです」
「そうなんだ」
言われてみれば霊に成ったり降霊したりする方法が継承されているのだからそっちの方が自然かもしれない。それにしても霊を操るなんてゲームみたいだ。
「はい。その為、片桐家は除霊師ではなく、霊媒師と呼ばれています」
「成程。でも媒介するって言うより使役が正しいような」
「除霊する霊と近しかった人の霊を呼び出して説得したり、実際に霊媒師としての活動もしていたようです」
「そうなんですね」
「ただ主に用いていた方法は先ほども申した通り、霊になった状態での攻撃だったようです。その為、霊の状態での攻撃方法を多く知っているはずです。霊になった状態の麗華様にそれを伝えないとは思えません」
そう言われると確かにと思う。星花さんは麗華に対し好意的な態度を取っていた。幽霊になった麗華が出来ることがあるのであれば、伝えてもおかしくない。
「私は星花様の姿を見ることが出来ず、声を聴くことも出来ません。紗月様の身体を借りた後、お札の作成作業だけ済ませ、霊に戻り麗華様に返事をしないように伝え一方的に情報を与えることが出来ます」
「そう言われるとそんな気がします。でも、そうだとしてもどうしようもないですよね?」
「おっしゃる通りです。こちらからは幽霊に干渉出来ません。その為、除霊師を呼べるようにしておく、麗華様の様子を注視するくらいしかないでしょう」
「わかりました。でも何もしなくて大丈夫です」
「理由を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」
「麗華が幽霊になった原因の一部は私にあります。だから麗華のしたいようにさせることで罪を償うって訳ではないですが、可能な限りはこちらからは干渉しないようにしたいと思っています。それに麗華は私に何もしてこないと思います。麗華は詩織の為なら自分が死ぬことも受け入れます。その詩織には今私が必要です。だから私を傷つけたり、詩織の側から離れるように仕向けることはしません。何かをしようとしてきた時に詩織から離れると脅すことも出来ます。勿論本当に離れる気はありませんが、そう言われれば麗華は何も出来ません。それに本当に私に何かする気があるのなら、封印が成功した後、さっさと何か仕掛けてくればいいはずです。そうしなかったせいで今北野さんから話を聞けている訳ですし」
「なるほど。そういうことでしたら私からは何も申しません。ですが、ご家族の皆様が紗月様に何かあれば悲しまれることを忘れないでください」
「勿論です。ありがとうございます」
今日はいつにもまして疲れた。北野さんに再度お礼をいい、帰ってもらう。
冷めかけているハンバーグを食べ、シャワーを浴び9時半に寝た。
…私は社会科の課題が出ていたことを忘れていた。人生で初めて課題をするのを忘れた。
プロフィールに追加しましたが、週6回の投稿を目指します。少なくとも今投稿している章が終わるまでは頑張ります。火曜日は投稿を休む予定です。
よろしくお願いします。




