封印させてください
詩織と一緒に学校を出る。最近は桜が咲き始め目に嬉しい。これからの事で緊張していた心が少しだけ和らぐ。
「指の怪我どうしたの?」
「え?ああこれ料理中に切っちゃった」
「大丈夫?」
「ちょっと切っただけだから大丈夫だよ」
「紗月、今日一日中眠そうだったよね。寝坊なんて珍しいし。昨日夜更かししたの?指切ったりするのも珍しいし大丈夫?何か悩みでもあるの?」
「うん。大丈夫、大丈夫。指はただの不注意だから。寝不足は別の件。ちょっと漫画の一気読みしちゃって」
「そうなんだ。なんていう漫画なの?」
「あなたの心臓鷲掴み♡っていう漫画。最近人気で気になってこの前買っちゃったんだよね」
「確かに最近よく聞くね。…麗華も読んでいた」
「そうなんだ」
しまった。昨日の夜更かしの本当の理由を言う訳にはいかないから適当にそれっぽいことを言おうとして失敗してしまった。
詩織に怪しまれないよう実際に最近手に入れたものを出したのだけれど、考えてみれば麗華の家から貰った漫画だ。麗華と仲が良かった詩織は麗華が持っていたことを知っていてもおかしくない。
麗華からも余計なことを言ったなと睨まれている。
「えっと、詩織は最近何かはまった漫画とかアニメってあるの?」
無理矢理話を変える。麗華からも強引すぎると突っ込まれた。それでも何とか誤魔化して話をしている内に詩織の家についた。
部屋に入り雑談をして30分程経つと、詩織がうとうととし始めた。実は人を眠らせる薬を使っていた。直接飲ませると倒れるように寝てしまうけれど、薄めると、少しずつ眠くなり寝てしまうという代物だ。詩織が出してくれたジュースに数的こっそり混ぜたのだ。
詩織がトイレに行った隙にいれた。勿論麗華に見張っていてもらった。無味無臭の為、気が付いていなかった。前回伊織を呼び出した時に使わなかったのは、伊織がどうやって現れるのかわからなかったから。
ただ、もし仮に詩織が寝てから現れると知っていても使わなかっただろう。前回は伊織と交渉するつもりだったから、自分から出てくるように頼んでいた。
そもそも出来れば薬は使いたくなかった。母によると副作用はないとのことだけれど、絶対とは言えないと思う。でも今回は伊織を呼び出したところで出てくるとは思えない。交渉に応じる気はないと言っていたし。だから、二人には悪いけれど強引にいかせてもらう。
詩織は私がいる手前何とか眠気を抑えようとしていたけれど、こらえきれずに寝てしまった。薬の力は恐ろしい。伊織に話かける。
「伊織さん聞こえているよね。本当に申し訳ないけれど、あなたを封印させてもらうことにした。今まで詩織を守っていてくれてありがとうございました」
そう言った瞬間、詩織の目が開き起き上がった。こちらを睨みつけている。伊織が出てきたようだ。
「何言ってんだよ?ふざけているの?」
「ふざけていない。本気。今回あなたに話しかけたのは最後にもう一度話し合えないかと思ったからなの。いきなり喧嘩を売るような言い方してごめんなさい。私たちの考えも聞いて欲しいと思って」
「ふざけるな。ふざけるな!私は間違っていない!あんた達が私の詩織からさっさと離れればいいだけなのよ!今日も詩織と話しているのを邪魔せずに居てやったのに!そもそも、あんた達に何の権利があってそんなことをしようとしている訳?」
「何の権利もないよ。でも、詩織の為に封印させてもらう」
「詩織の為ってなに偉そうな事を言ってんの?自分の為にやろうとしている事でしょ?自分が詩織と一緒に居たいから私が邪魔なだけでしょう?」
「そうだね。その通りだよ。勿論詩織の為っていうのは嘘じゃないけれど、あなたの言っていることは否定できない。だからあなたには本当に悪いと思っている」
「ふざけんな、ふざけんな!」
「ふざけてない。そもそもあんたが話し合い拒否したのが原因でしょ。放置しておいたら、今後詩織への執着から暴走すると思っている。今回紗月を排除しようとしたみたいにね。だから封印することに決めたの」
今まで黙って話を聞いていた麗華も参戦してきた。封印という手段があれば、こちらも伊織に対抗できる。だから、一方的に従うのではなく話し合えればと思ったけれど、この様子では平行線でキリがなさそうだ。残念だけれど仕方がない。
封印するだけならば、お札を詩織の身体に触れさせればいい。申し訳ないと思いつつ実行させてもらう。お札をポケットから取りだし、伊織に触れようとする。しかし、触れようとした瞬間伊織に避けられてしまった。
「させるわけないでしょ!」
そう言い放った伊織と部屋の中で取っ組み合いになる。お札は伊織に触れる前に手から離れてしまった。
幸い今日、詩織のお母さんはまだ帰ってきていなかったはずだ。しかし、いつ帰ってくるかわからない。早めに解決しないといけない。
なんとか身体を押し倒そうとしたけれど、逆に伊織に上から抑え込まれてしまう。詩織はそこまで力は強くないはずだけれど、無理矢理抑え込まれている。
怨霊は火事場の馬鹿力でも引き出すことが出来るのだろうか?ともかく、このままでは骨が折られてしまいそうだ。口から悲鳴がでる。
「このままあんたも殺してやる!」
伊織の目が血走っている。痛みで思考が鈍る。本当にこのまま殺されてしまうのだろうか?私がしたことを考えれば、この死に方も仕方がないのかもしれない。でもやっぱり死にたくない。殺されるなら詩織の方がいい。そんなことを考えてしまう。
「私の居場所は渡さない。死ね」
首を絞められる。息が苦しくなる。意識が消えそうになる。このまま死ぬの…。
タグを追加しました。今更タグを色々いじれることに気がついたアホです。




