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すーぱーすたーまいん

 何とも言えない空気が流れる。麗華(れいか)北野(きたの)さんにしか聞かれていないとはいえ、結構恥ずかしい思いをしながら叫んだのに。


「…あの、来ないよね。何も起こらないよね」

「起こらないね…。もう1度やって」

「うん」


 呪文を確認してもう一度、髪の毛を優香(ゆうか)さんの物にしてもう一度、紙を変えてもう一度、文字を書き直してもう一度、駄目押しで麗華(れいか)優香(ゆうか)さんの髪の毛を両方載せてもう一度それでも成功しない。


「…これ無理じゃない?」

「いやいや諦めないで!私行きたくない家まで帰ったのよ。それにあんたも成功しなくちゃ困るでしょ!もう一度試して」


 それはその通り。何としても成功させないと。

 更に何度か試す。けれど成功しない。もうあきらめようとした頃、麗華(れいか)の髪が青白く光り透けた人が現れた。ようやく、降霊術が成功したみたい…。良かった。でも本番はこれから。上手く交渉しないと。


 段々と輪郭がはっきりとしてきて高齢の女性がはっきりと見えるようになった。麗華(れいか)の方を見ると、頷いてきた。どうやら星花(せいか)さんで間違いないようだ。


 星花(せいか)さんは訝し気に周りを見渡している。呼び出したのはこちらだ。意を決して話しかける。


「すみません。私は」

「すまん。ちょっと待ってくれ。状況を把握している」

「あ、はい。わかりました」


 つい素直に応じてしまった。麗華(れいか)と目を合わせてどうすると聞く。


「待つしかないでしょ」


 そう言われたので待っていると2分くらい経ったところで、星花さんがこちらを向いて話し掛けてきた。


「すまない。待たせた。おおよその状況は把握できた。私は降霊術で呼び出された。次にそれは片桐(かたぎり)の方法で行い、それを指示したのが麗華(れいか)だ。そして麗華(れいか)はもう死んでしまったんだな?」

「その通りです。凄いです」

「まあ私も経験豊富だからな。それで?なんの用で呼び出した?麗華(れいか)の指示で呼び出しているのなら仲は悪いわけではないのだろう?」

「はい。協力しています。私は苦無白(くなしろ)紗月(さつき)といいます。麗華(れいか)さんとは友達です。星花(せいか)さんは力を貸してもらいたい思い呼び出させていただきました」


「ちょっと待て、今せいかと呼んだか?」

「はい。すみません。馴れ馴れしかったでしょうか?」

「そこはどうでも良い。片桐かたぎりが二人いればわかりづらいしな。呼び捨てでいい。読み方が違う。よく成功したな。降霊術は霊の名前を呼ぶことで意思を目覚めさせる。読み方が違うと基本成功しない。私はせいかと呼ばれることも多々あったので何とかなったのだろう」

「読み方違うの⁉」


 麗華(れいか)が驚いている。中々成功しなかった理由もわかった。


「ひいばあちゃんなんて読むの?」

麗華(れいか)知らなかったのか?ショックだ」

「ごめん。でもずっとひいばあちゃんって呼んでいたし、お母さんもせいかって言っていたよ。本当はなんて読むの?」

「すーぱーすたーまいん」

「「え?」」


 二人で驚いてしまった。


「ごめん。ひいばあちゃんもう一度言って」

「すーぱーすたーまいん」


 どうやら聞き間違えではないようだ。開いた口が塞がらない。麗華(れいか)も唖然としている。

 すーぱーすたーまいん。その読み方は予想出来ないって。人の名前には親の気持ちが込められていると思うから余り悪く言いたくはないけれど。これ他の人もそう呼んでいたのかな?恋人とかなんて呼んでいたのか気になってしまう。

 麗華(れいか)もせいか読みが本名だと思うはずだ。そりゃ優香(ゆうか)さんもせいかと呼ぶのも納得してしまう。優香(ゆうか)さんが本当の読み方を知っていないとは思えないので敢えてそう呼んでいた気がする。


 そもそも星に火でなんですーぱーすたーまいんになるんだろう?スターマインは花火から取っているんだと思う。でもスーパーはどこから来たの?そもそもマインって地雷だよね。

 そんな事ばかり考えている星花(すーぱーすたーまいん)さんが話し掛けてくる。


「それで私を呼び出した用は?降霊術で呼び出された場合は2時間くらいで消えるからな。用事があるなら手早く済ませた方がいい。一度呼び出すと、もう一度呼び出すためには2日くらい開けないといけない。それと何故麗華(れいか)は死んでしまったんだ?」


 そう言われて我に返る。降霊術には時間制限があったみたい。なら少しでも早くすべきことを進めよう。2人で説明をする。協力してもらうため、麗華(れいか)の死んだ下りだけ、事故に遭ったと誤魔化した。

 詩織(しおり)の事はシンプルに友達に憑りついている幽霊を何とかしてあげたいと伝えた。


「なるほど。事故か…。若いのになんと言っていいのか…。無念だろう。それで人に融合した幽霊だけを封印か除霊したいと。出来るぞ」

「本当⁉ひいばあちゃん協力してくれる?」

「勿論。麗華(れいか)の頼みだからな。除霊の方が簡単だが、融合しているとなると、素人では難しい。その詩織(しおり)とやらの精神にもダメージが行くかもしれん。封印の方がいいな。手間が掛かるが、ピンポイントで霊だけに効果が出る」


 それなら迷う余地はない。封印一択だ。


「封印のやり方を教えてください」

麗華(れいか)もそれでいいか?」

「うん。それでお願い」


「わかった。じゃあ説明するぞ。封印には幾つか用意が必要だ。まずお札。紙は千円くらいの大きさで白紙であれば何でもいい。ただし、汚れているのは駄目だ。そこに特殊な文字を書くから紗月(さつき)お前の身体を貸してくれ」

「私が書くってことですか?」

「違う。それだと時間が掛かり過ぎるし難しい物を書かなきゃいけない。だから身体に憑依させてくれ。20分くらいで終わる」

「いやでも、それは流石に抵抗が」

紗月(さつき)詩織(しおり)の為なら?」

「…何でもします。わかった。貸します」


「良し。次は片桐(かたぎり)の者の血だ。ほんの少しあればいい。麗華(れいか)は死んでしまったようだから優香(ゆうか)の血だな。それを手に入れてくれ」

「え?いやそれは難しいよ」

「何とかしてくれ。ほんの少しあれば後は他の人の血で水増し出来るが、ゼロだと無理だ」

「もう一度家に戻るって事?そうなると今日は無理だよね。再度呼び出せるのが2日後だし起源に間に合わない」

「その血って液体でなくても大丈夫ですか?大丈夫なら何とかなると思います」

「本当?」

「うん」

「よくわからんが、成分があれば大丈夫だろ。多分。試してみろ」


 一つ当てがある。無理なら何とか優香(ゆうか)さんの血を手に入れよう。


「まあ、その方法で効果でなければ、事前にコピーしておいてまたすればいいから何とか優香(ゆうか)の血を手に入れろ」

「え?コピーで使えるの?そんなんでいいの?」

「そりゃ別に魔力とか霊力込めて描くみたいな訳じゃないからな。一度書けばコピーして使いまわせる」

「すみません星花(すーぱーすたーまいん)さん。それってもしかして、降霊術も家伝の書のページをコピーすればそれで出来ましたか?」

「出来るぞ。そもそも家伝の書のページでも出来る。一度使えば出来なくなるなんて事ないからな。まあ、封印のお札は血で汚れるから替えた方がいい」


 嘘でしょ…。凄いショックを受ける。一回書くのに30分以上掛かっている。それに正確に書かなきゃいけないと思って物凄く神経を使っていた。あの苦労は何だったんだろう。

 ともかく割と簡単にやり直せるようだ。一先ず安心した。家の押し入れからコピー用紙を持ってくる。裁断機で大きさを千円札くらいに加工する。


 星花(すーぱーすたーまいん)さん曰はく、多少のずれや大きさの違いは気にしなくていいそうだ。霊に干渉する儀式をするのだから、もっと厳密で繊細なものかと思っていたけど、かなり大雑把でいいみたい。多すぎるかもしれないけど、20枚くらい用意した。

 書くものは消えなければ何でもいいとのことなので油性ペンを用意した。


「あの、封印を解く場合はどうすればいいですか?」

「あんた封印を解く気があるの?」

「場合によってはね。あの伊織(いおり)あれでも一応詩織(しおり)を守っているようだし。ある意味一番詩織(しおり)の近くにいるのは伊織(いおり)だから、もしもの時は守ってもらえるかもって」

「無理でしょ。仮に自由に封印解けたとしても、近くに居なきゃ意味ないだろうし」

「まあ、確かに」

「いや、そんな事ないぞ」

「そうなの?」

「ああ。封印はした奴、正確に言うとお札に血を入れた奴ならいつでも解けるし、再封印することもできる。仮に麗華(れいか)の血が入れられれば幽霊になった麗華(れいか)でも出来る。それに、封印する際に色々と条件を付けることも出来るぞ。例えば、その友達の身に危機が迫った時のみ封印が解けるとかな」

「そんなに、都合よく色々と出来るんだ」

「出来るぞ。まあ、条件は色々とつけてもなんだかんだ想定外の事が起きて余り上手くいかないもんだが。条件を付ける時は、お札を使った時に言えばいい。使うと一時的に霊は動けなくなるからそのタイミングでな」

「そうなんですね。血を入れた人が自由に封印を解けるなら何人もの血を混ぜた方が後々便利ですね」

「いや、余り多くの人の血を混ぜると力が弱まるな。手に入る片桐(かたぎり)の血の量によるがせいぜい3人が限度だろう」

「わかりました」


 そういうことなら、私だけにした方がよさそうだ。私の考えている片桐(かたぎり)の血を入れる方法では少量しか入らないから。


「それじゃ紗月(さつき)身体を借りるな。なに、私が触れた時、違和感があるだろうが抵抗しなければ身体に入れる。意識は無くなるが気にしないでくれ。すぐ終わる」

「わかりました。お願いします」


 星花(すーぱーすたーまいん)さんが私の身体に触れる。すると、自分の中に何かが入ってくる気持ち悪い感覚が身体を駆け巡る。何とか我慢していると不意に意識が途切れた。


「あんた。大丈夫⁉終わったよ!起きて!」


 麗華(れいか)の声で目を覚ます。どうやらリビングのソファーに横になっていたようだ。2人にのぞき込まれていた。少し恥ずかしい。


「気分はどうだ?霊が身体に入ると気分が悪くなることがあるからな」

「ちょっと頭が痛い気がしますけど、それ以外は大丈夫です」


 時間を確認すると確かに20分くらい経っていた。


「そのくらいなら大丈夫だろ。お札の方は出来ているぞ」


 机の上を指で指される。見るとお札が置かれていた。何と書いてあるかわからない文字と、変な記号が書かれ、線で囲まれている。こんな複雑な物を手書きしたのか。凄いなあ。


「ありがとうございます!」

「気にするな。それをコピーして使いまわせばいい。真ん中に片桐(かたぎり)の血を垂らせばお札が白く光る。そうなれば成功。血は2、3滴分くらい必要だが、さっきも言った通り全てが片桐(かたぎり)の血である必要はない。用意できなかった分は他の人の血で補うといい。後は霊に向かって使えばいい。本来なら霊を相手するのにも経験がいるが今回の場合は人に憑いているようだからその詩織(しおり)とやらに貼れば封印出来るはずだ。上手くいくことを願っているぞ。そろそろ時間だからお別れだな。麗華(れいか)が死んでしまったことは残念だが、また会えて良かった。麗華(れいか)は霊感が無いようだから、家業を継ぐことはないと思っていたがまさかこんな形で力を使うことになるとは」

「ひいばあちゃんありがとう。もう一度会えて嬉しかったよ」

星花(すーぱーすたーまいん)さん。本当にありがとうございました」


 星花(すーぱーすたーまいん)さんは光となって消えていった。時間はもう22時を過ぎている。でもこれからもう一仕事しなければいけない。頑張ろう。


すーぱーすたーまいんがルビの制限10文字ぴったりだった時、一人で喜びました。

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