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麗華の部屋へ

案内された麗華(れいか)の部屋は2階だった。幸い優香ゆうかさんは案内を終えると一階へ降りて行った。


 部屋に入ってすぐ事前に決めていた資料集を手に取る。本棚にあることも、名前を書いていないから貸したと言い張れることも麗華(れいか)から聞いていた。

 もっともこちらは優香(ゆうか)さんを欺くための物で本命は別だ。ドアが閉まっていることを確認してから床を這い髪の毛を探す。


 優香(ゆうか)さんに見られたら絶対に怪しまれるので、麗華(れいか)に見張ってもらっている。私の声が聞こえるように完全に外には出ずドアを透過しているので少し不気味だ。具体的に言うと顔だけが廊下に出ている。


 何か軽口でも叩くかと思っていたけれど、麗華(れいか)は静かだ。お母さんとのことで思うことがあるのかもしれない。余り長いと怪しまれるので慌ただしく探した。結果数本見つけることができた。安心した。持ってきていたチャック付きポリ袋に入れる。麗華(れいか)にあったよと声を掛けた。


「そう。良かった。これで出来るね」

「うん。見張りありがとう」

「どういたしまして。あ、栞」

「え?詩織(しおり)?」

「ごめん違う。本に挟む栞の事」

「そう。栞がどうかしたの?」

「持ち帰って欲しい栞があるの。私のだから親の事は気にしないでいい」

「わかった」


 そういうことなら問題ないだろう。重い物でも目立つ物でもないし。


「机の一番上に入っている。鍵は本棚に隠してある」


 私が子どもの頃使っていた勉強机に似たものだ。一番上の引き出しにだけ鍵が掛けられるようになっている物だ。私の物も同じだった。

 麗華(れいか)の言う通り、漫画の裏に少し隠すようにして鍵が置いて合った。それを使って引き出しを開けるとアルバムやキーホルダーが入っていた。そして栞。随分と色あせており、どういう柄かもよくわからない。かなり使い込まれているようで端がボロボロになっている。それでも続けて使っていたようでラミネートをしてある。本当に大切な物みたい。私にここまで思い入れのある物はない。少し尊敬する。


「これでいいの?」

「それ」

「栞以外はいいの?鍵掛かった所に入っていた物は大切なんじゃない?」

「まあ大切だけど、栞だけでいい。この部屋もいつかは片付けられるでしょ。それだけは捨てられたくはないから」

「わかった」


 何となくだけど、引き出しに入っている物は詩織(しおり)に関係する物の気がする。麗華(れいか)が大事に保管している物なのだから。まあ、私が踏み込むべき事ではないだろう。鍵を閉め元の場所に戻す。栞は財布にしまった。


「あ、…あいつが来たみたいよ」


 丁度いいタイミングで優香(ゆうか)さんが来たようだ。私はドアから離れ、資料集を確認する振りをした。ドアが開き、優香(ゆうか)さんが入ってきた。


「どう?見つかった?」

「はい。見つかりました。ありがとうございます」

「いいのよ。元々あなたの物なんでしょ?これ良ければ使って。家にあった紙袋。漫画を持って帰るのに使って。返さなくていいから」

「ありがとうございます。使わせてもらいます」


 漫画は11巻まであった。持って帰れないほどではないけれど少し重そうだ。

 紙袋は丈夫そうなものを選んで持ってきてくれたみたい。気を付ければ破けることはなさそうだ。


 帰る前にトイレを貸してもらい優香(ゆうか)さんの髪の毛も探す。こちらは麗華(れいか)の髪の毛で上手くいかなかった時の保険だ。幸いすぐに見つけることができた。これで用事は済んだ。帰らせてもらうことにする。


「ありがとうございました。長々とお邪魔してしまってすみません。漫画ありがとうございます。大切にします」

「気にしないで。元々麗華(れいか)が返さないのが悪いんだし。漫画はもう誰も読まないから」


 そう言いながら煙草を咥ええ火を付けようとした。


 このまま帰ることは出来るけれど…。


「すみません。失礼を承知で言わせてください。煙草控えた方がいいと思います」

「え?」

麗華(れいか)が前に言っていました。お母さんが煙草を吸いすぎていて心配だって」


 私がしたことを考えれば、麗華(れいか)優香(ゆうか)さんに言いたいであろうことを伝えるくらいはするべきだろう。自己満足に過ぎない事はわかっているけれど。


「あの子そんな事友達にまで言っていたの」

「本当にすみません。いきなり訪ねてきた上、こんなことを言って」


 怒られるとも思ったけれど、優香(ゆうか)さんは穏やかに言った。


「そうね。気にしないで。ありがとう。気を付けるわね」


 もう一度失礼な事を言ったことを謝り、『お邪魔しました』といって玄関を出る。優香(ゆうか)さんは外まで着いてくると最後にこう言った。


「あんたさ、もしよければまた来てくれない?いつでもいいからさ」


 驚いたけれど、急に麗華(れいか)が居なくなって寂しいのかもしれない。それに麗華(れいか)の話も聞きたいのだろう。麗華(れいか)を殺したのは私ではないけれど、死体を消し二度と見ることができないようにしたのは私だ。そのくらい付き合うべきだ。


「わかりました。また来させてもらいます」


 そう答えた。そしてこの言葉通り私はまたこの家を訪ねる事になる。詩織しおりと一緒に。


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