詩織→伊織
翌日午後。約束通り15時少し前に詩織が来た。
ひとまず部屋に招き入れて雑談をしながら宿題を進める。丁度いいからアロマも焚いておく。私は平静を装いながら、いつ詩織の中の何かが姿を現すかと不安になっていた。
麗華も少し不安そうに部屋をウロウロしている。リビングでは北野さんと田原さんが待機していてくれている。リビングは1階なので少し遠いけれど、詩織は凶器を持ち込んでいないだろうし、詩織の中の何かをあまり刺激しないようにと考えた結果だ。
盗聴器がある事は詩織には悪いと思うけれど、詩織の為でもあるし許して欲しい。心の中で謝っておく。
この部屋の声は2人の耳のスピーカーにリアルタイムで聞こえている。
1時間以上過ぎ姿を現すつもりはないのではと思い始めた頃、詩織が突然うとうとし始めた。眠いのと声を掛けようとした瞬間、机に伏して寝てしまった。
と思ったら次の瞬間目を開き私のベッドに移動し、話し掛けてきた。
「あんた達さあ、本当に迷惑なんだけど。なんなの?」
この口調は明らかにいつもの詩織とは違う。それに達と言っている事は麗華の事も認識している。
「えっと、あなた詩織の中にいるもう一つの人格的な人?幽霊?でいいんだよね?」
「そうよ。とにかくもう私の詩織に付きまとわないでもらえる。迷惑」
「あんたなんて呼べばいいの?」
「あんた達に名前なんて呼ばれたくないんだけど」
「じゃあ、あんたの事はゴミとでも呼んでいい?」
そいつはチッと舌打ちした後、伊織と名乗った。
「伊織さん。あなたは詩織のもう一つの人格なの?それとも憑りついている幽霊?」
「あんた達に答える義理はない」
「一応話し合いの為に呼んだんだけど。話し合いが無理なら私は姿を詩織に見せるけど。詩織を追いつめたい訳じゃないでしょ?」
「あんた達本当に面倒くさい。はいはい。しょうがないからあんた達の話を聞いてあげるわよ。さっさと終わらせて」
「じゃあまずはあんたの正体」
「はいはい。どっちもよ」
彼女?の話を纏めるとこういうことらしい。伊織は元々は幽霊だった。生前の恨みから怨霊と化し彷徨っていた。最も既に何の恨みを抱いていたかは忘れてしまったそうだけれど。
そんな時たまたま波長の合う詩織を見つけ憑りついたとのことだ。そしてずっと憑りついている内に詩織と一体化し、もう一つの人格のようになったということだ。
「最初はね、その内身体を乗っ取って自分の物にするつもりだったのよ。でもねでもね、一緒に過ごしている内に私は詩織と一生一緒に居たいと思うようになったの。私が詩織に憑りついたのは偶然じゃない!運命だったのよ!」
「思考がヤバイ」
「うるさいうるさい!詩織を刺そうとしたあんたには言われたくない。そもそもあんた達おかしいのよ。幽霊女はなんで幽霊になっているの?後、あんたの使った薬はなんなの?」
「まあ取り合えず、あなたの事は名前で呼ぶから伊織さんも私たちの事も名前で呼んで。それでこっちの事情はともかく私たちは平和的な解決を望んでいるの。詩織の事を考えると今離れることは得策だとは思えない」
「あんた達勘違いしていない?私は詩織と一緒に居られればいいのよ。ていうか2人だけでいたい。だから最悪刑務所でもいいの。あんた達が手を出せないことを考えればそれもいいかも」
「本気?」
どうやら伊織はこちらが考えているより相当ヤバイ奴のようだ。色々と破綻している。
「あのさ誇張抜きで今紗月が詩織の元を離れるのは問題あるわけ。詩織は精神的に立ち直れていない。まだ紗月が必要。それに刑務所に入ることはない。私の死体はもうない。証拠もね。そもそも刑務所に入ろうが私は入れる」
「うるさいわね。私はとにかく私の詩織に付きまとわないで欲しいの。そのために、詩織がストーカー被害に合ったように見せてあんた達から離そうとしたのに。死んでからも付きまとってくるなんて迷惑」
「やっぱりあんたの仕業だったんだ。私たちはあんたにいいように踊らされていたわけだ。詩織が紗月の事ストーカーじゃないかって呟いた時ももしかしてあんただったの?」
「そうよ、良い様。理想は詩織があんた達を怪しんで離れる事だったけれど、あんた達の事全く疑ってなかったから。だから、麗華を使ってあんた達が共倒れになるように仕向けたんだけど全然上手くいかなかった。それどころか、麗華が幽霊になって見に来ていたのは引いたわ。麗華が刺しに来た時にはいい機会だと思ったのよ。本気で刺そうとしていないことは分かっていたし。だからこっちから殺したのに、死んだあと幽霊になるなんていい迷惑。常に、つ・ね・に!付きまとうようになって嫌で嫌で仕方がないの。寝ている時まで見ているし!しかもその後、詩織は紗月と今まで以上にべったりになるし」
「伊織さんは詩織のことが大切なんだよね?それなら私たちは協力できると思うんだけどどうかな?」
「さっきも言ったよね?私は詩織を独占したいの。あんた達と協力なんてまっぴらごめん。そもそも近づかないでって言っているでしょう。いうこと聞かないならこっちにも考えがあるわよ。詩織が寝ている間に色々と細工をして、麗華が恨みで怨霊になったことにする。それなら精神的に追い詰められるでしょ」
「止めて。詩織を追い込むな」
「じゃあもう近づかないで。譲る気ないから。もう呼び出そうとしても無駄よ。無視するから。期限は3日後ね。今日以外に後3日も会える日をあげるんだからちゃんと別れなさいよ」
そういうと伊織は一方的に話を打ち切った。詩織の身体はゆっくりと倒れていった。ベッドに移動したのはこれを見越してのことだったようだ。寝息を立てている詩織の肩を叩いたところ目を覚ました。不思議そうにこちらを見てきている。詩織のようだ。
「あれ、紗月?なんで私ベッドにいるの?私もしかして寝ていた?」
「うん。急に眠くなったって言ったからベッド貸したんだよ。うとうとしていたから覚えていないんじゃない」
本当の事は言えないので誤魔化す。
「嘘!恥ずかしい。ごめんね」
「気にしなくていいよ」
その後、宿題を終わらせて17時前に別れた。またねと約束したけれど、伊織の事もある。どうなるか。早めに解決しないと。




