脅迫状1
新学期が始まって10日。三年生にも慣れて来た。
下校時間になり、玲奈の『宿題が多すぎる‼』という恒例の叫びを聞きながら教室を出る。いつも通り詩織(ついでに麗華)と雑談をしながら家に帰った。
ここ最近詩織は明るく振舞っているけれど、何かを考え込んでいるようだ。少し心配になってしまう。明日私の家で一緒に宿題をする約束をして別れる。
家に帰ると北野さんが手紙を持って待っていた。何故かゴム手袋をしている。何事?
「お帰りなさいませ。紗月様にお手紙が届いています」
「ただいま。ありがとう。手紙ならいつも通りリビングにでも置いておいてくれれば大丈夫ですよ」
「普通の手紙であればそうしますが、この手紙は宛先が書いてありません」
「…ちょっと怖いね。一緒に見てもらってもいい?」
「勿論です。金属探知機や赤外線の検査、毒の検査は済ませてあります」
「そ、そんなことしたの?」
「当然でございます。この家に届く荷物や手紙は全て検査しております」
「知らなかった」
リビングに座り、北野さんも隣に座ってもらう。私も渡されたゴム手袋をはめ、鋏で封を切ると一枚手紙が出てきた。中身はそれだけだった。開くと手書きでこう書いてあった。
『鈴原詩織と離れろ。お前達は詩織を苦しめている。これ以上付きまとうようであれば、片桐麗華が死んだこと及び死体を処理したことを周囲にばらす。片桐麗華が幽霊になって四六時中付きまとっていることも見えている。そちらも即刻辞めろ。こちらは本気だ』
困惑した。手紙に書かれている内容をどうやって知ったのか?何故詩織と離れることを求めているのか?何故麗華が見えているのか?頭の中で考えがグルグルと周り纏まらない。固まっていると北野さんが話始めた。
「色々と不自然な内容ですね」
「え?」
「困惑されていますね。落ち着いて考えてください」
「ごめん。頭が回らない。教えてもらっていい?」
「承知いたしました。一つ目は紗月様の使用した薬についての事や苦無白家について書かれていないことです。死体を処理したのは麗華様が死んだ当日です。その為、処理をした事を知っているのであれば、薬の事も把握しているはずです。にもかかわらずその事に言及しておりません。こちらに触れた方が脅しになるでしょう。つまり薬についてどういうものか把握しきれてない、見ていてもそれの出所が分かっていないということになります。その上で薬の事に触れれば逆鱗に触れるという事は把握しているのでしょう。二つ目は詩織様に対する対応です。詩織様の身を案じているように書かれていますが、現在詩織様の精神を支えているのは紗月様です。それなのに、離れろという要求は矛盾しているように感じます。今の状態で紗月様が詩織様のから離れるメリットが分かりません。同様に、詩織様を見守っている麗華様を引きはがすことは得策とは思えません。三つ目に幽霊が見えていることです。幽霊は本来よほどの霊感がないとみることができません。また、詩織様の側にいることも見えているようです。学校にも着いていっているとお聞きしていますが、それだけでは四六時中憑いているとは言えないでしょう。家でもいる事を把握していると考えるべきかと」
「なるほど」
「また、手紙の主は裏の事には詳しくないようです」
「理由は?」
「手紙の主を特定する為の要素が多すぎます。匿名で出す意味が分からないほどです」
「そうなの?」
「はい。まず普通に郵便局を使用しています。苦無白の力を使えば誰がいつ出したのか今日中にわかります。また、手書きの為、筆跡の鑑定ができます。裏の情報は警察以上です。指紋も同様です。恐らく付いているでしょう。ゴム手袋をしていただいたのは、出来る限り指紋を付けないためです。こちらも今日中に調べることができます」
「怖いなあ」
思っていたことがつい口から出てしまった。私の家は想像以上に裏で力を持っていたようだ。少し引いてしまう。
「調べてもよろしいでしょうか。料金については気にしなくていいと奥様より言われております」
「お願いします。筆跡と指紋はどうやって調べますか?」
「そちらについては既に指紋と筆跡物を用意してございます。後は、紗月様の許可がいただければ直ちに動きます」
「わかりました。調べてください」
「承知いたしました」
どうやら母には既に連絡をしているみたいだ。準備が良すぎて引くけれど、何はともあれ相手は調べてもらった方がいい。相手が分かれば対策が取れる。
幸い今日は麗華が詩織の様子を報告に来る日だ。麗華にも相談しよう。北野さんは電話で何処かに連絡を取っている。手紙の差出人を調べるよう依頼してくれているのだろう。変な機械で封筒と手紙を照らしている。指紋でも検出しているのだろうか。写真を撮って送る。電話を終えた北野さんが話しかけてくる。
「早急に動いてもらうようお願いしました。今日中に結果の連絡が来るはずです。麗華様とは次はいつコンタクトを取られますか?」
「早いね。2日ごとに詩織の様子を報告しに来てくれる。丁度今日来るはず。だいたい22時過ぎにくる」
詩織は寝るのが早く21時過ぎには寝る。麗華は寝た後こっちに来るため、22時過ぎてしまう。今のところ詩織の様子は安定しているため、そこまで長い話でもない。それでもなんだかんだ雑談をしてしまい、30分近くたってしまう。2日に一度はなかなかきつかった。
「承知いたしました。その際私も話し合いに参加してもよろしいでしょうか」
「わかりました。お願いします。ただ麗華が姿を見せるかは彼女の判断次第ですけど」
「それは仕方ありませんね。22時過ぎということはまだ時間がありますね。一先ず夕食にいたしましょう。」
「18時過ぎてしまうけど、大丈夫ですか?」
「こういった際は時間に関係なく対応いたします。そういう契約になっていますし、その為に通常よりはるかに高い給料を頂いております」
「そうなんだ。じゃあお願いします」
確かに参加してもらった方がよさそう。彼女は事情を知っているし、裏の事も詳しい。




