好きな人が人を殺した1
とは言っても私が殺したわけじゃない。
「紗月どうしよう…どうすればいいの…なんでこんなことに…」
そう呻くように呟きながら死体の前でへたり込み泣いているのは鈴原詩織。私の同級生にして一番の親友だ。そして私の片思いの相手である。
目の前で死んでいるのは片桐麗華。彼女も同級生だ。ただし、クラスは違う。彼女は詩織のストーカーだった。証拠はないけれど。彼女の心臓近くには深くナイフが刺さっており息はしていない。顔は青白くなっており、血の気が引いていた。
一応脈を測ってみたけれど、ない。ちゃんと測れる自信はなかったけれど、何も鼓動を感じなかったから流石に無いのだろう。まだ冷たくはなっておらず、なんとも言えない感覚が手に残る。息もしていない。詩織に確認すると、刺してから2時間近く経っているとの事だ。流石に死んでいるだろう。
麗華は詩織の家のリビングに倒れていた。私は今日詩織の家に泊まる予定だった。今日は三月の最終週。高校2年生の春休み最後の思い出づくりとして企画したお泊り会だった。
詩織の家も私の家も明日まで両親がいない。私の姉は大学2年生から一人暮らしをしている
二人だけで過ごせる丁度いい機会だった。お手伝いさんには両親には伝えていると嘘をつき準備をしてきた。ついでに明日の帰りは遅くなるので来なくて大丈夫だと伝えた。雇用契約では何日休んでも料金が変わらないと母が言っていた。
それで約束の時間に詩織の家に行ったところこの状況に出くわしたということだ。明りが点いているのに何度チャイムを押しても反応が無い。おかしいと思い、スマホに電話を掛けると、電話には出なかったけれど玄関が開いて詩織が出てきた。詩織の手から袖に掛けて血がべったりと付いており、服もよく見ると血が付いている。明らかに尋常ではなかった。
慌てて話し掛けも反応せず、詩織はフラフラとリビングまで歩いていった。
私は一先ず着いて行った。そして死んだ麗華を見ることになった。
詩織は無意識だったらしく、そこで初めて私に気が付いたようで『紗月!なんでここに…』と驚いていた。
どうすればいいのと泣きじゃくる詩織を宥めながら話をまとめるとこういうことらしい。
15時頃突然彼女が訪ねてきた。少し驚いたけれど友達だからと家に上げ、リビングでジュースを出したそうだ。それで何の用か尋ねたところ私と別れろと難癖をつけてきたらしい。一応言っておくと、私と詩織は付き合ってはいない。
それで口論になり、口論とはいっても殆ど麗華が一方的に攻め立てきていただけらしい。詩織が何も言わずに困っていると、突然ナイフを出してきたとのことだ。
刺そうとしてきた彼女を何もせず何も出来ず、眺めていた所、気が付くと刺してしまっていたとのことだ。ただし、その瞬間は恐怖で憶えていないらしいが。
刺した次の瞬間ハッとし、麗華を助けようとしたけれど、既に息をしていなかったらしい。そこで、座り込んでしまった所までは憶えているけれど、その後は何も憶えておらず気が付いたら私がいたという事だ。
現実を受け入れられず、目の前の出来事を無意識に拒否したのだろう。無理もない。
私は母から家が殺し屋だと聞き、いざとなったら殺せるでしょと言われた時、心の中ではその通りだと思った。
母の見立ては間違っていなかった。私はこの状況で死体を消すことを考えていた。
殺すと死体を処理するは違うけれどどちらも倫理的に欠落している行いであることは違いない。