協力しましょう
電話を終えると、麗華が睨みながら話し掛けてきた。
「さっきの電話何?脅しのつもり?これがあんたの言っていた大事な話ってわけ?」
「違うよ。あれは保険が欲しかっただけ。それに除霊師とかに伝手があるかどうかは知らなかったから」
除霊師自体は麗華の家系がそうと言っていたからいると思ってはいた。母が繋がりを持っているかは賭けだった。
「じゃあ何の用?」
「あなた私のことストーカーって言っていたよね」
「当り前よ。だって事実でしょ?」
「違う。私はそんな事はしていない」
「誤魔化すつもり?」
「していないって。私はあなたがストーカー行為をしていると思っていた」
「は?そんな事をするわけがないでしょう?」
「私もね」
詩織はストーカー行為を受けていた。といっても証拠があったわけじゃない。ストーカーというよりオカルト現象に近い気もするけど、そんなもの信じてはいなかったし。他に適切な言い方も分からなかった。
詩織の話だと、半年くらい前から目が覚めると部屋の物が少し移動している事がある。ときどきどこからか視線を感じる事がある。そういう小さい違和感が積み重なっていったらしい。ただし、いくら確認しても周りには誰もいないし、家の防犯カメラにも誰も映っていなかったらしい。
これらの事はたまにしか起きていなかった。
詩織も最初は気のせいだと思っていたらしいが、何度も繰り返し起きると不安になり、私達に相談してきた。自意識過剰なのかと悩む詩織にそんな事は無いよと慰めながら相談に乗っていた。しかし、私も麗華も解決策がなかった。現状では、警察に相談してもどうしようもないし。
でも、勝手に麗華がストーカーではないかと思っていた。他に思い当たる人がいなかった。勿論、証拠はない。
「もう一度言うけど、私はあなたがストーカーだと思っていた。証拠はないし、方法もわかっていなかったけれど、他に思い当たる人はいなかったし。昨日幽霊として出てきた時は納得したんだよね。こうやってストーカーしていたんだって。でも、あなたと話して様子を見ていて詩織の事を傷つけるようには見えなかった。幽霊だと物に触れないらしいし。まあ、刺そうした事は別ね。あなたは何故私がストーカーだと思っていたの?」
「詩織の周り見ていたけど、怪しい人なんていなかった。だから、一番近くにいるあんたが詩織を不安にして独占するためにしているんだと思っていた。それに、霊体化して詩織を眺めていた時、紗月がストーカーなのかなって呟いていた事があった。私も、方法なんてわかっていなかったけど」
「私じゃない。絶対に。詩織が何でそんな事呟いたかは分からないけど、私はしていない。なんかやっぱり、あなたがストーカーの気がしてきたんだけど。幽霊になれるんだから、私の事も見ていれば良かったじゃん。それなら私がしてないってわかる」
「違うってば。あんたも詩織も私の事見えていなかったし。そもそも、私が霊体化できるようになる前から起きていたし。私はストーカーを見つける為に霊体化したの。昨日言った通り、霊体化すると疲れるんだって。だから長時間していたくなかった。詩織以外のことなんて興味なかったし。あんただと思い込んでいたし。私が血の霊約をしようと決めたのもあんたから守らないといけないって考えたからだし。ストーカーっていつエスカレートするかわからないじゃん」
「あっそう。とにかくあなたがストーカーじゃないんだよね。それを確かめないと、次の話に進めない」
「だから違うって」
「じゃあ次の話ね。私はあなたが死んだからストーカー行為がこれでなくなると思っていた。でもあなたがストーカーじゃないなら、この問題は解決していないことになる」
「…確かに」
「そこで相談。協力しない?私は詩織の事をずっとは見ていられないけれど、あなたは見ていられる。あなたは詩織に姿をみせられないし、犯人に触ることもできないけど私ならできる。それにこのストーカー行為は誰も確認できていない。あなたみたいな超常現象が関わっている気がする。これが私の言った大事な話」
「なるほどね。さっきの電話は断ったら消すって脅しだったわけだ」
実のところ私は除霊の方法がなくてもどうにかなると思っていた。現状実害は無理矢理起こされたことだけ。周囲に姿を現す可能性は低い。
周りに姿を出せばいずれ詩織の元に話が行く。そうなれば罪の意識から追いつめられる。だから、まず言わない私にしか姿を見せない。それに、詩織に言うと脅せば言うことを聞くはず。この手はあまり使いたくないけれど。
「まあね。後はあなたがストーカーだった時に消せるように。こっちの考えは話したよ。どうする?」
麗華は少し悩んでいるようだったけれど、私は答えを確信していた。
何故なら麗華は詩織に一生会えなくなる事、話をする事が出来なくなる事を覚悟をして守ろうとするほど詩織の事が好きだし、殺されても幸せと言い切るほどに愛しているから。
「わかった。あんたに協力してあげる。確かに言われてみたら、普通の方法でしているとは思えないし。それなら、あんただけじゃ手に負えないでしょうね。でも、あんたの事も監視しているから。もし、あんたがストーカーだったり、変な行動したら除霊される前に何としてでも周りにばらすからね」
「勝手にどうぞ。一応言っておくけど私もあなたの事を完全に信じているわけじゃないから」
「まあそれはそうか。とりあえず私は様子を見ていて何かあれば知らせに来ればいい?」
「うん。緊急なら何時でもいいから」
「当然。あんたの事は気にしないから」
「それと、数日ごとに詩織の様子教えてくれない?」
「わかった。2日ごとでいい?」
「いいけれど、間隔短くない?」
「最初の内はこまめに報告するから、状況に合わせてサポートしてもらった方がいい」
「わかった。そうしよう」
こうして私は麗華と協力関係になった。
やっと協力する所まで来れました…。思っていたよりもずっと時間がかかってしまいました。




