麗華との話2
「あんた、アロマ焚かなくていいの?」
「うわ、びっくりした!急に話しかけてこないでよ」
「あんた本当にどんな神経しているの?私の事見えていても完全に無視しているし」
なんか麗華が失礼なことを言っているけれど、確かにアロマは焚かないと。麗華はどうやら昨日の母との会話を聞いていたらしい。詩織に許可をもらい忘れたけど、寝始めたばかりで起こすのも悪い。一先ず勝手に焚かせてもらうことにする。焚くとほんのりとラベンダーの匂いがする。いい匂いだ。
「あなた、何時から私の事見ていたの?というかいつ幽霊になったの?」
「幽霊になったのは死んでから3時間くらいたってからだったはず。最初の方は私も状況把握に忙しくて時間なんか気にしてなかったから多分だけれどね。あんた達が死体を処理していたのも見ていたよ」
「確かに死体処理していた事、知っていたね。幽霊になったときは姿現すとか考えなかったの?そもそもなんで昨日の夜に姿を見せてきたの?詩織に姿を見せていないのは何で?」
「だって、詩織凄く怯えていたし、姿見せたら大変なことになるでしょ?だから今も姿を見せてないの」
「それは確かに。その方がいいね」
「昨日の夜まで出てこなかったのは、あんたが明らかにおかしかったからよ。死体を平気で処理するし、変な薬を使っているし。だからあんたの事調べようと思ったの。それで家まで着いていって、お母さんとの話を聞いていたの。思ったよりすぐわかってびっくりした。後は、あんたとあんたの家族に気を使っていたのよ。家族の前で現れたら驚いて変な反応とかするでしょ普通。そしたら心配されるでしょ」
「気を使ってくれていたんだ…。優しいじゃん」
「そうよ。感謝しなさい」
「ありがとう」
「素直ね」
「私はいつも素直よ」
「はいはい。あと、あんたがずっと平然としていたことに引いていたわ。死体の処理も平気でしているし。その後、動画見ているし。しかもアニメとはいえ死体出てくる探偵ものだし。お菓子食べているし。実家が特別なのかと思ったけれど、あんたは今まで何も特別な体験していたわけじゃないんでしょ?」
「余計なお世話。音楽聞くけどいいよね?」
「別にいいけど、音量小さくしなさいよ。詩織寝ているんだし」
「当然」
私はスマホをいじり、音楽を流すことにする。詩織が寝ているので快眠系を探す。『カクテル・ミュージック』からなにか探そう。
カクテル・ミュージックとは最近流行っている音楽のジャンルだ。フリーの音源を組み合わせ新しい音楽を作るというもので、アプリを使い素人でも簡単に作曲出来るということで爆発的に流行った。音を混ぜるからカクテルということらしいけれど、実際には混ぜているのではなく組み合わせているのだからパッチワークの方が正しい気がする。
私も詩織に誘われて一度作ったことがあったけれど、全然だめだった。大体が動画配信サイトかSNSで配信されている。
聞く専用のアプリもあり、最近では人気のクリエイターは広告で収入を得ているそうだ。聞く分には無料なので助かる。ちょっと広告が多いけど。アプリを使えばジャンルごとに検索できる。大量にあるから適当に聞いていればいいのがあるだろう。
「カクテル・ミュージックから探すの?」
「勝手にのぞき込まないでよ。そうだけど」
「快眠系探すのね。詩織寝ているからか」
「だからのぞき込むなって」
「それならNO.495568で検索しなよ。最近一番人気のやつ」
「そうなんだ。詳しいね」
言われた通り、検索してかける。ゆっくりとしたテンポの曲が流れ始める。曲の良し悪しはよくわからないけど確かに寝るときに鳴っていても不快にはならない気がする。
「私が作ったやつだし。これでも結構人気のクリエイターなのよ。知らないでしょうけど」
止める。
「止めるなよ。詩織のためにかけているんでしょう」
それを言われると弱い。仕方なく再生を再開する。
「そういえば、さっきの話をしていて思い出したんだけど、お母さんが言っていた防犯カメラの件必要ないわよ。詩織の家までの道筋のカメラには映っていないから」
「どういうこと?」
「死ぬとは思っていなかったけど、最悪の事態が起きた時の保険は掛けていたの。だから詩織の家とは違うあらぬ方向に行って、わざとカメラに映るように行動してから、誰にも見られてない所で霊体化して行ったの。ついでに言うとこの家の防犯カメラを壊したのも私。3日前に霊化して家まで行って上から現れて、防犯カメラに衝撃を与えたの。だから姿も映っていないはず。まあ壊れているかは賭けだったし、壊すのは悪いと思ってはいたけど。スマホや財布も別の場所に隠してある。ついでにそこに家出するという文章も置いてある。バイトも少し前に辞めた。だから騒ぎになっても、誘拐とかじゃなくて家出扱いになると思う。終わったら取りに行くつもりだった」
「なるほどね」
防犯カメラのこと、母になんて言おう。素直に言って信じてもらえるだろうか?
いやそもそも麗華の事伝えるべきじゃないか?
「どうせすぐ捜査が始まることはないだろうし、始まってもばれないわよ。だから詩織には安心して欲しいんだけど…。難しいよね」
「そりゃね。捜査がすぐに始まらないってどういうこと?家族心配するでしょ?警察に相談するだろうし」
「しないわよ。あいつら私がいなくなっても気にしない。多分死んでも行方不明でもね」
麗華の家が相当ひどい環境だとは噂できいていた。それでも居なくなっても気にしないとは聞いていたより相当ひどいようだ。
「そうなんだ。なんかごめん」
「別にいいわよ。気にしてないし」
「それはそうと私も寝ていい?」
「は?」
「あなたのせいで寝不足なんだよね」
本来なら詩織がいつ起きるかわからない状況で寝ることはしない。うなされて起きるかもしれないからだ。そうなった時に、すぐ慰めることができないのは困る。でも、今は私だけに聞こえる目覚まし時計代わりがいる。
「詩織が起きそうになったら起こして。それか誰か来そうになったら」
「あんた、私がそんなことするとでも?」
「してくれるよ。詩織の為だもの。一応言っておくけれど、もし断ったり寝ている間に昨日みたいなことしたらこの家出ていくから。詩織が起きた時、一人ならどうなるかな?」
「あんたはそんなことしない」
「どうでしょう。試してみる?」
勿論、そんなことはしない。でも、脅しにはなる。
「わかったわよ。どうせしないでしょうけど脅しに乗ってあげる」
「ありがとう、じゃあお休み」
一昨日詩織が用意していた布団はまだ片付いていない。そうする気力もないのだろう。寝る前に使う許可を取りたかったけれど、私が寝ると伝える訳には行かない。マナーは悪いけど、勝手に借りよう。
寝相や寝顔を誰かに見られるのは嫌だけど我慢する。幸い部屋は暖かい。ブランケット一枚でも風邪を引くことはないだろう。
「本当にあんたいい性格しているわね、身体乗っ取ってやりたい。」
「どうも。そんなことできるの?」
「…家伝の書に書いてあったけれど、殆ど破れていて読めてない」
「じゃあ出来ないってことね。お休み」
「…お休み」




