詩織の様子
最悪だ。あの幽霊夜中に何度も起こしてきた。そのせいで寝不足だ。寝過ごすかと思った。
途中でふと思いつき詩織の様子を見てればどうかといったところ素直に出て行った。詩織に纏わりつくのはしゃくだけれど、仕方がない。
幸い目覚ましを5分ごとにかけておいたおかげで何とか起きられた。7時15分。8時半に詩織の家に行く予定だ。歩いて15分かかる。
まあ急いで支度すれば間に合う。父と母はすでに仕事に行っているみたい。いつもの事。子供の頃は少し寂しかったけれど今はもう慣れた。通いのお手伝いさんの田原さんがいつものように朝食を出してくれる。
私の家は二人のお手伝いさんが交互に通っている。今日来てくれている田原さんともう1人北野さんという人がいる。どちらも女性だ。朝の7時頃来て18時まで家に居て、ご飯の用意や掃除・選択その他もろもろの手伝いをしてくれる。
「おはようございます」
「おはようございます。田原さん。この服洗濯お願いします。友達から借りた服なので綺麗にお願いします」
「承知致しました。朝食出来ております」
「ありがとうございます。いただきます」
本当は自分が洗濯するべきなのかもしれないけれど、詩織の服だからこそプロにやってもらうべきだ。
田原さんが作ってくれたトーストとベーコン、目玉焼きを食べる。美味しい。今日の予定を伝えておかないと。
「美味しかったです。ごちそうさまでした。田原さん、今日は一日友達の家に行きます。家にある菓子パンを持っていくので、お昼は気にしないでください。夕飯はお願いします。ただ、何時に帰ってこられるかわからないので、作り置きでお願いします」
「承知いたしました。お気をつけて」
朝食後急いで準備する。軽く化粧をしたり、髪を整えたり。人の家を訪ねるのだから、最低限身だしなみは整えないと。詩織のお母さんにも会うだろうし。
なんだかんだで時間ギリギリになってしまった。菓子パンは田原さんが用意してくれていた。お礼を言いながら慌てて家を出る。
「いってらっしゃいませ」
「行ってきます」
少し走ったけれど、8時半前に詩織の家に着いた。息を整える。汗はかいてない。制汗シートは使わなくてもよさそう。チャイムを鳴らす。
「はい。どなたでしょうか?」
数秒後スピーカーから反応があった。この声は詩織のお母さんだ。まだ出かけてはいなかったようだ。良かった。何かあったことに気が付いているのか様子を見たくてあえて出かける前の時間に来たのだ。
「おはようございます。苦無白紗月です。詩織に会いにきました」
「あら、紗月ちゃん。早いのね。今開けるね」
「ありがとうございます」
詩織のお母さんが招き入れてくれた。様子はいつもと変わらない。この家であったことはばれてなさそう。安心した。
「ずいぶん荷物あるのね」
「はい。今日は春休みの宿題を終わらせる約束をしています」
「そうなの。珍しいわね。いつももっと早く終わらせているのに」
「今回はちょっと量が多くて」
宿題はただの口実。本当は私も詩織もとっくに終わっている。私は、最初のうちにさっさと終わらせてしまうし、詩織はコツコツと計画的に終わらせている。
ただ、宿題が終わっているとばれると会う口実がなくなるからと秘密にしていた。それが役に立った。量が多かったのは本当だけど。
「それは大変ね」
「今日は一日お邪魔するつもりなんですが…」
「大丈夫よ。でも私この後出かけるの」
詩織から聞いていたので知っている。9時前に家を出ると知っていたからこそこの時間に来ることにした。でも知らないふりをした方がよさそう。
「そうなんですね。それなら図書館にでも行きます」
「大丈夫よ。詩織がいるから。お昼どうするの?」
「それは一緒に食べます」
「そう。昨日から詩織体調悪いみたいなの。本人は大丈夫だと言っているんだけど」
「わかりました。もし体調悪いようなら帰ります。とりあえず一度会って様子見てみます」
「そう。気を使わなくていいからね。風邪とかうつらないように気を付けて」
「はい。ありがとうございます」
そんな話をしていると詩織が2階から降りてきた。
「あ、紗月おはよう」
「おはよう。詩織」
確かに顔色は悪いけれど思っていたよりも元気に見える。ただし、気分は悪そうだ。隈はないけれど寝られていないのだろう。
それよりも問題なのは隣に麗華がいる。勿論幽霊だ。こちらを睨んでいるが目を合わせないようにしたまま詩織に話しかける。詩織は麗華の言う通り幽霊が見えていないようだ。見えていたら今頃部屋に閉じこもっているか死にそうな顔をしていたと思う。
「部屋上がっても大丈夫?」
「うん。大丈夫」
「じゃあお邪魔するね」
「ごゆっくりどうぞ。詩織、ちゃんと宿題やるのよ」
「え?ああうん」
「ありがとうございます。お邪魔します」
一緒に2階に上がり、一番奥にある詩織の部屋に入る。麗華も着いてきている。
「体調はどう?ご飯食べられている?」
「うん。大丈夫。昨日の夜も朝も食べたから」
食べたくて食べたのではなく、家族に心配をかけたくなくて無理して食べたそうだ。それでも食べているようで安心した。
「吐き気とかはない?気分は悪くない?」
「吐き気は少しあるけれど、何とか耐えられているよ。気分はあんまり良くはないかな」
「そうだよね」
「リビングにさ、何も残ってないの。麗華の死体があったようにまるで見えないの」
「そうなんだ。まあ二人で頑張ったしね」
「うん、でも怖くなる…。本当にあったはずの事なのにまるで何もない。自分がおかしくなったように感じるの」
「そうだよね」
話がまずい方に進んでいく。反らした方がいいだろう。取り敢えず寝るように勧めよう。
「詩織寝られていないでしょ」
「え?」
「見ればわかるよ。私ここにいるから少し寝たら。寝ないと身体持たないよ。お母さんも体調悪そうって心配していた」
「ありがとう…。そうだね。少し寝てみる」
詩織は素直にベッドで寝始めた。昨日は一人では寝られなかったのだろう。あんなことがあったばかりでは当然だ。
人に見られると寝にくくなる気がするけれど、今の詩織は一人の方が寝られないのだろう。10分くらいすると寝息が聞こえ始めた。




