麗華との話1
多分5分くらい固まっていたと思う。はっと我に返り改めて目の前の麗華について考えてみる。
生き返ったのか、それとも昨日の死体は偽物だったのか。と色々考えていたけれど冷静に見てみると透けているし、浮いている。
罪の意識から見る幻覚かとも考えたが、それならもっと前に見えているはずだ。本当に幽霊なのか?
「透けている。あなた幽霊?」
「そうよ!そんなことどうでもいいでしょ!それよりもあんた詩織にストーカーしているくせに!よくも平気な顔で詩織に会えるわね!」
意味の分からないことを言っている。触れようとしたがすり抜けた。頬を抓ると痛い。やっぱり夢や幻じゃなさそうだ。
大半の人は信じていないだろうが、というか私も信じていなかったけれど妖怪や精霊はいると教わる。
そもそも、この世界はイザナミギという両性の神様が作ったらしい。その神様が人間やその他の生物そして神達を生み出したとされている。全世界でイザナミギが作ったという神話があるのだから受け入れるしかないのだろう。不思議な事に、世界を作った神は一柱とされている割には多くの神の神話があるし、イザナミギ以外を信仰している宗教は沢山ある。この国だって創造の神は別にいるとされている。まあ、私の普段の生活には関係ないからどうでもいい事だ。
ともかく、そのイザナミギは人だけでなく全ての物や生物を生み出した存在の元祖であり、その中に妖怪なども含まれている。そう習う。信じている人など殆どいないけれど。妖怪や神様が本当に存在するのなら幽霊がいてもおかしくはない。母によると呪いもあるらしいし。
「あなたどうやって幽霊になったの?死んだらなれるものなの?見えないだけで世の中には幽霊沢山いるの?私が急に見えたのは何故?」
「…なんでそんなに冷静なの?私が特別なだけ。見えているのは私があんたにみせているから。誰にでも見られるわけじゃない。大半の人は見えていないはずよ。少なくとも詩織は見えてなかった。あんたも私が見せようと思うまで見えてなかった。」
なるほど。急に見えるようになったのは創作でよくある人の死に関わったからとかではないようだ。
詩織が見えていないなら良かった。見えていたら幻覚だと怯え、罪の意識に苛まれていたはずだ。それよりも気になることがある。
「あなたが特別ってどういうこと?」
「だからなんでそんなに冷静なのよ。まあ教えてあげるけど。」
「素直に教えてくれるんだ」
「まあね。あんたが詩織のために死体を処理してくれたからそのお礼」
麗華によると片桐家は元々霊媒師の家系であり、除霊を生業としていたそうだ。知ったのは最近らしい。
そして、霊に干渉する方法として幽体離脱や霊体化を用いていた。といっても、既に廃れているとのことだけど。
半年ほど前、麗華は曾祖母の家を掃除している時にたまたま『家伝の書』を見つけ、半信半疑で試したところ成功したそうだ。
「それからはたまに詩織の様子を幽霊になって見守っていたわ。幸せだった。」
思っていた通りやばい奴だ。
「それはまあ一先ずいいや。いや良くはないけれど。あなたは詩織の事が好きなのよね?」
麗華が詩織の事を特別視しているのは見ていればわかる。けれど、それがどういう感情なのかまでは私にはわからない。今の話を聞いている限りは恋愛的に好きだと感じるけど。
「ええ…。そう。好き。大好き。私が唯一愛している人。友達として好きな人はいる。けど、愛しているのは詩織だけ。誰よりも特別。私よりも大切な人。」
麗華の目は本気だった。
「あなたはその特別な詩織にナイフを向けた」
「それには理由があるのよ。幽体離脱は精神がとても疲れるの。一時間しているだけで半日くらい怠いの。だけど『血の霊約』をすれば負担が軽くなる」
「なにそれ?」
「私の血と相手の血を合わせると殆ど負担なく自由に憑りつくことができるようになるの。勘違いしないで悪霊じゃないわよ。守護霊みたいなもの。『血の霊約』が成功すればした相手の周りでは物理的に干渉出来るようになる。念力も使えるようになるの。そうすれば詩織を守ることができるでしょ?でも言っても信じてもらえないだろうかしょうがなく襲う振りをしたの」
そりゃ信じてもらえる訳がない。当たり前だ。
「霊体化って体を幽霊にできるってこと?」
「そう。アストラル体とか言うやつよ。まあ私も詳しく分かっている訳じゃないんだけどね。兎に角、負担が大きいけれど、自由に動き回れてなんでもみられる。どこにでもいけるし」
「それなら、詩織が寝ている時に霊体化して一瞬実体化して少しだけ傷つければ良かったんじゃない?」
それでも傷つけることは許せないけど、まあ直接刺しに行くよりはましだろう。
「それは無理。『血の霊約』で使う私の血は相手に傷つけられて出たものじゃなきゃ駄目。でも、頼んでも刺してくれるわけないし。もう一つ方法があって、『血の霊約』の事を説明した上で血を提供してもらえればそれを私の血と混ぜ合わせることでも出来るけどしてくれないだろうし」
「それはそうね。でもそれで死んだら元も子もないでしょ」
「死ぬつもりはなかったのよ。詩織にナイフを奪わせて、その後取り返す振りで少し手を切るつもりだったの。でも、詩織ナイフ取った後、急に人が変わったように刺してきたの。相当怖がらせたみたい。私のせいだし恨んではないよ。成功しても警察とか呼ばれてもう詩織には会えないことも考えたけど、霊体化すればいつでも見ていられるし仕方がないって思って実行したの。まあ、刺されて死ぬとは思っていなかったけど、詩織に刺されて死ぬなら仕方がないよね。想い人に殺されるならある意味幸せよ。あんたもうらやましいんじゃない?」
イラっとする。本心を当てられたからだろうか。確かに詩織になら、殺されても悔いはないとまでは言えないが、幸せな死に方の一つである事は間違いない。
まあ今確認しなきゃいけないことはあと一つだ。
「あなた、呪いとか使えるの?」
「使えない。使えたらとっくにあんたに使っている」
「確かに」
「さっきの話だと霊の状態じゃ物とかには触れられないってことだよね?」
「そうよ」
安心した。今日は呪いに幽霊にオカルトだらけでもう疲れた。後の事は明日か明後日か明々後日にでも考えよう。
「じゃ、お休み。私寝るから」
「は?」
布団に入る。スマホでアラーム設定をかける。昨日寝ていないから寝不足なのに麗華のせいで思っていたよりも遅くまで起きている。20時半前には寝るつもりだったのにもう22時近い。早く寝ないと。
「え?は?え?本当に寝る気?嘘でしょ?本気?冗談よね?布団入りやがった。あ、電気消した。信じられない。ありえない。意味がわからない。この状況で何考えているの?あんた聞い」
なにか言っている。実況するな。うるせえ。寝るって言ったのに。




