手を繋いだ帰り道
「ねえ、手繋いでいい?」
「うん」
「ありがとう。紗月の手って冷たいね」
え?待って、何で私詩織と手を繋いでいるの?いつもと同じように詩織と帰っていつもみたいに他愛もない話をして。気が付いたら手を繋いでいた。昨日の事で頭が一杯だったとはいえそんな事ってある?やばい、汗が出てきそう。それはまずい。どうしよう。
「今度さ、らなと遊びに行くんだけど紗月もどう?」
動揺している私に対して詩織はいつもと変わらない様子で話し掛けてくる。あの、何で手を繋いでるの?そう聞きたいけど詩織は今の状態が普通みたいに歩いている。何とか平静を装って返事をしたけど私の声は震えていたに違いない。
「それ私も一緒に行っていいの?」
「いいと思うよ」
多分らな的には二人で遊びに行きたいんだと思うんだけどどうしよう。
「何しに行くの?」
「服買いに行く」
服かあ。興味ないなあ。どうしよう。ていうか前も買ったって言っていなかったけ。でも詩織となら出掛けたいし、らなの邪魔はしたくないしなあ。…そういえば麗華は着いて行くのかな?着いて行くよね。だってこんな状況だし。それなら遠慮する必要はないかな。
「うん。私も行きたい。いつ行くの?」
「土曜日。午前中ショッピングしてお昼食べて解散かな」
「わかった。楽しみにしてるね」
それで私はいつまで手を繋いでいるの?嬉しんだけどさ、いつ汗をかくのか不安で仕方がないんだけど。
「ところで何で急に手を繋ぎたくなったの?」
「何となく?」
「何となくかあ」
「そう。それで行きたい所決まった?」
「行きたい所?」
「前言ったじゃん。紗月の行きたい所考えておいてって」
「ああそう言えば。やっぱ詩織の行きたい所に行こうよ」
「やだ」
「え?」
「前も言ったけど紗月と遊びに行くとき大体私の行きたい場所じゃない?それかロナ達の行きたい場所。詩織の行きたいとこ行った憶えないんだけど」
「気のせいじゃない?」
「絶対違う」
「そう。でも気にしなくていいよ。詩織が行きたい所行こうよ」
「やだ。たまには行き先紗月が決めて」
そう言われても困ってしまう。誰かと遊びに行くのは嫌いじゃない。けれど行き先を決めるのは嫌いだ。遊びに行きたい所が無いわけじゃないけど、私がどんな所に行きたいのか知られるのに抵抗がある。昔からそうだ。自分が好きな物や興味があるを人に知られたくない。恥ずかしいのもあるけど、自分が持った感想に知っている人の感想を混ぜたくない。ネットで感想を見る分には平気なのに知っている人だと嫌だ。多分感想と人が結びつくのが嫌なんだと思う。自分も相手も。
詩織はどうか。詩織ならまあいいか。
「じゃあ映画はどう?」
「いいよ。紗月映画好きなの?」
「まあまあ。姉さんが結構好きだから」
「そうなんだ。初めて知った。紗月とあってそれなりに経つけどやっぱり知らない事ばっかりだね」
「そうかな。そんな事無い気がするけど」
「私はもっと紗月の事知りたいな」
そう言ってこっちを見る詩織の笑顔はいつもと変わらなかった。なのに私はドキッとしていた。何だろう。胸が高鳴る。
「それでいつ行く?何見るの?」
「えーっと見るもの私が決めるの?」
「勿論」
勿論かあ。どうしよう。次見ようと思ってた映画はセリラー。うん、駄目だ。あれはホラー映画だし、グロいシーンがあるらしいし。詩織がそういう映画好きかわかんないけど、私が好きだって事知られたくない。…私の事を知りたいって言われたばかりだけど。
「一先ず保留でいい?今上映しているやつと今度上映するやつ調べてから決める」
「わかった。楽しみにしているね」
「あんまり期待しないでね」
「凄く期待しておくね」
「や・め・て」
「詩織が見たい映画にしてね」
「私がかあ。本当に期待しないでね」
「ねえ映画の後も何処かに遊びに行かない」
「いいね、行きたい。行こう」
「じゃあその後のプランも紗月が考えて」
「え?いやそこは詩織じゃないの」
「たまにはいいじゃん。紗月がどんなとこ選ぶのか興味あるし」
「まあそういう事なら」
「楽しみにしてる。紗月、紗月の事これからもっと教えてね」
笑顔で言われてしまうともう敵わない。私はうんというしか出来なかった。この笑顔を必ず守らないと。そう思った。
結局別れるまで手を繋いでいた。誰にも見られてないよね。麗華以外は。多分。見られていたら恥ずかしすぎて倒れている自信がある。
こんな日常を守らないと。改めてそう思った。
…詩織は二日後に倒れた。




