殺すよ
「という訳なの。思い当たることは無い?」
次の日私は詩織の様子を報告しに来た麗華に昨日の事を伝えていた。流石に騙士瞞死さんが神様とかは伝えていないけれど。
「えっと一ついいかしら。それ私に言っていいの?勿論私は協力したい。詩織の為だしね。でもお母さんは北野さんと田原さんしか頼ってはいけないって言ったんでしょ。私に話すのはアウトにならない?」
「大丈夫。お母さんは人間はって言った。わざとだよ。幽霊と協力する事を想定していると思う。それにね、騙士瞞死さんは私の近くにいる存在って言ったの。人じゃなくてね。これもわざとだと思う。私の側にいる人間以外の存在。麗華からな。可能性が高いのは麗華でしょ」
「まあそういう事ならいいけど。…心当たりはあるわ。確証はないけど」
「話して」
「えっとね、本当に確証はないからね。戸倉由結愛って子」
「誰それ?どうして詩織を呪うの?」
「私と詩織の中学の時のクラスメイト。ちょっと複雑になるんだけどね。えっとまず、伝寺柳牙君関わってくるの。こっちも元クラスメイトね。彼は詩織の事が好きだったの」
へえ見る目有るじゃん。
「結局直接告白することは無かったんだけど、結構露骨にアピールしていたの。クラスの殆どが気がつくくらいにね。…詩織は全く気がついてなかったけど」
「あーうん、そうだね、詩織はね、気がつかないよね」
「ちょっと可哀そうなくらいだった。まあともかく伝寺君は詩織が好きだった。それを快く思っていなかったのが戸倉さん。彼女はね、伝寺君の幼馴染で昔から片思いしていたのよ。それもクラスの半分くらいは気がついていたわ。…肝心の伝寺君は気がついてはいなかったけど」
「なんか鈍感な人が多いね」
「…そうね、多いね」
「なんか哀れみの目で見てない?私の事?」
「そんな事無いよ。結局伝寺君は想いを伝える事無く私達とは別の高校に行ったわ。それで終わりのはずだった。高校に行ってから伝寺君と戸倉さんは付き合い始めたみたいだしね。特に詩織と接触する事もなかったしね」
「詳しいね」
「何度か遊びに行っているし、伝寺君はSNSで何でも発信するから。多少フェイクが入っていても知っている人が見ればわかる。高校に行ってから詩織とは交流なかったみたいだしね。でも1週間前ね、再開しちゃったの。たまたま私が憑いていた時にね」
「どっちが?」
「伝寺君の方」
成程わかった。それでまさか恋が始まってしまったと。
「詩織がラーソンに行った帰り道にね伝寺君と会ったの。そこで世間話して終わり」
「え?終わり?告白したとかじゃなくて?」
「は?なんで?戸倉さんと付き合っているって言ったでしょ」
「えっとじゃあ何で戸倉さんが詩織を?」
「ここからは完全に推測だからね。伝寺君はさっき言ったように何でもSNSに乗せる。恐らく久しぶりに友達と会ったとでも投稿したと思うの。流石にイニシャルとかにしたとは思うんだけどね。でも戸倉さんがみれば誰の事を指しているかわかる。そして嫉妬を燃やす。更には伝寺君が想いを再燃させたんじゃないかと疑う」
「それで呪いを?」
「多分だからね。戸倉さんは占いとかそういう系統が好きだからね。きっと恋敵に対する呪いとかあれば手を出す。本当に傷付けるつもりがあるかはわからないけど」
「わかった、ありがとう。取り合えず伝寺君のSNS教えて」
麗華に教えられたアカウントを確認したら1週間前に殆ど麗華が予想した通りの内容が投稿されていた。
「麗華、戸倉さんの事調べてもらってもいい?確証がつかめたら動くから」
「勿論いいけど。北野さん達には何か頼むの」
「私達が出来ないことがあれば頼むけど出来れば頼りたくないな」
「何で?」
「何も見返りを渡せないから。勿論母から報酬は貰っているはずだけど、私に関する事は通常の仕事にプラスで働いてもらう訳じゃん。まあそれ込みの報酬らしいけどあんまりそれ頼るのは良くないかなって」
「まあ確かにね」
「そういう点でいうなら麗華にもただ働きしてもらう事になるけど」
「それ冗談?他の事は兎も角詩織に関わる事でしょ」
「ありがとう」
「何言ってんの。まあいいや。それでもし戸倉さんがそうだってわかったらどうするの?」
「殺す」
「え?何で?そこまですることは無いんじゃ」
「まあね。今詩織に何かある訳じゃないしね」
「じゃあ何で?」
「…引かないでね」
「内容による」
「色々考えたんだよね。私裏の世界に踏み込む訳じゃん。そうなった時に色んな経験をする。修羅場に会う危険もある。いざという時にねスムーズに行動できるように経験できることはしておこうと思ってね」
「人殺しもその一つって事?」
「そうだよ。例えばだけどさ、詩織の身に危険が迫った時に私は直ぐに動かなきゃいけない。その時に私は本当に命を奪えるのか。命を奪った後に私はどういう心境になるのか早めに知っておいた方がいい」
これは優香さんの件で身に染みて思い知った。そして苦無白は死に忌避感覚が無い。でも個人差はあると思う。刑事ドラマの犯人は人を殺した後普通に生活している。でもあれはフィクション。人を殺した事で精神を病んでしまう人もいる、詩織だって私がアロマを使わなければそうなっていたと思う。じゃあ私はどうなのか。試してみないとわからない。試すなら早めの方がいい。後になればなるほど背負うものが増えていく。もし私が人殺しが無理で裏の世界で生きていけないなら早めにわかった方がいい
「戸倉さんとは面識がない。だから殺す事にもそこまで抵抗が無い。詩織に害を及ぼそうとしているなら尚更ね」
「それが理由?」
「そう」
引かないでと言っておいてあれだけど言葉にすると自分勝手すぎる。麗華が手を貸す事を拒んでもおかしくない。というか当たり前だと思う。
「わかった。もう一度確認するけど理由はそれだけね」
「そうだよ」
ここまで話して気がつく。あれ、麗華と戸倉さんって友達じゃない?だって中学卒業してからも何度か遊びに行ってるんでしょ。
「やっぱ止めよっか」
「え?何で?」
「考えてみたら麗華とは友達なんでしょ?」
「うんまあ友達だね」
「友達なら止めた方がいいよね」
「友達って言っても最近はそこまで仲いい訳じゃないし…」
「じゃあ殺していい?」
「え、いやうーん。でもうーん」
「どうする?麗華が止めてって言うなら殺さない」
「…戸倉さんの事はわかり次第伝えるから」
「え?協力してくれるの?」
「今更何言ってんの。私も詩織の方が大切だから」
「ありがとう」
窓から帰っていく麗華を見ながら考える。どうか全て上手く行きますようにと。




