騙士瞞死玉恣意 4 正体?
「もしもし紗月、話は聞いたわよ」
今日騙士瞞死さんに会った事は当然田原さん伝いで母に伝えてもらった。忙しい母がすぐに連絡してくるのだからやっぱり今日の事は色々まずかったのだと思う。
「あ、先に言っておくけどね。怒る気はないから。断りにくいのはわかるし断っていたとしても結局彼女の思い通りになったと思うから」
「そうなの?」
「そう。私の時も似たような事されたし。彼女なりの品定めだろうね。まあこんなに早く接触するとは思っていなかったけど。今日はね、彼女の事が無くても電話するつもりだったの。昨日の話の続きをしようと思ってね。紗月も話したい事あると思うけど先にこっちを聞いて貰うわ」
「うん。わかった」
「まずね、今私達がのうのうと生きていられるのはなんでだと思う?」
「え?」
「苦無白は特別な力を持っている訳じゃない。薬も材料は周りに頼っている。苦無白は殺しから撤退している。にもかかわらず薬を色々な所にバラ撒いて利益を得ている。つまり敵は多い。私達が居なくなれば得する人は多い」
「それは昨日話してくれた契約で」
「勿論それもある。でも契約だって完璧じゃない。やろうと思えばいくらでもルールの隙はつける。例えば一般人を使って殺させるとかね」
「…そう言われればそうかも」
「まあ答えを言っちゃうけど、後ろ盾がいるからね」
「後ろ盾?」
「そう。後ろ盾。契約の話は昨日したでしょ」
「うん。神の力を借りてって話でしょ」
「その通り。神は超常的な力を持っている。一晩で国一つを滅ぼせるような、ね」
「まあ神話でそういうイメージがあるけど」
「イメージじゃなくて殆ど実話ね」
「そうなんだ」
「神は天上に居て普段はこちらに関わってこない。契約も神の力の極々一部を借りているだけ。神の機嫌を損ねる事は許されないし、関わる事も基本的には避けないといけない。創造主であり破壊者だから」
「神についてはわかったんだけどそれが後ろ盾とどうつながるの?」
「苦無白は神と契約している」
「え?」
「彼女は決して認めないけどね」
「彼女ってもしかして騙士瞞死さんの事?」
「その通り。紗月も力の一端を見せられたんでしょ?」
「カフェの事?」
「その通り」
「あのカフェって幻じゃないの?」
「違うだろうね。紗月は幻だと思った?」
「…思わなかった。気にしてなかったから普通に入ったけれど匂いとか触った感覚とか普通にあったし。他にもお客さんいたし店員さんも居た。パフェも美味しかった。あれが幻なんて信じられない」
「本物だよ。カフェ、パフェ、人、全て彼女が作り出した」
「そんな事出来る訳ない」
「それが出来るのが神。まあさすがに本物の人間を一時的に作り出した訳じゃないと思うけど」
そう言われてしまえば何も言えない。でも騙士瞞死さんが神様?確かに不思議な雰囲気があるし、引き込まれそうになってしまったけど。
「苦無白はそもそも騙士瞞死玉恣意と契約した事で始まったとされているわ。初代苦無白は彼女の力を借りる事で人を殺し富を得た。そして契約を用い様々な存在と契約を交わし薬を作った。薬の知識も騙士瞞死玉恣意から得た物が多いとされているわ。ただこの契約には問題があるの」
「それは何?」
「神の力の一部を借りた契約で神を縛る事は出来ると思う?」
「え?うーん。難しい気がするなあ」
「そう。ていうかそもそも無理なの。契約は神と交わす事は出来ない。神が気まぐれで貸し与えている力で神に害する事なんて有っちゃいけないからね。じゃあ騙士瞞死玉恣意と初代はどうやって契約したのか。答えはわからない」
「どういう事?」
「残っていないの何も。呪いについて残っていないのと同じように騙士瞞死とどのような契約をしたのか何も残されていない。これって怖い事だと思わない?」
「まあ確かにね」
「神とは契約できない。そもそも遥か格上の存在。なのに契約を結んだという矛盾。ちなみに聞いても何も教えてくれない。何でも言う事聞きますよって笑うだけ。契約したと言う事実だけ残されている」
「つまり何が違反になるかわからないって事?」
「それもある。というか契約の証書が無ければ契約は破棄出来るの。なのにそれもしない。つまり今私達は何故か従ってくれている神と関係を結んでいるという事。まあ彼女は自分が神なんて絶対に認めないけど」
「楽観的な考えだけどさ、従ってくれているなら一先ずそれでいいんじゃない?理不尽な扱いさえしなければ問題ない気もするけど」
「まあね。今までずっとそうやって来た訳だから。でもね。決して心を許してはいけないし、気を抜いてもいけないわ。何が神の逆鱗に触れるかわからない。一度振れてしまえば被害を受けるのは私達だけとは限らない。国、下手したら世界が壊れるかもしれない」
「…怖いね」
「そう、怖いの。だから私達は彼女を軽々しく扱えないし、周りも苦無白を不当には扱えない。わかっている事は国を簡単に滅ぼせる存在が何故か苦無白に肩入れしていると言う事実だけ。私達が彼女の怒りを買えば滅びる、直接手を下されなくても見捨てられただけで周りは私達を排除しようとしてくる。神の不評を買った者たちを始末するって大儀名分も出来るしね。逆に苦無白を不当に扱えば神の怒りを買い滅ぼされるかもしれない。私達は何が原因で爆発するかわからない爆弾を常に持っているの。しかもその威力は未知数で世界すら壊せるかもしれない」
「成程ね」
「この前の刀場屋安久苛が私達に助けてと依頼してきたのは騙士瞞死がいたからね。彼女なら大概の事が出来るから。私としてはあの案件で使いたくなかったからあなたに頼んだの」
「そういう事だったんだね」
私の家は思ったよりも危険な状態にあるのかもしれない。常に綱渡りをしている状態。そう考えると少し怖くなる。
「まあ必要以上に恐れる必要はないわよ。今までもずっと続いている訳だしね。昔から色々あったけど怒りを買ったことは無い。殺しを止めてもね。何でも言う事を聞くって言っている通り本当に何でも聞いてくれているわ。まあだからこそ怖いんだけどね。彼女とは敬意を持って接して他の人たちと同じように接すればいいわ。まあそれでも触らぬ神に祟りなしよ。彼女に頼らなくていい時は頼らないで解決するようにしているわ。長くなったわね。紗月の話をしようか」
「うん。私は詩織が危険な目に合う事は許せない。仕事の邪魔をする気はないけど」
「事情は聞いたわ。その上でこっちの考えを伝えるわ。したければしていいわよ」
「いいの?本当に?」
「うん。多分だけどね、紗月がどう動くか見たいんでしょうね。詩織ちゃんの件が片付くまで動く気はないんだと思うの。何もしないんだったらそれでいい。動くなら失敗しても成功しても終わってから事件を解決する」
「それなら私は詩織を助けたい」
「いいよ。ただ条件がある。これが守れないなら許可できない」
「何?」
「一つ目、殺すか生かすか記憶を消すかそう言った決断はあなたがして。薬とかは自由に使っていいし殺した場合の後片付けもこっちでしてあげる。他の後処理もね。二つ目、使っていい人間は田原と北野だけ。ただしあなたが命じた事しかしない。三つ目、常に監視させてもらう。もしあなたの命に係わる事態になったと判断したらそこで介入する。その場合最優先するのは紗月。詩織ちゃんまでは手が回らない可能性もある。最後に期限は一ヶ月。今日はもう遅いから明日から31日間。どうする?」
「いいよ。それで」
「そう、頑張ってね」
電話が終わった。苦無白が背負っている物の重さ。これからの事。頭が痛くなりそう。それでもする事は決まっている。やるしかない。
100話達成! ここまで書き続ける事が出来て嬉しいです。読んでくれる皆さんのおかげです。ありがとうございます。




