母と2
麗華の家を教えると母は一度席を離れどこかへ連絡していた。
今更、コーヒーを飲んだが冷え始めていた。カステラは美味しかった。考えてみたら昨日のお昼から殆ど何も食べていない。夜にお菓子を食べただけで今日の朝と昼は詩織に会わせて何も食べていない。
「まだ警察は動いてないって。良かったね。防犯カメラの方もすぐ動いてくれるから大丈夫。あとこれあげる。詩織ちゃんに使って」
そういって手渡されたのは紫のアロマキャンドルだった。
「なにこれ?アロマキャンドル?そんなの今は使う気分じゃないと思うよ」
「これは精神を安定させる成分が入っているの。更に軽い催眠効果があるの。これを嗅がせながら、言葉を聞かせると思い込ませることができる。まあ何度も重ねて言わないといけないから大変だけど。多分詩織ちゃん精神的に参っているだろうから使って。ちなみにアレルゲンフリーだから安心して。ラベンダーの香りよ。ローズやシトラスの匂いもあるよ。必要なら言って」
確かにそれは必要だ。早速明日から使わせてもらおう。
「ありがとう。使わせてもらう。どのくらい持つ?いくつくらいある?」
「一つで12時間くらいもつから、できればあなたがいない時も消さないで使ってもらえればいいんだけど。私の手作りだからそんなに数はないかな。各10個くらい。作るのもそれなりに時間がかかるしすぐに沢山は無理かな」
「わかった。何個もらって大丈夫?私が作るのは無理?」
「各8個で24個かな。2個は保険で取っておきたい。作り方は教えないよ」
「なんで?」
「あなたが私の後を継ぐなら、キャンドル以外にも薬の使い方や作り方全て教えてあげる。でもそうじゃないなら駄目」
「会社なら継ぐつもりだよ。姉さんもそれでいいと言ってくれている」
姉さんには大学に入る前に会社を継ぐ気があるのか聞いた。継ぐ気がないなら私が継ぐつもりだということも。姉さんはそれがいいよと笑っていた。
『紗月の方が賢いし、広い視野を持っているから向いているよ。会社のために紗月が継いだ方がいいよ。ただ、親への責任感があるなら気にしなくていいよ』
『大丈夫。自分の意志だから』
『良かった。それなら応援する。手伝えることがあったら言って』
そんな会話をした事をふと思い出す。
母の話は続く。
「会社の話じゃない。殺し屋はやめているけど、薬を必要な人へ販売したり『清掃員』派遣したり裏稼業の話。こっちは別に継がなくても良いよ。一度継ぐと裏の事を色々知ることになるから簡単には抜けられなくなる」
「わかった。それはまた考える」
「それがいいと思うよ。私は一生抜けられない覚悟ではいったから。もっとしっかり考えて決めればいいよ。もうすぐお父さんも帰ってくるから話は終り。お父さんは何も知らないから言っちゃだめだよ。」
「わかった」
「晩御飯久しぶりに作ってあげる。なにがいい?」
「ありがとう。でも仕事はいいの?」
社長の母はいつも忙しく動いている。夕飯を一緒に食べることも少ない。ましてや作ってもらうのは1年ぶりくらいではないか。いつもは通いのお手伝いさんか自分で作っている。
「話長引くかと思って、今日は何とか午後時間空けた」
「そうなんだ。ありがとう。じゃあチャーハンと麻婆豆腐」
「今日は中華の気分なの?チャーハンはともかく麻婆豆腐手作りは手間かかるじゃん」
「素があるよ」
「そうなの。じゃあいいか」
17時過ぎに父も帰ってきて久しぶりに3人で夕飯を食べた。麻婆豆腐はできたけれど、チャーハンはできなかった。
なぜなら、私が詩織の家に泊まりに行くから明日のご飯は炊かなくていいとお手伝いさんに伝えていたからだ。すっかり忘れていた。今更お米を炊く事もめんどくさいので、ピザを配達してもらった。
届いた後父から、チャーハンの出前を頼めばよかったのではといわれ母と二人で笑った。
麻婆豆腐はとても美味しかった。
私は明日朝から詩織の家に行かなくてはいけない。早めに寝よう。詩織に電話したところ声に元気がなかった。心配だ。さっさと風呂に入り部屋に戻る。
そこで信じられない物を見た。
「あんたは許さない‼詩織にあんなに詩織を怖がらせておいて平然と!」
麗華が部屋にいた。




