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第9話






「うっわ、ナニコレ」

 

 私は思わずそう口にする。

 ダンジョンの中は別世界。

 そんなことは理解していたけど、それでもこれには驚いた。

 

 砂漠である。

 どこを向いても太陽と砂の世界。

 私のリアクションは間違っていないらしく、次々と人が入って来るたびに同じような声が聞こえてきた。

 こういう足場が悪い所では、100%のパフォーマンスを発揮出来ない人も居るだろう。

 ダンジョンのランクとは内部の魔力を測定……つまり中の敵を数値化したデータで判定している。

 なので中が砂漠だったり雪山だったりとその他の影響は一切考慮されていない。

 だからこそ想定ランクよりも過剰な戦力を用意するのが当たり前となっている訳で。


「とにかく進むしかないな」


 リーダー役の大門とかいう男の言葉で全員が歩き出す。

 ただ広いだけの砂漠を明確なあてもなく彷徨うのは精神的に辛い。

 そして―――


「あっつ」


 この日差しである。

 一応日焼け止めなど対策をしてあるが、それでもこの日差しはヤバい。

 スグに荷物から防止とアームカバーを取り出す。

 何もしないよりは、はるかに良い。


「女の子は大変だねぇ」


 そんな私に周囲の男どもは話しかけてくるが、ぶっちゃけ暑い中でコイツらの相手までしたくない。

 適当に愛想笑いでやり過ごしていると、急に周囲が揺れ始めた。


 ―――その瞬間


「うわぁぁぁぁ!!!」


 集団から少しだけ横に居た荷物持ちのブロンズが、地面から飛び出してきた巨大ミミズみたいなものに食われた。

 その衝撃的な光景で呆然とする荷物持ち達とは別にスグに武器を構えるゴールド達。

 その辺だけは流石だなと少しだけ思った。


 明らかにSF映画とかに出てきそうなテンプレタイプの巨大ワーム。

 ワームが地面に素早く逃げると、また周囲で地面が揺れる。


「おい!八木(やぎ)!」


「わかってるッ!!」


 呼ばれた男が何やら砂に手を当て始める。

 そしてスグに


「マーキングしたぞッ!!」


 そう言うと地面の中を光る球体のようなものが、それなりの速さで動き回っていた。


「支援スキルだ!」


「よっしゃ! いくぜぇ!」


 白いローブを着た支援スキル持ちのゴールドランクから身体能力向上を貰った大門が大きく飛ぶ。

 そして空中で巨大ハンマーを回転させながら、地面の中で動く光に向かって急降下する。


「くらえぇぇぇ!!」


 地面の中で動く光の丁度真上を綺麗に巨大ハンマーで殴る大門。

 すると物凄い勢いで巨大ワームが地面から飛び出してきた。

 10mぐらいはありそうな巨体だ。


「今だ! 地面に潜られる前に仕留めるぞッ!!」


 その言葉と共に一斉にゴールドランクが攻撃を仕掛ける。

 両手剣を持つ男による連続攻撃。

 槍を持つ男による的確な一撃。

 派手な衣装の男による魔法での巨大な炎。

 流石に巨大ワームも、その一斉攻撃には耐えきれず断末魔をあげて倒れた。


 その瞬間、歓声が沸き上がる。

 それと同時に即、ワームの解体が始まる。

 今ならまだ食われた男が生きている可能性があるからだ。

 だからこそ素早く、慎重に解体されたのだが……


「―――これが胃袋のはずだが」

「……モンスターの骨だけか?」

「人間の肉も骨も無いぞ?」


 つい先ほど食われたはずの男の姿が無かった。

 誰もが疑問に思っていた瞬間。

 その答えが地面の揺れと共にやってくる。

 周囲を取り囲むように5匹の巨大ワームが姿を現した。


「さっきのがボスじゃなかったのかっ!」


 誰かがそう叫んだ。

 しかしこれで誰もが理解する。


 ―――こいつらはただの雑魚モンスターなんだと


「や、ヤバいんじゃないのか?」

「これ、勝てるのかよ?」

「逃げた方が―――」


 荷物持ちのブロンズ達が不安になり始めるが―――


「全員、武器を構えて戦え! 勝たなきゃ帰れないぞ!」


 リーダーの大門の言葉に浮足立っていた連中が持ち直す。

 全員が武器を構えて戦闘態勢に入る。


「丁度5匹だ! ゴールドの俺達が1人1匹に付く! シルバーやブロンズはそれを援護しろ!」


 こうして始まる乱戦。

 相手は地面の中を動き回る関係でなかなか動きを止めることが出来ない。

 先ほどのような連携があれば別だろうが、こう手分けして戦うとなると厳しかった。

 隙を見せたブロンズやシルバーが食われたが、それでも何とか1匹倒したとの声が上がった瞬間。

 今までとは違う大きさの揺れに誰もが驚き、戸惑う。

 そして。


 目の前に顔を出したのは先ほどまでの巨大ワームを単純に2倍にしたかのような特大ワーム。

 間違いなくコイツがここのボスだろう。


 前々から協会のランク判定には言いたいことがあった。

 こういう戦闘しにくい地形や攻撃しにくい地面に潜ったり空を飛んだり、聞いた話では大きな湖もあったそうな。

 そんな人間がまともに戦闘出来ないようなものまでランクに判定出来るようなものを用意しろと。

 明らかにこれはランク詐欺に近いでしょと。


 思わず彼の方を見ると、どこから出したのかアウトドア用の折り畳み椅子に座って優雅に水筒で水を飲んでいた。

 色々言いたいことはあったけど、間違いなく今は彼の近くが一番安全なはずだ。

 砂によって走りにくい中でも懸命に走る。

 周囲では絶望した声や悲鳴が聞こえ始め、特大ワームの咆哮でブロンズなどが逃げ始めていた。


「そんなに走ってどうした?」


 彼の所まで何とか走っていくと、そんな言葉を投げかけられた。


「コイツ……」


 思わず殴ってやろうかと思うほどの余裕にため息が出る。


「流石は、ゴールドランク。 結構頑張るねぇ」


 そう言われて振り返るとゴールドランク達が諦めずに戦っていた。

 巨大ワームも2匹ほどが死んでおり、善戦していると言える。


 ―――しかし


「ぎゃっ!!」


 特大ワームの身体に押しつぶされたローブを着た男が悲鳴にも似た最後の叫び声をあげて死ぬ。

 その特大ワームに向かって跳躍し、斬りかかった男は地面から飛び出してきた巨大ワームに空中でキレイに捕食された。

 槍を持つ男が3匹目の巨大ワームを何とか刺し殺してホッとした瞬間、横から飛び出してきた巨大ワームに食われる。

 魔法による巨大な火柱を放った男は、その炎の中から出てきた特大ワーム正面から襲われた。


「クソッ!! ここでこの俺が! 大門太郎が! やられる訳が―――」


 絶望の中で己を奮い立たせようと叫び声を上げようとした彼の正面に特大ワームが姿を現す。

 後ろに巨大ワームを更に追加で5匹引き連れて。

 その光景に一瞬心が折れそうになった大門だが、それでも彼は何度も死線を潜り抜けてきたゴールドランク。

 巨大ハンマーを強く握りしめると力の限りの声叫び声をあげて特大ワームに突っ込む。

 そして跳躍して渾身の一撃を特大ワームの頭に振り下ろす。

 綺麗に決まった一撃に思わず大門は笑みを浮かべる。


 ―――しかし


 特大ワームは、何事も無かったかのように目の前に居る大門を捕食した。

 こうしてチームは壊滅し、逃げ回っているシルバーやブロンズに一部アイアンも居たが、彼らは巨大ワームの餌として追い回される。

 ここはダンジョンだ。

 基本的にはボスを倒さない限りは出る事など出来ない。

 救助もいつ来るか不明であり、ダンジョンでの負けはイコール死ぬことである。


「ところで、何でここだけ襲われないの?」


「魔法で存在ごと遮断してるからな」


「なるほど?」


「要するに連中には、ここに人間が居るとわからないんだよ」


 言っている意味は理解するが、本来なら気配遮断は高位スキルだ。

 それを魔法や道具で再現するのも非常に難しいし高価。

 やっぱり彼はランク詐欺の高ランク者なのだろう。

 まあ彼の方針でこうして当面は実力を隠すという提案に乗って他の人達を見殺しにしている私が、何か言えた義理もないけど。


「で、どうするのよ?」


「何が?」


「あのデッカイの」


「ああ、アレか。 まあそろそろ生贄も溜まったし、いいかな」


 そう言うと彼は、手を前に突き出す。


「サクリファイス:理不尽な生贄」


 いつかのダンジョンで見かけたことがある、人のような何か。

 それが目の前に現れると、よろよろと歩き出す。

 そしてあっという間に特大ワームに食べられた。


『ラスト・カース』


 どこからともなく、しかし確かに聞こえた声。

 それにより、黒い水溜まりが出来る。

 そして―――


 巨大な咆哮と共に呑み込まれていく特大ワーム。

 『まあ、虫程度に即死耐性なんぞ無いよな』なんて言う彼の言葉に呆れつつも、若干の恐怖を感じる。

 ゴールドランク達ですら勝てなかった相手。

 明らかなランク詐欺ダンジョン。

 本来ならこんなにもランク詐欺ダンジョンが発生することはない。

 数年に1度あるかどうかである。

 そんなものに何度も当たっている時点で運が悪いと言えるけど―――


「……私の判断は、間違ってなかった」


 明らかなランク詐欺ダンジョンであろうが余裕で攻略する彼を見て思う。

 彼についていけば絶対に成功する。

 こういった事故で死ぬことも限りなく低くなる。

 危険なダンジョン探索のリスクを限りなく減らせる。


 ダンジョンボスが死ぬと周囲の巨大ワーム達も何時の間にか居なくなっていた。

 そしてボスが居た場所に何か落ちている。


「……腕輪?」


 それを拾うと彼に渡す。


「ああ、耐熱の腕輪か」


 そう言って私に投げ返してくる。


「耐熱の腕輪?」


「つけると暑さを感じなく―――」


 彼が言い切るよりも先に腕輪をつける。


「―――ああ、涼しい」


 先ほどまでの日差しは何だったのかというほど、暑さを感じなくなった。

 そんな私に彼は苦笑している。

 ダンジョンドロップ品の中には、意味不明なものもあるけど、これは大当たりだ。


 気づけば周囲の砂漠が揺らぎ始め、全員が強制的に外に出された。

 基本的なダンジョンでは、崩壊まで猶予があったり、出口から出る必要があったりする。

 しかし今回のように急に消滅して生き残り全員が吐き出される場合もある。


 吐き出されたのは私達だけではなく、何とか生き残れたシルバー2人とブロンズ1人。

 外に出た瞬間、未だ叫びながら走り回っていた3人だが、外に出たと気づいた瞬間、その場で泣き崩れていた。

 そんな中、私は冷静に携帯を取り出すと……大きく深呼吸をする。


 ―――そして


『はい、こちら―――』


「助けて下さいッ!!」


 自分でも最高の演技で、事故が起きたと通報した。








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