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第5話






「ねえ?お茶菓子とか無いの?」


「飲み物を出しただけでもありがたく思え」


 我が物顔で人の家で寛ごうとしている女は、例の仲間をスキルで犠牲にした女だ。

 何故か学生服で人の家に上がり込んできた。


「今や貴重な女子高生だよ? もうちょっとこう男として大事にしようと思わないかな?」


「ダンジョン内でのお前の所業を振り返ってから言え」


 鞄から自前でお菓子を取り出して食べる女に、思わずため息が出る。


「で、何しに来たんだ?」


「う~んと、まずは助けてくれたお礼ね。ありがとう」


 そう言うとウインクをする女。

 ……ぶっちゃけ舐めてるのか、コイツは。


「……それで?」


「あら?もしかしてあまり信用してない?」


「当然だろう」


「……なら感謝の印に、おっぱい、触るぐらいなら……いいよ?」


 ほほを赤らめ、恥ずかしそうに胸を突き出す女。


「(―――鑑定眼)」


 俺は躊躇いなく鑑定眼を使用した。



大宮(おおみや) (いずみ)


 職業:アドベンチャラー


 生命力:90

 精神力:180


 力:7

 知力:21

 体力:5

 素早さ:9

 器用さ:11

 抵抗値:8%

 運:18


◇スキル

 親和力:レベル2

 相手が自分に対して警戒心や違和感などを抱かなくなる。

 初対面の相手でも自分を好意的に見て貰えるようになる。


 魅了:レベル2

 異性が自分に対して好意を抱きやすくなる。

 直接的な接触をするほど効果が上昇し、効果を受けた相手は自分の命令に逆らえなくなる。

 また一定レベル以上になると、同性相手でも能力を発揮するようになる。


 逃走術:レベル3

 敵から逃げる際に走る速度を上昇させ見つかる確率を低下する。

 ただし逃げ場の無い場所など一定条件化では無効となる。


 警戒心:レベル2

 相手の言動から嘘を見破れるようになる。

 またトラップなどに対しても違和感などで見破る場合もある。

 心理系スキルに対して抵抗値が上昇する。


 財宝探知:レベル3

 相手が一定期間内に取得したアイテムを知ることが出来る。


 武器適性:レベル1

 どの武器を使用する場合でも一定の技術で扱えるようになる。

 ただしレベル上昇に必要な経験値は通常スキルの2倍。



 正直見た瞬間、やっぱりなと思った。

 間違いなくあの時、俺の腕に抱きついてきたのは魅了の効果のためだ。

 そして違和感を感じなかったのは親和力の影響か。

 あの時、命令していたのも魅了の効果であり、そう考えると彼女が何故チームの中心だったのか予想が付く。


 つまり目の前で演技をしている女は、自分の周囲に居る連中全てに魅了をかけているのだ。

 そうすることでいざという時に囮として使えるし、目の前で他人が犠牲になろうが魅了と親和力をフル活用すれば有耶無耶に出来るのだろう。


 しかしアドベンチャラーとはね。

 自由度の高い万能系職業と言えば聞こえは良いが、ぶっちゃけ器用貧乏みたいなものだ。

 そしてコイツは自分の身を守るスキルばかりで戦闘スキルが1つしかない。

 しかも武器適性は高レベルまで育ててはじめて意味があるスキルだ。

 現状ではクソでしかない。


 俺はため息を吐くと、気づかれないように空間収納から指輪を取り出し指にはめる。


◇サキュバスの指輪

 精神に作用する心理系スキルを全て無効化する指輪。


「そういうことなら考えなくもないな」


 そう言って後ろに回り込んで両手で思いっきり胸を揉む。

 手から溢れんばかりの大きさと柔らかさ。

 そして相手が制服を着ていることもあり、ちょっと背徳的な感じで素で盛り上がりそうになってしまう。


「もう、触り過ぎだよぉ?」


 甘い声を出しながらこちらの手を軽く振り払いながら逃げる女。

 ―――そして


「さあ、特大サービスで胸まで揉ませたんだから流石に完璧な効果だよね?」


 そう言いながらこちらを向く。

 すると今までの甘い雰囲気は何だったのかというぐらい加虐的な笑みを浮かべた。


「とりあえず跪いてくれない?」


 指輪の効果で全く影響はないのだが、言われた通りにしてみる。


「うふふ、あははっ♪」


 上機嫌に笑った後、手をこちらに出して命令してくる。


「じゃあボス撃破のお宝出して?」


 何故コイツがそれを知っているのか?

 そう思ったが、よく考えれば先ほどステイタスを見た時にあったな。

 財宝探知とかいう謎スキルが。 

 とりあえず様子見したいので出しておく。

 俺からすれば別にそこまで欲しいアイテムでもないからだ。

 女に渡すと何処からか取り出した拡大鏡みたいなものでアイテムを観察し始める。


「なるほど~。毒耐性が大きく上がるのか。自分で使っても良いし敵が多そうな大企業の社長さんとかに高値で売れそうだよねぇ」


 ほう、恐らくだが鑑定用のアイテムだろう。

 なかなか高価なアイテムを持ってるじゃないか。

 ネックレスを一通り確認した女は、ソファーに偉そうに座るとこちらに声をかけてくる。


「さて、あの洞窟で何があったのか、話して貰いましょうか?」


「……ゴールドの方たちがボスモンスターに突撃して相打ちでボスを倒したようです」


 それを聞いた女は首をかしげると、もう一度同じ質問をしてくる。

 それに対して同じセリフで返すと明らかに不信感があるといった表情になる。


「魅了の効果はあるはずよね? なのにどうしてコイツは嘘がつけるの? 絶対そんな展開あり得ないはずなのに」


 まあ最後の状況を考えれば疑問を持って当然か。


「とりあえず嘘を吐くのを止めてくれる? そして本当のことを話しなさい」


「ならお前も本当のことを話せ、大宮 泉さんよ?」


「はぁ!? え、どうしてっ!?」


 俺が演技を止めると驚いてソファーから転げ落ちる女。

 スカートでそんな動きをしたら……ふむ、薄いピンクか。


「残念ながら魅了耐性は完璧でね。お前の魅了も親和力も通用しないと思え」


「―――ッ!? ……何の話かしら?」


「咄嗟に惚けたその根性と判断力は褒めてやろう。だが俺には通用しない」


「―――え?ちょっと待って。じゃあ私は胸揉まれ損?」


「……最初に確認するのがそれか?」


「あんなに思いっきり揉んだ癖に、効果無いって詐欺じゃないっ! 責任取りなさいよっ!」


「そもそもお前が罠に嵌めようとしたせいだろう」


「男っていつもそう! 下心満載で迫ってきて『お前のため』とか言いながら拒絶されると『お前のせいで』って逆ギレするのよ! 大体、身体目当ての癖に偉そうに『してやった』とか上から目線でホント意味わかんない! ダンジョンの中なら人気が無いし何があってもわからないからって堂々と襲い掛かってきたりして! みんな下半身で動く獣よ! なら私がスキルで自衛したって文句言われる筋合いなんてないわよ! 嫌なら私に近づくなっての!」


「……少なくとも俺はお前に巻き込まれた―――」


「煩いわね! 私を騙して思いっきりおっぱい揉んだ癖に! 獣の癖に! 責任取らない癖に!」


 変な地雷を踏んだようで不満を爆発させる大宮。

 まあ若い女性がダンジョン攻略ってのは色々トラブルがあるだろう。

 よほど信頼出来る仲間とチームを組まない限りはあり得る話だ。

 それこそダンジョン内では人を殺しても目撃者さえ居なければダンジョンごと死体は消すことが出来る。

 そうなれば探索中に死亡とされて完全犯罪が成立してしまう。

 そういう意味でも大人数での攻略が推奨されているとも言える。


「そもそもアンタ達みたいな男は―――」


 ここから大宮 泉による『男なんて所詮女の身体目当ての下半身で動く獣である』という演説を1時間ほど聞かされるハメになった。

 コイツもコイツでそれなりに苦労したんだなと思えるような体験談を交えての演説で、同じような目に遭っていそうな女性なら拍手喝采だっただろう。

 長々とした演説が終了した所でお茶を出すと、彼女は勢いよくそれを飲み干す。

 そして最初とは違う明らかに態度が変化した姿でこちらに声をかけてきた。


「で? ぶっちゃけアンタ何者なのよ? 絶対アイアンじゃないのはわかるけど」


「……今のが素のお前か」


「煩いわね。 もう取り繕っても意味ないじゃない。 で? 何で私のこと知ってるの? 洞窟のボスを倒したのもアンタでしょ?」


「さあ、知らないな」


「……今から警察行って、おっぱいを無理やり揉まれたって言おうかしら?」


「―――それは脅迫と受け取っても?」


「別にいいじゃない。教えなさいよ。別に誰にも言わないから」


「そういやお前、情緒不安定で病院送りになったんじゃ?」


「そういう演技をしてアンタの情報を秘匿してあげたのよ? 私が空気読まなきゃ今頃アンタ協会で尋問されてるわよ?」


 確かにコイツの言い分はその通りだろう。

 実際にあり得ないとコイツが言い出せば徹底的に調査される。

 そうなれば痛くも無い腹を探られて面倒ではあった。


「……何が知りたいんだよ」


「まず、アンタ何者?」


「神崎 直人。18歳」


「あら、同じ年なのね。私も高校3年生よ」


「俺は学校に行ってない」


「……そう。 で、洞窟のボスはアンタが倒したのよね? ボスドロップ品持ってるし」


「……そうだな。 お前の余計なスキルのせいで隠し事1つ出来んわ」


「余計なスキルとは酷い言い草ね」


 スキルとは、本人の経験や願望が反映されて取得すると言われていて取得条件がわかっていないとされている。

 確かにスキルは一定の条件化で経験を稼ぐことで取得出来る。

 よほどの偶然でも重ならない限りは、追加取得は難しいし職業による適性もある。

 なので『低ランクスキル取得本』などの使用するだけでランダムで低ランクとはいえスキル取得が出来るアイテムは超高額の値段が付く。

 かつでオークションで出た際は、アメリカの大手適合者企業が300億出して購入したほどだ。


「で、何で私のこと知ってるの? 調べる暇があったとも思えないんだけど?」


「さあ?」


「―――まさか、ストーカー?


「……そういうスキルがあるんだよ。 これ以上手札は明かさないぞ」


「……まあいいわ。 それだけでかなり理解出来たから」


「ほう?」


「スキルとは職業を取得するブロンズ時に決まる一生もの。追加取得する場合もあるけど滅多にない。でもアンタはアイアンなのにスキルを複数持っている可能性が高い。しかもゴールドランクですら攻略不可能だった相手を倒せるほど強力な攻撃系スキル持ちと見た」


「……」


「しかも魅了が効かないってことを宣言したってことは私のスキルをどういう理由にしろ知ったということ。私は誰かに話したことはない。だって知られればトラブルになるし効果も期待できなくなるスキルだもの。それもさっきそういうスキルがあるとアンタ自身が言ったということはそれを持っているということ」


 少しの情報でまあ饒舌に話す女だ。


「……おしゃべりなのは構わないが、ここで俺に口封じで殺されるとか考えないのか?」


「そうするメリットが無いもの。それにそういうことをする相手には私のスキルである警戒心ってのが反応するからね」


「いいのか? 持っているスキルを話すのは手札を晒す行為だぞ?」


「私の予想では、たぶんアンタには私のスキルが全て知られている気がするの。……そういうスキルがあるんでしょう?」


「ノーコメントだ」


「それって答えているのと同じよ?」


 そう言いながら時計を見た大宮が立ち上がる。


「あー、もうこんな時間」


「ホント、お前何しに来たんだよ」


「これから一緒に探索する仲間がどういう人なのかの調査?」


「は?」


「じゃあ今日は帰るから」


 そう言ってさっさと出ていく大宮。


「いや、待て待てそうじゃない」


 慌てて追いかける俺。


「あら?どうしたの? もしかして私と離れるのが寂しくなって―――」


「違うわ。一緒に探索って何でそんな話になってるんだよ!」


 彼女が駅まで向かうというので送るついでに話をする。

 どうしてそんな話になったのかを。


「え?だってそうでしょ?」


「何が?」


「私がせっかく下心満載の男どもを制御しながら作ったコミュニティがこの前ので半壊しちゃったのよ?」


「……なら残り半分で頑張れよ」


「残りはダメね。 情報収集とか裏方メインの連中ばっかり。 口だけのアイアンとかブロンズにシルバーとかで役立たずばっか」


「ならもうダンジョン探索辞めればいいだろ。 一度死にかければ大半の適合者は引退するんだけどな」


「……私は、お金が稼ぎたいのよ。 お金が無くて両親はダンジョンの雑用をしていたけど今回の件みたいな事故があって死んじゃった。 それから親戚には受け入れ貰えず、唯一受け入れてくれた所もその家の長男が私の寝込みを襲ってきたから思いっきりアソコを蹴り上げてやったら追い出されちゃった。 で、施設で暮らしながら誓ったのよ。 絶対成功して優雅に幸せに暮らしてやるって」


 思ったより内容がアレというか、自分の第二の人生と似たような境遇で何とも言えない気持ちになる。

 第二の人生も、大氾濫に巻き込まれて両親が死んだ。

 俺は両親に逃がして貰って何とか生き残った。

 今になって思うのは、もっと早く前世を思い出していれば……力を手にしていればあの時の状況を、両親の死という運命を変えることが出来たのだろうか?


 いつの間にかどちらも会話をすることなく、無言で駅まで歩く。

 そして駅に到着すると『また連絡するね』と言って彼女は帰っていった。

 彼女を見送り、何とも言えない気持ちのままマンションへと帰る。


 そして部屋に入ってソファーに座った瞬間に思わず叫んだ。


「結局、一緒に探索することになってるじゃん!!」


 あの女、ホント気が抜けないな。







*誤字脱字などは感想もしくは修正機能からお知らせ頂けると幸いです。

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