第2話
次の日。
俺は適合者協会にある交流場に居た。
ここは食堂が併設してある場所で、低ランクのゲートの売買場にもなっている。
相変わらず現代日本に似合わないファンタジー世界の住人達に見える装備の連中達が集まっていた。
この場に居るのはシルバーランクぐらいまでで、会社に所属していない連中だ。
同じような連中とチームを組んだり、臨時の人員を募集している。
そうして格安の異世界門の攻略権利を買い取って自分達で攻略してお金を稼いでいるという訳だ。
気ままに金を稼ぎたい、将来会社を立ち上げたいなど目的も様々。
そんな中でひと際、声を上げている連中が居た。
「レベルDランクダンジョンの資源採取と荷物持ち募集!」
よくあるアイアンやブロンズで戦闘が苦手な人間向けの求人だ。
金を出してやるから雑用してくれというもの。
個人チームでは専門の業者を雇うと利益が薄まるためだ。
「今ならランクに関係なく1人30万だ! しかも今回ウチのチームにはゴールドの彼が同行してくれる!」
胸・腕・足を鉄装備で固め、大き目のハンマーを肩に担いだ男が自信満々にドヤ顔して立っている。
アレが恐らくゴールドランクなのだろう。
首にさげているゴールドランクの証も見える。
シルバーからゴールドに上がれるかどうかが一種の壁と呼ばれていることを考えれば、十分アイツは上澄みだといえる。
それに本来、雑用は1人大体10万~15万ぐらいだ。
それが命の対価に釣り合うかはさておき、そんなものである。
なのに倍出すとは、何とも景気が良いことで。
「そこのアイアンの貴方、ぜひやってみない?」
気づけば何時の間にか女性が隣に立っていた。
俺が首から下げているアイアンの証を見たのだろう。
美人と言えば美人だし、可愛いと言えば可愛い……そんな感じの見た目は悪くない女性だ。
これからダンジョンに行くメンバーなのか?と思うほど軽装だ。
長い髪をポニテにして、フリルの付いた白シャツに黒色のパンツスタイル。
そんな彼女が一瞬で距離を詰めて腕を組んできた。
あまりのことに驚くも、何故だか抗いがたい気分にさせられ、つい参加すると言ってしまう。
するとパッと素早く離れた女性は嬉しそうに
「じゃあ参加ね! これで人数揃ったわ!」
と仲間達の所へと行ってしまう。
何だったんだ?と思うも、まあ美味しい仕事には違いが無い。
若干メンバーが大学生サークルっぽい感じに見えるが、そもそも見た目で強さを判断するのは間違いだ。
そんな連中と電車などで移動すること4時間ちょい。
とある自然豊かな田舎の山奥にゲートがひっそりと存在していた。
周囲に人避けの結界が張られていたが、それを権利購入時に渡される鍵を空間に差し込んで解除する。
「1時間休憩! そのあとに突入しまーす!」
流石に移動の疲れもあって皆が休憩に入る。
雑用組は、ほとんど個人個人で休息を取っているが、攻略組の連中は元気よく騒いでいた。
その中でも気になったのは、俺に声をかけてきた彼女だ。
首にぶら下がっているのはシルバーの証。
しかし彼女にゴールドの男も周囲のシルバー連中も甲斐甲斐しく尽くしている。
「まるでお姫様だな」
思わずそう口にしてしまうほどだった。
確かに見た目は良いし、まあ人当たりも悪くない。
だが他にも数人、若い女性は居るが彼女達もその尽くす側に回っていた。
ここまで来るとアイドルとファンという感じに見えてくる。
少し彼女に否定的な気分になった瞬間だった。
頭が痛くなり、顔を顰める。
スグに痛みが無くなったが、どういう訳か先ほどまで微妙に見えていた集団に対して『当たり前の光景』と認識するようになっていた。
彼女に尽くすのが当然だという感じで―――
「さて!そろそろ準備お願いしまーす!」
別の女性の声に俺はハッとする。
俺は何を考えていたのだろう。
あまりにも―――
「では、出発します!」
その声に慌てて立ち上がり、荷物を持つと彼らと一緒にゲートを潜った。
中は岩で出来た洞窟というスタンダードなものだった。
出てくるモンスターも人間サイズのアリやカマキリなどの昆虫。
そしてゴブリンなどブロンズでも相手出来るような雑魚ばかり。
一度だけシルバーランクが対処すべき2mぐらいの巨体であるオークという豚が人間のようになった化け物も3体ほど出たが、ゴールドの男を中心に張りきった連中によって危なげなく排除されていった。
なので雑用の俺達は入口近くから鉱石採掘を行う。
あからさまに光っている水晶のようなものは『魔力石』と呼ばれており、魔力を貯めるバッテリーのようなものになるらしい。
これのおかげで従来の電気よりもはるかにパワーと持続時間が伸びた新型バッテリーが登場して、今では車や家電など様々な所で使用されている。
またこれを加工したアクセサリーは見た目だけでなく、魔法を使う適合者の補助的な役割としても使用出来るため、装備品としても人気だ。
つまり売れる品ということで、根こそぎ取るよう言われている。
どちらにしろボスを倒せば消えるのだ。
仕事だと割り切って支給されたツルハシで魔力石を掘っていく。
最初は騒がしかった連中も、奥に行くにつれ声も聞こえなくなっていった。
そんな中で雑用係の俺達はせっせと作業をしていると……
「―――わよ! ―――なのよ!?」
奥から騒がしい声と共に複数の足音が聞こえてきた。
それらは落ち着きが無く、焦っているようにも聞こえて、俺達は互いに顔を見合わせる。
するとこちらに先ほどまでの連中の何人かが走ってきた。
そして―――
「アレを倒さなきゃ逃げ道なんて無いのよッ!!」
「わかってるが、じゃあどうしろって言うんだよッ!!」
「とにかく逃げるしかないッ!!」
討伐部隊が喧嘩をしながら逃げてくるではないか。
しかも先頭を走っているのが、ゴールドランクという意味不明さ。
だが次の瞬間―――
現れたのは大量の蜘蛛。
しかもどれもが1mぐらいはありそうなそこそこ巨大な蜘蛛。
それが数えきれないほど奥からあふれ出してくる。
―――現場は、一瞬でパニックになった。
足の速い蜘蛛は床だけでなく壁や天井などからも襲い掛かってくる。
襲われた奴は噛まれて毒か何かを注入され、けいれんを起こして動けなくなった。
そうなった人間を糸で巻いて閉じ込め、どこかへと運んでいく。
討伐部隊のシルバー連中も反撃して数匹ほど倒すも、多勢に無勢。
死角から襲われ一気に制圧されて繭の仲間入り。
「レベルDのダンジョンじゃなかったのッ!?」
俺に声をかけてきた女性がそう叫びながら逃げていた。
確かにランクはDだった。
しかし稀にあるのだ。
こうして低ランクのモンスターが数を利用して上位ランクの適合者を倒してしまうことが。
だからこそゲートには過剰戦力で突入することが推奨されている。
まあ今回もシルバー10人も居ればいいダンジョンにシルバー6人にゴールド1人を用意していた。
十分過剰戦力と言えただろう。
だが今回、彼らは数で押してくるモンスター相手に対し有効な手段を持っていなかったのだ。
それが今の惨劇を生み出していると言える。
せめて彼らの中に広範囲攻撃が得意な人物が居れば……
必死になって逃げるも出口の無い追いかけっこだ。
しかし未クリアのまま長時間連絡が無いとなれば応援が来る確率がある。
そこまで逃げ切れるかどうか。
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