第1話
前々からあったイメージを形にする機会があり、何とかスタートした感じです。
諸事情あってなかなか時間は取れませんが、ゆっくりでも更新していければなと思っています。
そして皆さまの暇つぶしになれば幸いです。
「―――ということになり、このたび異世界門法改正が賛成多数で可決されました。それでは次の……」
朝、テレビを付けながら朝食を用意する。
仏壇にも新しいお供え物をしてから食事をとる。
それから時間を見ながら食器などを洗って、適当に買い込んでいた菓子パンを3つほど取ると鞄に入れた。
「行ってきます、父さん、母さん」
外に出るとセンサーが働いてテレビが消え、ドアも自動で鍵がかかる。
流石は都会の高層マンションのセキュリティだ。
時間を見ると何時の間にか結構良い時間になっていたため、少しだけ速足で移動する。
俺は『神崎 直人』
両親は悪名高い『佐渡島の悲劇』によって死んだ。
残された俺は親戚連中に騙され、たった1人で生きることになった。
電車で移動している間に余計なことを思い出してしまった。
さっさと忘れるべきだとは思わないが、かといって割り切れることでもない。
いつか復讐出来る日を夢見て、俺は目的の駅で電車を降りた。
そして駅から5分ほど歩いた先にある工事現場のような場所に入る。
「お、神崎ちゃん、今日もよろしくね!」
現場監督の吉田さんが機嫌良さげに肩を叩いてきた。
彼に挨拶をしつつ奥に入ると、石で出来た大きな入口とその入口が光っている神秘的なものが目に入る。
『異世界門』という正式名称があるものの誰もが『ゲート』の方が呼びやすいとしてそちらの方が定着してしまっているもの。
そしてゲートの前には、現代社会ではあり得ないと言える中世ファンタジー風ゲームの世界に居そうな戦士や魔法使いのような恰好の人々。
一見するとコスプレ会場に見えなくもない状態だが、彼らは真剣そのものだ。
リーダーっぽい騎士の恰好したオッサンが声を上げる。
「今回はレベルD判定のダンジョンだ! そこまで苦戦するとは思わないが気を抜いて大怪我などしないように!」
その言葉にメンバーが返事をし、それを確認したリーダーを先頭にゲートの門を潜る。
彼らは光の中へと消えていった。
「さあて、俺らも準備を始めるぞー!」
吉田さんが声を上げると俺達は返事をして道具の点検などを開始する。
『異世界融合事件』
今ではそう呼ばれるようになった事件。
突如世界中に異世界門が現れて世界中が騒ぎになった。
色々調べてもよくわからず、試しにとゲートを潜った人間は、それっきり帰ってこない。
そこで思い切って軍を投入するも、やはり誰1人として帰ってこなかった。
そのためどうしたものかと検討していると、それは突如として起こっった。
のちに『大氾濫』と呼ばれる現象。
ゲートから突如現れたのはゲームやファンタジー小説で出てくる架空の生き物達。
オークやゴブリンにそっくりな生物に巨大な狼やサソリにワイバーンなど様々だ。
通常兵器である銃や戦車などの砲撃、ミサイルなど一切通用せず、毒などの化学兵器も効果が無かった。
それによって何が起こったのか?
ゲート周辺の都市での大量虐殺である。
世界中がパニックになる中、希望となる事件も起こり始めた。
人々の中に、魔法が使える者が現れ始めたのだ。
更に鉄パイプやナイフなどでも化け物を倒せる者たちが次々と現れ始めた。
『適合者』
そう呼ばれるようになる、異世界と繋がったと言われる者達。
身体に『魔力』と呼ばれる力を宿すことで化け物達を討伐する力を得た彼らによって、大氾濫は抑え込まれた。
そこから世界各国は、適合者協会という適合者達を管理する団体を設立。
国が管理することで異世界門に対抗していくことになる。
それから100年ほど経過して、いつしか異世界門があるのが世界の常識になりつつあった。
「よし、時間だ!入るぞ!」
吉田さんの掛け声で俺達はツルハシなどを持って異世界門を潜る。
……………
………
…
「ただいまー」
誰も居ない家にそう声をかけると仏壇の前で座る。
「父さん、母さん、ただいま」
今日も無事に帰ってこれた。
俺は冷蔵庫から飲み物を取るとテレビをつけてソファーに座る。
本来なら高校生である俺だが、こうして働いているには訳がある。
両親が死んだ後、俺を引き取った親戚は、あろうことか両親の遺産だけ持って俺を放置したのだ。
そして誰も助けてなどくれなかった。
金もなく捨てられ、野垂れ死ぬしかなかった当時中学生だった俺は、偶然見つけたゲートの資源回収バイトの募集に飛びついた。
もちろん危険はあるが、これのおかげで俺は生きていると言える。
だが当然ならがゲート内に入るのだ。
あそこは一度入るとボスを倒すまで出る事が出来ないこともあり、常に死の危険を伴う。
それでも中卒の18歳で、それなりに稼げる仕事など限られていた。
「今日は特に疲れたな」
異世界門の先には必ず迷宮がある。
いつしか人々は、その迷宮をダンジョンと呼ぶようになった。
ジャングルのような所だったり岩の洞窟だったり、塔のような所だったりと様々。
しかし必ず共通するのはボスと呼ばれる主が居ること。
そのボスを倒すと異世界門は閉じてしまう。
厄介事しか持ち込まないと思われた異世界門だが、実は良い部分もあった。
中にある植物や鉱石、そして誰が設置したのかわからない宝箱や装備品。
それらは現代の科学力では説明出来ない未知のものであり、大変貴重なものであると判明したのだ。
おかげでダンジョン産の資源は空前の好景気と技術革新を生み出している。
当然、取り合いになるのだが、その辺は国が管理というか丸投げしていた。
適合者達はとにかく儲かるため、自分達で会社を作る。
そして国がある程度振り分けてくるダンジョンの攻略権利を買い取る。
あとは自分達で攻略して、中の資源なども業者を利用して回収。
攻略して利益を上げるという形だ。
国としても面倒なものを責任ごと丸投げるだけで金になるので、喜んで売り払う。
そして適合者にもランクがある。
最底辺のアイアン
何とか戦闘出来るブロンズ
戦力と見なされるシルバー
優秀な能力持ちが多いゴールド
生まれながらの強者であるプラチナ
そして―――人類最強戦力であるダイヤ
みんな平等にアイアンからスタートし、経験を積んで強くなり認定試験を経てランクを上げていく。
しかし根本的な魔力量の上限は増えないとされているため、ランクを上げるのは非常に難易度が高い。
ほとんどの適合者は、シルバーで一生を終える。
それこそ生まれ持った才能で魔力上が桁外れな者たちだけが上位ランクに行くといった感じだ。
そんな世界で、俺は魔力量が無い最低ランクのアイアン。
そして3年連続ランクアップ試験をクリア出来ずにいる弱者である。
テレビではどの適合者の企業がどのダンジョンを潰しただ何だとそんな話題をやっていた。
帰りがけに買ってきた弁当を食べながら思う。
つまり俺は選ばれなかった側の人間だ。
アイアンなんて最低ランクの雑魚でも苦戦するレベル。
そんなものを戦力として雇う企業などない。
それでも多少身体能力が一般人より高いことを利用して資源回収のバイトをしているという感じだ。
「所詮、現実はアニメや漫画のように都合良く出来ていないってか」
これがそういう物語なら今頃俺は、何かしらの能力に目覚めて無双しているだろう。
適合者が覚醒してランクの壁をぶち破る。
そんなことが現実に起きることがない。
想像上の産物だ。
事実、今までそんな奴は1人も居ない。
何とも言えない気分になり、今日はさっさとシャワーを浴びて寝ることにした。
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