11話 私が好き
私は正体を隠したまま、カズキの相談に乗ることになった。いったいどんな質問が飛び出してくるのかと身構えていると、
「僕、好きな人がいるんですけど、今度クリスマスプレゼント買おうと思ってて」
「はぁ」
「それで女性の方の意見を伺おうかと。女性の知り合い全然いないからお願いしたくて」
「なるほど。そういうことならいいですよ」
それならばスマホで調べたほうが早いじゃないかと思ったが、嘆願するような眼差しをされると断れない。最後まで聞いてあげよう。
ちなみにクリスマスは二週間後だ。私宛てにカズキからクリスマスのお誘いの連絡は一切きていない。ということは、クリスマスは別の女性と過ごすつもりなのだろうか?
「一応ある程度は考えてて、マフラーと手袋を渡そうと思ってるんですけど、どうですかね?」
「いいんじゃないですか。無難だと思いますけど。マフラーも手袋もプレゼントの定番ですし、使い勝手もいいので喜んでもらえると思いますよ」
真冬なのでマフラーも手袋も重宝されること間違いなしだ。私だったら喜んで受け取るだろう。そもそもカズキからのプレゼントなんて何を貰っても泣いて喜ぶ。いったい誰に渡す物なのかは知り得ないことだが。
「ですよねっ。ありがとうございます!」
カズキはお礼を言った後、にこにこと顔を綻ばせた。こんなにも顔いっぱいに嬉しさを現している彼を見るのは初めてだ。
「ーーと、ところで。その女性ってどんな人なんですか?」
気になって仕方がなかったので我慢できずに聞いてしまった。他の女に渡すプレゼントだったらどうしよう。仮にそうだったら、その現実を受け入れられる自信がない。
一方、カズキはそんな逆質問が飛んでくるとは思っていなかったようで返答に窮してしまった。このまま答えてくれないのかと思いきや、彼のほうから沈黙を破った。
「んーとですね。昔からよく喧嘩をしたりしてムカつくこともあったんですけど……」
「けど?」
「優しくて楽しいヤツですね。一緒にいると安心するんです。コイツじゃないとダメだって感じで」
「……そうなんですね」
これってもしかして私のことじゃないか。頬が緩みそうになるが、まだ確定ではない。もう少し情報を引き出す必要がある。
「その……他にいいとこは?」
「他ですか?」
カズキはうーんと考え込んだ。かなり真面目に考えているようで、酸っぱい梅干しでも食べたみたいに顔を顰めている。
「いっぱいあって選べないですけど、強いて選ぶなら太ももですかね」
「へ? 太もも?」
「はい。昔スポーツやってたから太ももが筋肉質なんですよ。それが好きですかね」
昔からよく喧嘩をしていた。一緒にいると安心する。スポーツをしていた。筋肉質な太もも。断片的な情報が結びついていく。それって、つまり。
「すみません。なんかキモいっすよね。こんな話聞かせてちゃって」
「……いえ、全然。こちらこそ根掘り葉掘り聞いてすみません」
「こちらこそ、女性からの貴重な意見をいただけてよかったです」
「ならよかったです」
「それじゃあ僕もう行きます。予定あるんで。相談に乗ってくれてありがとうございました」
カズキは軽く頭を下げ、ジムを後にした。去り際の彼の顔は恥ずかしさからかほんのり赤くなっていた。
残された私はさっきのカズキの言葉を振り返る。彼の想い人は絶対に他の女のことじゃなくて私のことだ。私以外にありえない。
「ってことは。カズキは……」
私が好きらしい。まさか本当にこんな事があるなんて夢みたいだ。両思いであるという事実が嬉しくてたまらない。このことを受けて私が取る行動は、一つだ。
私から勇気を出して告白しよう。どうせ彼は奥手だから自分から告白する勇気なんて持ち合わせていないだろう。ならばこちらから気持ちを伝える。
決行日はクリスマスがいい。プレゼントの交換をしたタイミングで思いを告げよう。
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数日後、クリスマスのお誘いはLINEでやってきた。いずれ誘いがくることはわかっていたので、当然予定は空けており、すぐさま快諾した。
毎年クリスマスは家族か友達と過ごしている。それはそれで楽しいけれど、今年は好きな人と過ごせるので今まで以上にクリスマスが待ち遠しい。
「クリスマスまであと……一週間」
ワクワクしすぎて居ても立っても居られない。こういう時はショッピングでもして気を紛らわせたほうがいいだろう。
まだカズキへのプレゼントも購入できていないことだし。そうこうしているうちにクリスマス当日になってしまう。
そうと決まれば早速お出かけの準備だ。私はメイクをバッチリ決めて、勢いよく玄関の扉を開けた。
予定ではあと3話で完結です。
最後まで精一杯頑張ります。