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プロローグ 衝撃

 大学二年生の秋。昨晩の雨の影響で急激に肌寒くなり、服装も半袖のTシャツから薄手のジャケットに変わるなど季節が一気に進んだある日のことだった。


 僕は黒のテーラードジャケットを羽織りバチッとした格好で京都駅の真前で人を待っていた。正午ということもあり、人通りはかなり多い。この中から待ち人を見つけるのは骨が折れそうだ。


 こんな場所でいったい誰を待っているのかというと女性である。さては彼女だなと思われるかもしれないが、答えはノーだ。そもそも僕は相手と会ったことすらなく完全に初対面である。

 初対面の女性となぜ会うことになったのか気になる人も多いのではなかろうか。ひょっとして、妄想上の女ではないか。はたまた詐欺にでも引っ掛かってるのではないかと懸念の声もあるだろう。


 安心してほしい。そんなモノではなく、ちゃんとした人間だ。お相手はマッチングアプリで知り合った女性で決して怪しい者ではない。はずだ。多分。知らんけど。


 マッチングアプリは大学の友人の紹介で数ヶ月前に始めた。期待に胸を膨らませてアプリをインストールをしたのはいいものの、顔を出していないこともあり最初は中々マッチングできなかった。


 やっとの思いで繋がることができたのが今回会うことになった『ゆ』という名前の女性だ。相手も顔を出していないから顔は分からない。けれども、僕と同じ年齢で身長が一六四センチであることは知っている。


 顔も分からない女性なので、マッチングした当初はスマホと何度も睨めっこをして文面を考えていた記憶がある。頭を悩ませながらメッセージを重ねる中でなんと趣味が同じであることが判明した。

 その日を境にアプリ上での会話がめちゃくちゃ弾むようになった。最初はめんどくさかったのに、いつしか彼女とのメッセージのやり取りが生き甲斐の一つになっていた。


 そして、つい先日。相手から「会いたい」とメッセージがきた。もちろん僕は二つ返事で承諾した。


 こうして僕は見ず知らずの女性と会うことになった。どんな女性が目の前に現れるのか見当もつかない。正直、恐怖心もある。

 だけど、それ以上にワクワクしていた。興奮しすぎて昨日は一睡もできなかったくらいだ。さて、誰がくるのか首を長くして待つとしよう。


「そろそろ時間だよな」


 待ち合わせ時刻一分前になった。メッセージでは青のデニムジャケットを着てくるとのことだったが、今のところそれらしき人物は見ていない。

 気づけば時計の針は集合時間ちょうどを指していた。あれれー、おっかしーぞ。考えたくもないけれど、時間か場所を間違えている可能性が浮上する。


 大慌てでスマホを取り出して確認したところ、集合時間、場所ともに合っていた。相手が間違えてしまっているのかもしれない。


 僕は居ても立っても居られずその場から走り出した。まず駅前を片っ端から見ていく。だが、全然見つからない。

 念のためマッチングアプリを開いてもう一度集合場所を確認する。やはり、京都駅前となっている。ここにいるはずなのに、なぜ見つからない。


 そうこうしているうちに五分が経過した。ひょっとして、これは、


 騙された?


 だとすると、きっと今頃どこかで馬鹿にしているに違いない。僕はなんて愚かな人間なのだろうか。

 見ず知らずの人間を簡単に信用するなんてどうかしていた。会ったこともないのに文面だけで良い人だと判断するのはあまりにも軽率だった。


 一人で勝手に舞い上がって馬鹿みたいだ。もう帰ろう。帰って今すぐ寝たい。


 僕は駅の改札に向かった。電車でここまで来たので帰りも電車で帰るつもりだ。時間もお金も無駄だった。これに懲りてマッチングアプリは卒業しよう。やはり恋愛はリアルで知り合った人間とするべきだ。


「えっ……」


 壁にもたれかかってスマホを触っている女性の姿が目に留まった。ここからだと顔は見えないが服装は青のデニムジャケットだ。 

 僕は足を止め女性のほうへ近づく。けれども、女性は僕に気づくことなくスマホに集中していた。目の前まで来てもまだ気づく気配がない。こうなったら仕方ない。


「あの……間違ってたらすみません。『ゆ』さんで間違いないですか?」


 もし間違っていたらどうしよう。そんな不安が押し寄せ返事を聞くのが突然怖くなり目を閉じた。

 不審者と間違われて通報されたら二度と立ち直れない。ここまで築き上げてきた信用が一気に崩れ落ちてしまう。頼むから『ゆ』さんであってくれ。

 

「そうですけど。もしかして……『あ』さん?」


 そのワードを聞いて緊張の糸が切れた。


 『あ』というのは僕のマッチングアプリでの仮名だ。つまり彼女は探していた相手ということになる。相手の顔をしっかりと確認するため目を開けた。

 どういう女性だろうか。お淑やかな女性だろうか。それとも活気溢れる女性だろうか。メッセージを見た感じでは明るそうな女性だったが、はたして。視界の先にいるのは

 

「は?」


 思わず変な声が出てしまった。このような素っ頓狂な声を出したのは生まれて初めてかもしれない。

 だが、それも仕方のないことだ。僕の目の前にいたのは想像していたのとは全く異なった女性だった。そして、おそらく相手も同じ感情を抱いているだろう。


 はじめてマッチングしてから数ヶ月にも及ぶ時を経てようやく会えた相手。待ち望んだ初顔合わせ。その相手がまさか。


 幼馴染だったなんて。

全てはここから始まった。

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