シンハッケン Nova eltrovo
S市教育委員会によれば、S山の南麓において、これまで山肌にできた瘤と思われていた円丘群のうち一つを、念のため発掘してみたところ、内部から未盗掘の円墳が見つかったという。
それを掘ると内側にまた新たな円墳が発見され、さらに掘るとまた円墳があらわれ、その下にはまた円墳があったそうである。
被葬者を明らかにするために発掘は続いているが、だれもまだ葬られていない、いわば空の古墳なのではないかという見方が強まっている。
調査にかかわった研究者の見解。
――この一帯はむかし、墳丘が自然に生まれてくる場所であったと考えられる。
円墳たちはこの場所の地中で生まれ、地上に押し出された部分がつぎつぎに独立して全国へと散っていった。
円墳は、たどり着いた先で貴人の魂を呑みこみ、その内に蔵う。
以後は現地に居ついて眠り、ゆるやかに死にいたる。
円墳とは、ただそれだけの一生のために生まれる物だったのだろう。――
古代の貴人たちは、円墳が近づいてくることで自らの死期を悟ったに違いない。
円墳が移動する際にシャボン玉のように宙を飛んでいったか、あるいは地を這っていったか、それを突きとめることは、今日では困難である。
また、なぜその発生が止まってしまったのかも、不明である。
もし円墳の生まれる場所が他にもあり、現在でも活動しているならば、たまに青空を飛んでいく円墳がいることだろう。
私たちは、それらを昼間の白い月と思って、見あげているのかもしれない。
Fino