カベ/ワラウ/ウチ
La muro
壁に沿って歩けばすぐにひとまわりできると思っていた。
なのに、歩けど歩けどもとの場所に行きつかない。
子どもから大人の体に成長しても、まだ歩きつづけている。
そんなにも大きかったのか、わたしの心の壁は。――
最近では、果てが知れないことが愉快にさえなった。
隣には、ともに歩んでくれる伴侶までいるのだ。
* * *
Warau
いまは廃れてしまった伝統芸能に、人々をワラわせるものがあったと知った。
――興味深い。
私は意味の変じた言葉だらけの資料を読んだ。
断片をつたえる人びとを訪ねて習い、ついに復元を成し遂げた。
家を抵当に入れて得た資金で国立劇場に上質な客を集め、披露に挑む。
――我ながら熱演だ。観客の心を動かしている。表情が変わってきたぞ。
さあ、皆でワラってほしい、大きな口を開けて――
まわりの者と喰らい合うのだ。
* * *
Interno
罰せられることを恐れ、ぼくは外へと逃げた。
容易に抜け出せて驚いたけれど、そのかわり内への戻りかたがわからない。
ただひとり、さびしく放浪する日々。
外も結局、たくさんの内でできていると思い知った。どこでもぼくは外の人だ。
――罰してください、ぼくを内に戻してください。
旅路でたおれたぼくは、肉体の外へ抜き出された。
ようやく内へと還れそうだ。
Fino