コウモリ Vespertoj
夕方、家路を急ぐわたしのなにを好むのか、蝙蝠がまとわりつく。
うっとうしくなってくるとわたしは歩みを止め、その場で手品の腕を披露し蝙蝠たちを造花に変える。
その様子を見て、近くにいる人々から小銭が投げられる。
わたしはしゃがんで銭貨をひろいあつめる。儲かったという気もちと恥ずかしい気もちとが、半々にある。
また家路を急ぐ。先ほどまでよりさらに増えた蝙蝠たちが湧く。わたしは手品で連中を造花にする。このくり返しだ。
なぜ気が急くのかわからないが、わたしは自分の家に向かって足早に歩いている。それにもかかわらず、いつまで経っても家に着かない。
そもそもわたしの家はどこにあるのか?
蝙蝠たちを造花に変えすぎて、街のいたるところが花だらけだ。ということは、わたしは街のなかを回っているにすぎないらしい。
西の空を見れば、美しい繊い月が赤い空に虫ピンで止められ、晒しものになっている。
――そうだ、早く家に帰り拳銃を取って、あの月を救いに行かなければいけないのだ!
そのことを思い出した時、いっそう数を増した蝙蝠の群れが、わたしを黒々と取り囲んだ。
Fino