良い機会なので、地域ごと異世界転移した地元を破壊する
「さて」
異変が起こったほぼ直後。
絶好の機会が訪れた。
そう考えた彼はすぐに行動に移っていった。
「やるか」
特になんの前兆も無く、その地域は異世界に転移した。
誰か個人とか集団とかではなく、地域全体がだ。
この事に気付いた者は最初はほとんどいなかった。
電気・ガス・水道がいきなり使えなくなった事で、何かがあった事は察知していたが。
住んでる場所が日本では無いどこかに移ったという事を理解するのに時間がかかった。
彼も地域ごと別世界に転移してる事にはなかなか気付けなかった。
ただ、ネットが使えなくなってる事で、何かが起こってる事だけは察知した。
周辺が混乱してる事も。
その混乱を見て、彼は好機が訪れたと感じ取った。
今なら何でもやれると。
即座に動いた彼は、真っ先に知り合いのところに向かった。
凶器を幾つか携えて。
それをもって知り合いの家に入り込み、そこにいた知り合いと家族を皆殺しにした。
その知人はかつて彼に恐喝で金を巻き上げ、暴行を加えていた者だ。
学生時代の事なので、もう何十年も昔の事になる。
しかし、重なった恨みが晴れるわけもなく、いつか復讐をと思っていた。
周辺の混乱を見て、その好機が訪れたと思った。
混乱してる状態では、警察などもまともに動かない。
通報も遅れる。
事件の捜査に調査をしてる余裕もない。
周囲の状況を見てそう判断した。
実際、その通りだった。
のうのうと生きて家族までこさえていた仇敵。
それを殺しても特に騒がれる事はなかった。
警察も動いてない。
動きようもないのだ。
あちこちで混乱が起こり、その収拾に努めている。
それを見て、彼は本当に好機が訪れた確信した。
彼はすぐに次の目標に向かっていった。
暴行を加えてきた犯罪者は一人だけではない。
取り巻きに擁護者とかなりの人数になる。
その全てを処分する為に動き出していった。
次々に標的を始末していく。
犯罪者とそれを擁護していた共犯者。
同級生に教師と関係者を見つけて処分していく。
まだ同じ町に住んでいたのが幸いだった。
見つけるのは簡単だった。
町の中での処理が粗方終わる。
目標の大半を処分する事が出来た。
しかし、全員ではない。
何人かは町の外に出向いていた。
転移した地域の外から襲ってくる怪物と戦うために。
転移した先の世界は危険な場所だった。
大小様々な怪物が棲息している。
そんな所にあらわれた地域に怪物達が襲いかかってくる。
それらから地域を守るために、警察などは動いていた。
彼が捕まらずにいたのはこの為でもある。
そんな防衛のために男でも駆り出されていた。
体力のある者達はそれらと戦うために地域の外に出向いていた。
それらを追いかけて彼も動いていく。
まだ処分してない敵はそこにいる。
積み重なった恨みの原因がいる。
それを殺さずにいるわけにはいかない。
異世界に飛ばされたこの地域がどうなろうとも。
たいして大事でもなんでもない故郷である。
むしろ憎しみの対象でしかない。
そんな場所がどうなろうと知った事ではなかった。
たとえそこに、わずかながら良い人がいたとしてもだ。
良い人の存在が彼を救う事はなかったのだから。
良い人達が敵を殺してくれたわけではないのだから。
全てが敵である。
生かしておく理由は無い。
とはいえ、直接処理をするのも難しい。
警察をはじめとした武装集団だ。
一般人でも手に入るような武装でどうにか出来るものではない。
警備や警戒もしているので接近も難しい。
一工夫が必要だった。
その工夫のために町の外へと繰り出す。
怪物を上手く誘導し、町に連れ込むために。
そうなれば混乱も生まれる。
付けいる隙も出てくるだろうと考えての事だ。
幸先が良い事に、町の外に出たところで、怪物と接触が出来た。
知能の高いことが接近してきた。
頭の中に直接響く声で。
テレパシーというものだと、その場で察した。
「あいつら殺すなら手伝う」
呼びかけてきた者に彼は応じていく。
「いいのか?」
「かまわねえよ」
戸惑う怪物に、彼は躊躇いも見せずに即答する。
「あんな怪物、生かしておけるか」
彼からすれば人間の方こそ怪物だった。
人と同じ姿形をしていながら、その中身において全く別物。
危害をもたらす脅威でしかない。
そんなもの、生かしておく理由がなかった。
「その代わり、頼みがある」
「なんだ?」
「あの町の連中、皆殺しにしてくれ」
言い切る彼に、怪物の方が少しばかりたじろいだ。
こいつは一体なにを言ってるのだと。
彼の言葉を怪物もすぐには信じなかった。
罠である可能性を考えたからだ。
だが、町の中に怪物を招き入れる手引きをして。
人間を怪物の前に差し出して。
様々な活動・行動に協力する姿を見せられるうちに、怪物もだんだんと信じていくようになった。
その手引きによって、地域の中に怪物が浸透していく。
最初は静かに、頃合いを見て大きく動き出す怪物達。
それらは異世界に転移してきた地域全体を飲み込んでいく。
地域は大混乱に陥った。
そこかしこに怪物が潜む危険地帯になった。
逃げ場を失った人間達は全員死ぬしかなかった。
彼が手を出せなかった者達も同じだ。
防衛の為の拠点にこもっていたので、怪物に真っ先に狙われることになった。
堅牢に作った防御陣地の中で怪物に包囲された。
攻めこまれはしないが、外に出て動く事も出来ない。
その間に、町は蹂躙されていく。
その様子を陣地から見ているしかなかった。
それだけではない。
時間と共に食糧も尽きてくる。
立て籠もってる者達は否応なしに死に向かっていく。
ならばと外に出て戦っても意味がない。
怪物を蹴散らせるならともかく、それだけの戦力は無い。
仮に勝利を手に入れたとしても、結果は変わらない。
他の多くが死んでいる。
その中には田畑を耕す者も居た。
生きていくのに必要なものを作ってる者達がいた。
それらはもう死んでいる。
戦いに勝っても、食糧などは二度と手に入らない。
立て籠もっていた者達はもう詰んでいるのだ。
それを彼は楽しく眺めていた。
かつて自分を追い込んだ連中が死んでいく。
たまらなく面白かった。
自分と同郷の者達は死に絶えるが、それでもかまわなかった。
自分を虐げた者達とその共犯者が滅亡するのだ。
これほどありがたい事は無い。
「何で俺があいつらの為に死ななくちゃならねんだ?」
彼が常々抱いている気持ちである。
ただ同じ人間というだけで、同じ境遇というだけで。
こういった共通点を持つだけの加害者をなぜ助けねばならないのか?
なぜ助け合わねばならないのか?
彼にはその理由が見いだせなかった。
そんな者達を守る意味があるのか?
守るだけの価値があるのか?
「無いよなあ」
彼にはそう思えてならない。
自分を傷つけた者達が生きている。
自分を踏みにじった者が生きながらえる。
転移してきた者達と共にあるというのはそういう事だ。
そうする理由が全く見いだせなかった。
自分を虐げた世界にはさっさと滅びてもらいたかった。
そもそも、命がけで守るだけの価値が世界にあるのか?
人の命にそこまで価値があるのか?
誰かを踏みにじって生きてる連中を存続させる社会を守って保つ意味があるのか?
「無いよなあ」
死んでいく立て籠もっている者達を見ながら彼は思う。
そんなものを存続させる事の方が罪だと。
さっさと滅ぼすのが正解だと。
害悪をまき散らす連中を処分する。
当たり前の事を彼は実行していった。
それで滅びるなら、人類はさっさと滅びるべきである。
生きてい存続する価値などない。
たとえそれで人類が自分一人になろうとも。
彼はそれで良い、その方が良いとしか思えなかった。
「それで」
やがて立て籠もった連中が死滅する。
転移してきた他の者達も地域ごと潰滅していく。
それを成し遂げた怪物達に彼は向く。
「俺はどうする?」
怪物からすれば彼は敵の一人である。
生かしておく理由は無い。
それは生き残った唯一の人類である彼も分かっている。
最後は自分の死ぬんだろうと察していた。
それでも怪物に協力した。
結果がどうなるか覚悟しながら。
なので、どんな結果になろうと文句を言うつもりはなかった。
むしろ、自分の思惑に乗ってくれた怪物に感謝している。
怪物達のおかげで彼は願いを叶える事が出来たのだ。
怪物の利益が彼の願いと重なっていたから協力しただけにしてもだ。
それでも自分一人では出来なかった事を達成できた。
それだけで充分だった。
望むなら首を提供するつもりだった。
所詮、彼も怪物からしたら敵である。
敵を生かしておく理由は無い。
そんな彼を怪物は殺さなかった。
殺す理由がなかった。
確かに怪物からすれば敵の一人である。
しかし、彼は怪物の協力者だ。
利益を提供し、損害をもたらしはしなかった。
そんな彼を殺す理由を怪物達は持ってなかった。
言うなれば功労者だ。
怪物からすれば大きな利益をもたらしてくれた者だ。
そういった者を殺すほど道義にもとる事は出来なかった。
それを伝え、怪物達は彼を自由にした。
そんな彼は異世界に転移した人間達の居住地へと戻る。
もう誰もいなくなった、人間がいた地域。
かつて自分が住んでいた無人地帯に帰っていく。
廃墟と化した人里で、彼は開放感を感じた。
「やった…………」
身体から力みが抜け、気持ちが軽くなっていく。
ようやく自分は苦痛から解放されたと感じた。
その後、怪物との交流を持ちながら彼は生きていった。
地域に残された資料などを読みながら知識や技術を貯え。
それを知能を持つ怪物に提供していく。
その知識を元に、怪物達は文明を発展させていった。
彼はその中で、唯一の人類として生活していく。
比較的に人間に近い種族の女と巡り会い、結婚して子供もなしていった。
そうしながら彼は、怪物達に様々な事を語って伝えていった。
人間がどれほど邪悪なのか。
どれほど悪辣なのか。
そのせいで最後はどうなったのかを。
己の体験となした事を教訓として伝えていく。
「いいか」
晩年になるまで彼は伝え続けた。
「やらかした事はこうやって返ってくる。
だから、悪さは絶対にするな」
手習い中の子供達が。
昔話を思い出しに来る大人達が。
決して無視できないと指導者達が。
様々な者達が彼の話を聞きに来る。
恐ろしい教訓として。
「たとえ今の代で何もなくてもだ。
何世代も同じ事を繰り返せば、どこかで反動がくる。
その時、悲惨な結果になる」
実際に起こった事だ。
ある日突然転移してきた種族は、そのせいで滅びた。
その生き証人である彼の言葉には千鈞の重みがあった。
「お前らはそうなるな。
滅びないためにも、悪さをしてる連中は容赦なく殺せ」
厳しい戒めの言葉。
繰り返されるこの教訓を、怪物達は心に刻みつけていった。
その甲斐あってか、怪物達は繁栄と発展を続けていく。
それを怪物との間に生まれた、彼の血を引く子孫が静かに見つめていく。
たった一人の異世界人の血を受け継ぐ者達が。
彼等は語り継いでいく。
かつて異世界からやってきた者達の愚行を。
決して繰り返してはいけない事例として。
たった一人の先祖がもたらす教訓を。
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