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機械仕掛けの宙を廻りて  作者: ドフォー/QSO
第2章【蛇蝎の如く】
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第19話【EPISODE OF SHKNOUL:永遠に続く日々①】

 この地はクリースのどこかに存在する、ただ何の変哲もない小さな村。ただ、X線検査機と金属で造られた動物がいることを除いて。そんな村へ一人の少女が一陣の風を引き連れてやってきた。


「ありがとう! 助かるよ」


「何も無いけど、欲しいものがあったら言ってね」


 少女が村の道を通る度、感謝の言葉が飛び交う。理由は彼女が背負っている大きな荷物にあるのだろう。

 その中身は多数の布地。色や大きさは関係なく、中には虫食いを塞ぐことしか出来ないような端材も含まれていた。

 彼女は広場の真ん中に荷物を下ろした。それの周囲にに村人が次々と集まり始める。


「これがー……ララサラさんの頼んでたのかな。大きさがあってるか分からないけど」


 少女は青緑色の布を取り出した。


「いやぁもうそんな、文句なんて言ってらんないわよ。本当にありがとうね。後でお礼持っていくわ。ほら、ジャンもサルプちゃんにありがとうって」


「あ、ありがとう……」


 大きな笑顔を浮かべる婦人の後ろから小さな男の子が顔を出した。布を持ってきた少女、サルプ・エンタリウスは彼に向かって優しく微笑みながら手を振る。ジャンは内気なのか、ゆっくりと婦人の後ろへと隠れてしまった。


「このやけに頑丈なのがランドゥーさんの」


 背筋の伸びた老人に茶色い布を渡す。


「いやー、これで暫く足が痛くならずに済むわ。明日新鮮な野菜持ってくな」


「これがシャロさんの」


 やつれた男性に様々な模様を繋ぎ合わせたような繊細な布を渡す。


「ありがとうございます…… これでやっと娘の誕生日が祝えます……」


 サルプは袋から無限に出現させているかの如く、布を取り出しては配っている。

 感謝の言葉を滝のように浴びた彼女は、誰もいなくなった広場で大きく身体を伸ばした。そして残った丁寧に折りたたまれた小さな布を、優しく再び包んで歩きだす。


「お母さんただいま」


「おかえり。ごめんね重かったでしょう。この子も寝付いたし肩揉んであげるわよ」


 サルプの母親は彼女の弟を背負ったまま背後に回った。


「それでこれ貰ってきたんだよ。何とか交渉してね」


 袋の中から光沢の美しい白い生地が顔を出した。偶然にも、クリースにも地球のカイコと似た糸を作り出す生物が存在したようだ。

 その生地は赤子一人分の服を作るのに、過不足ないかどうか判別つかぬほどの大きさをしている。


「明日畑仕事を終えたら一緒に作ってもいい?」


 サルプは母親へと顔を向けて言う。


「遠くに往復してきたばっかでしょ。明日の畑仕事は休んでもいいのよ」


 母親は彼女の肩甲骨辺りを(さす)りながら勧めた。


「大丈夫だよ。働ける人は多い方がいいでしょ?」


「まぁ、大丈夫って言うなら止めはしないわ。そう言って村を飛び出して、この袋に布いっぱい詰め込んで帰ってきたものね。でもしんどくなったら無理せず畑の人に言うのよ」


 そう言い、サルプの肩を軽く叩いて完了の合図を出した。


「ありがとう」


 サルプはそう感謝し、彼女らの今日は日の入りを迎えた。


 サルプの翌日は監視するC-偵察者の光で開始した。クリース人は単眼であることと引替えに眼の機能が発達しており、可視光の他に赤外光及び紫外光の一部を意識的に選択しながら知覚することができる。

 サルプは作業着に着替え、大きな畑へと向かった。


「ランドゥーさん、来たよー」


「えぇ! あんた来んでええのに。足痛ないんかいな」


 ランドゥーは耕運機のエンジンを止めながら言った。


「ランドゥーさんが倒れたら誰が助けるのさ」


「ハッハー、まだそんな歲ちゃうわ。まぁいつ倒れてもおかしないからな、そんときゃ頼むわ。逆にあんたもしんどなったらいつでも言いよ」


 ランドゥーは倉庫から播種機を引っ張り出し、種を込めた。


「じゃあ端からそれ使って種蒔いとってくれんか。俺は残り耕してくるし。これ終わったら昨日のと今日てつどうてくれた分の野菜渡すわ」


 それを聞いたサルプは気合を入れて播種機に手をかけ、畝へと押した。

 半分を終えた時、住居のある方向が騒がしくなり始めた。


「あれ? 配給来たの?」


「なんや今回は遅いな。あんた既に行ってくれとったけど、まぁとりあえず行ってみるか」


 ランドゥーとサルプは訝しみながら群衆に混ざった。各集落には定期的に配給が来る。この村では主に野菜を作りエクスロテータへと輸出するため、衣類などの野菜以外の物が不足してしまう。それらを補うために定期的に供給しに来るのだが、今回は指定の日に現れなかったためにサルプが代わりに布を取りに行ったのだ。


「できる限り必要なものは持ってきてください! 特に衣類などの体温調節ができるものや保存の効く食料! 早くお願いします!」


 武装した集団――と言えども剣や弓などの原始的な武器を携えた者達――が村の入口に集まっている。彼らの背後には数十人収容できるほどの車両が三台停車していた。彼らは自警団、クリース内で独自に設立された組織である。災害などに駆けつける救助隊や喧嘩の仲裁など様々な側面を持つ。


「なんや? 配給とちゃうんか?」


 ランドゥーが不安そうな顔を浮かべる男性に訊いた。


「いやそれが戦争が起こるんだと。既に交戦してる場所もあるらしいし、なんならここにも火種が飛んでくる可能性もあるってさ。そんなこと急に言われてもねぇ……」


 何もしない選択もできないため、とりあえず自警団の言葉を信じて聴衆は早足に準備に向かった。


「ただいま」


「あらおかえり、帰ってきた割には元気そうね」


「いや違くてね」


 サルプは弟をあやしている母親に一部始終を話した。


「まぁ大変、すぐに準備しなきゃ。……そう言えばお父さんはいなかった?」


 弟を背負いながら部屋をウロウロしていた母親の足が止まる。その顔は出かける直前に財布を失くしてしまったかのような、そんな強烈な不安を帯びていた。


「あれ、確かに見てない……」


 サルプの父親は自警団に所属しており、階級は中尉に相当する。普段は配給係に紛れて彼女らに会いに来るのだが、今回は見当たらなかった。それどころかいつも顔を合わせていた配給係の人物が一人もいなかったのだ。


「あの人が暇じゃないってことは、とんでもない事が起こってるのよ。最低限の物だけを持って」


 いつもは穏やかで優しい母親であった。しかしサルプにとってこの瞬間のみはまるで人が変わってしまったかのようだった。


「早くして!」


 立ちすくむサルプに声を張り上げてそう告げる。サルプの母親が放った怒声は、周囲の村人にも只事ではないと影響を与えた。

 半信半疑だった村人はノロノロと荷物を詰めていた手を止めて、必要最低限の物のみを持ち乗り込んで行く。


「急いで乗り込め!」


 サルプが荷台に搭乗し、その後ろに彼女の母親と弟が控えている。しかし荷台は狭く、大人一人が入れるほどの空間は残っていなかった。


「あ、お母さん。私もそっちに――」


「ダメよ、そっちに乗っていなさい」


「俺が降りても――」


「ダメ」


 サルプだけでなく、その隣にいたランドゥーさへも黙らせ、身を翻す。そのまま母親は迅速にまた別の車両の荷台に乗り込んだ。


「行き先はどうせ同じ。また会えるわ」


 母親は最奥に座り、サルプに向かって微笑みかける。サルプはその言葉と同時に、いつもの母になったことに安堵した。


「そろそろ出発の準備をしようか」


 全員乗車したことを確認した自警団は運転席に腰をかけた、その時。地面が突然膨れ上がり、大量の土砂を巻き上げながら爆発したのだ。


「嘘だろ……」


「急げ! 犠牲者を限りなく減らすんだ! それぞれ別の方向へエンジン全開だ!」


 車両もまた少なくはあるが土砂を後ろへ飛ばしながら疾走する。最後方に座っていたサルプははっきりと見たその姿は、まさに圧巻であった。

 地上から五メートル以上の高さに鎮座したその頭は、天高くにある恒星スノーを今すぐに喰らわんとする程に顎を開いている。赤い光を反射した筐体は黒い空によく映える。


「C-捕食者……あれがエクスロテータの殺戮兵器か」


 ランドゥーが呟いた。他の者もまた見ているだけしかできなかった。それはゆっくりと胴を傾けるや否や、サルプの乗る車両とは反対方向に顔を向けて地下へと潜った。


「あの方向は……! サルプ、俺の方をよく見ていろ。そのままだ、良い子だ」


 ランドゥーはサルプを両腕で包み込み、そのまま固定した。


「何? ちょっとやめ――」


 サルプの後方で大きな爆発音が鳴り響いた。それに続き甲高い音や鈍い音が数回流れ、やがて静まり返った。


「……! は、離して! 離してよ! 早く……離して……」


 ランドゥーはサルプを強く固定し、顔を伏せた。他に居合わせた者たちも目を覆い、顔を伏せ、そのまますすり泣く者もいた。


 彼女の乗る荷台には、一枚の小さな布が舞い込んできた。端は黒く焦げていたが、艶は決して終わることのない白い布。それが目に入ったサルプは全てを悟ってしまった。

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