第18話【増幅】
「C-捕食者の場所を記録したものをいただけませんか?」
「え、戻ってきた」
再びワームホールからスノウが顔を出す。ゼセルは先程の出来事で呆気にとられていたが、今は冷静さを取り戻していた。
「そういやおめぇなんで普通に行動してんだ? 今回の防衛戦で不参加の手筈になってんだが」
「C-狩猟者と出会いました。そこから状況を理解しただけです。愛する母星が危険な状況になっていて見て見ぬふりをできますか?」
ゼセルはその反語を一蹴する。
「俺にゃ知ったこっちゃねぇな。そもそもおめぇがやってんのは任務の一つの捕獲じゃねぇ、破壊だ。勝手な行動しちゃいかんのはおめぇでも分かってんだろ」
「でも僕が介入しなければゼセルさんは危なかったですよね。しかも捕獲ってなんですか? 情報がアイツらに漏れたらどうするんですか? 鹵獲するというなら却下ですよ。汚らわしいので使いたくありません。でもこんなにも汚い純白なら飾りたいぐらいですけどね」
「ちょっと二人とも……」
ヘリオスがワームホールから顔を出す。しかしスノウは既にゼセルの方へと向かっており、今すぐに連れ戻すのは難しい。ゼセルはスノウとの背丈や力の差による威圧感にも屈せず、彼女を見つめている。
「その件には感謝してる。だがそれはそれでこれはこれ、詭弁でしかない。それに彼を知り己を知れば百戦殆からずという言葉もある。戦って実力差を測って、使われてる技術を調べて次に生かすんだ。別にコレを使わないかんほど戦力に乏しい訳じゃねぇ。破壊するだけってんならアフィンの方が幾分効率がいい」
互いに熱が上がってしまった影響か、ゼセルの発言がスノウの気に障ってしまった。スノウの髪は煌々と輝き出す。スノウは声を低くし、ゼセルへと接近した。
「エクスロテータの人間に星を救われたくはないですね」
「もうやめろ!」
ヘリオスは、自身の能力である引力操作を用いてスノウを無理やり連れ戻す。スノウは勢いのまま小川に落下し、暫く呆然としていた。
「アイツにはそろそろ変わって欲しいんだがなぁ。大怨を和すれば必ず余怨あり、はぁ……なんで俺がここの仲立ちやってんだ。適任じゃねぇだろ絶対」
ワームホールはゆっくりと閉じていく。
「その思考じゃ悪循環だ。土地を憎んで人を憎むことはないよ。彼が、アフィンさんがエクスロテータの人だったとしても、彼自身が悪いわけじゃない」
ローゼンは自身の部隊の全滅もあり、多大なストレスによって頭を抱えて蹲っている。場所は太古の光周辺の森。
「何も知らないのなら黙っててもらえますか。あの人が私に会って早々言ったことを教えてあげますよ。『許して欲しいとは思わないが聞いて欲しい。あの機械を造ったのは私だ』その言葉を聞いてなぜ怒れないと。それを流せるのは売国奴か非当事者だけだ! 私の母と弟は目の前で噛み殺されたんだ!」
スノウは肩を激しく上下に揺らしながら、仮面越しにヘリオスを睨みつけている。スノウの髪は直視できないほどに輝きを増していた。
ヘリオスは身体の力が抜け、ただ呆然と立っていた。だが、ヘリオスは意を決したように前を向く。ヘリオスの髪も輝きを増していく。
「そう言ったのは彼にも罪の意識があったからじゃないのか?」
ヘリオスは一歩、スノウへと歩み寄る。しかしスノウは一歩退き距離をとる。
「罪の意識があるなら罰を許しても良いと? 虐殺に加担したのだから情状酌量の余地も無いに決まってる!」
ヘリオスは更に一歩踏み出す。
「だとしても! 向けるべき矛先は彼じゃない」
スノウは更に一歩退く。
「私の本来の目的はエクスロテータの根絶。それが達成できるならばこの身が滅ぼうが構わない」
「それはダメだ!」
ヘリオスが突発的に叫んだ。
「……ダメ?」
怯んだのかスノウは小さな声で呟く。
「それをやってしまえば、天の川支部の信頼が地に落ちることになる」
スノウは体の力を抜き、軽く息を吐いた。
「それに関しては、僕にも計画はあります」
スノウが一歩踏み出した瞬間、ヘリオスの視界が一瞬のみ消えた。再び目を覚ました時には、彼は膝から崩れ落ちていた。
スノウがヘリオスの胸からナイフを抜き取る。
「私の能力は光線操作、これを使えば身元を知られずにできます。すみません、これは仕方のないことなんですよ」
スノウはローゼンへと顔を向ける。
「ローゼンさん、準備はできましたか?」
ローゼンの能力を用いて、スノウはエクスロテータへと上陸しようとしていた。ローゼンの部下が全滅した時もローゼンはそう意気込んでいた。しかし、彼女は怯えたながらも決意したかのように、口を小刻みに震わせながら話す。
「やっぱり……辞退しても良いでしょうか?」
「それはなぜ?」
憎悪極まったスノウは、図らずともローゼンに剣先が向いてしまった。ローゼンは言葉の圧力に屈せず続ける。
「私がもしも、向こうへと開通させたら貴方は計画実行した者たちだけでなく一般人も虐殺するつもりでしたよね?」
「そうですよ。こちらも無関係な人間を殺されたんですから然るべき制裁じゃ――」
「然るべき制裁は技術退行措置として存在します。死者一名もしくは現地生物の殺害一体につき十年、負傷者一名もしくは建造物一棟破壊もしくは地域一箇所における社会インフラ一種類破壊につき五年、財一個もしくは土地の単位面積破壊につき一年。その他にも様々な基準があります。なので最低でも彼らは二百年近くの技術が失われます。それに加えてこの機械兵の製造も金輪際禁止されます」
スノウは顔を背ける。
「だとしたら、この憎悪の解消は……」
突如、倒れていたヘリオスの身体が跳ね上がる。彼は、所々光を放つ身体を起こし、スノウに話す。
「君もその技術退行措置に参加すればいいんだよ」
「核の機能を止めたはずじゃ……」
スノウは自ずと起き上がるヘリオスに驚きを隠せなかった。
「これ? これは俺自身も分かってないけど…… それよりも、君の行おうとしている復讐は手段と時間が違うわけだよ」
ヘリオスはよろめきながらも立ち上がる。
「今君が復讐に向かってしまえば、納得しない人も多い。だから生き残った人がいてしまえば、クリースへの怨嗟が湧き上がる」
「エクスロテータ人はひとり残らず滅ぼすつもりですよ」
ヘリオスは首を横に振る。
「仕事か何かでエクスロテータを離れている人もいるし、その人を探すのも時間がかかる。やがて手段が目的になるよ。それに君の話を聞いた感じ、エクスロテータは個人が勝手に侵略した訳じゃなくて、公的に侵略しに来たんでしょ?」
その問いに対して、ローゼンが代わりに答える。
「はい、記録では当時のとある国家が領有権を求める申請を出しています」
ヘリオスは答えてくれたローゼンに感謝の言葉を述べた。
「だから所属は違えど君とエクスロテータは同じ公的機関の人間として侵攻を開始した。それ即ち、君はエクスロテータと同じ立場に堕ちることになるんだよ」
スノウは初めて気がついたように、狼狽えながら仮面越しに口元に手を覆う。
「まさか……この私が……」
(論理的にちょっと怪しいけど、分かってくれてよかった……)
ヘリオスは心の中で安堵した。
「じゃあ、どうしたら……」
「君の標的は計画実行した人達って訳だよ。それに、全員が全員悪では無いという理解を深めるためにアフィンさんと話し合うのも悪くないかもね」
スノウはゆっくりと顔を上げる。
「アフィン……さん……と」
ヘリオスは首を縦に振る。
「アフィンさんにも何か考えがあったはずなんだよ。知らないならば知ればいい。決めつけるのは良くないよ」
「そう……ですよね。ありがとうございます」
ヘリオスは、スノウが笑みを浮かべていることを仮面越しでも感じ取れた。
「一先ず――」
ヘリオスの頬をスノウのナイフが掠める。彼が気がついた時には、彼女の手には喉元にナイフの突き刺さった機械の蛇があった。
「こいつらを排除しましょうか。二人とも、そこを動かないでください」
機械の蛇、C-捕食者は地面から現れては一目散に太古の光へと向かっていく。そして太古の光に行き着くのは頭のみ。空間一体を埋め尽くすようにスノウのナイフが駆け巡り、C-捕食者が現れるそばから破壊していた。
やがてこの空間で動くのがナイフのみとなった時、スノウはナイフを回収した。
スノウの足元には一匹のC-捕食者が蠢いている。微かに電力が残っていたのだろう。彼女はそれを拾い上げ、上へと放り投げた。
スノウは小さく唸り声を上げながらそれを文字通り八つ裂きにする。
「すみませんローゼンさん、アフィンさんの場所へと連れてってもらえませんか?」
「はい、勿論。仲良くなれる事を祈っていますよ」
ローゼンは黄色く輝く歯車を展開した。
「アフィンさんは避難所にいらっしゃいます」
「じゃあ行こ――」
ヘリオスが一歩踏み出した途端、脚が物理的に崩れ時点に倒れてしまった。スノウらが呼びかけても反応しない。彼の右腕も消失しており、身体の一部が黒く変色し硬く脆くなっている。
見たことの無い状態にスノウが混乱している横で、ローゼンは冷静に分析し始めた。
「これは……炭素ですね。通常我々は陽子-陽子連鎖反応と言って水素と水素を――」
スノウは顔を背けて静止の合図を出した。
「あぁ、僕はこういう話は苦手なのであまり聞きたくないです。つまりどうしたらいいですか?」
「水素を補充すれば治ると思います」
ヘリオスの体表面に付着した炭素を取り除き、水素充填飴を咥えさせた数分後、ヘリオスがゆっくりと起き上がった。
「なんか身体が軽い」
「じゃあ二人とも行きましょうか」




