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機械仕掛けの宙を廻りて  作者: ドフォー/QSO
第2章【蛇蝎の如く】
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第16話【氷下の氷華】

 C-暗殺者、それは地球に棲息するシャチと酷似した特徴を持つ。超音波を利用した探知能力、仲間との協調、はたまた犠牲を厭わない利用を行う。

 表向きでの使用は、海中からの警備から探査まで幅広い。


 C-凍結者、それは地球に棲息するコオリウオと酷似した特徴を持つ。低温に対して非常に高い耐性を有している。

 表向きでの使用は、極地調査における探査機や、その耐低温性を利用した冬季における魔法瓶などのように形を変えていることもしばしば。


 C-捕縛者、それは地球に棲息するダイオウクラゲと外見のみが酷似している。堅牢な触手で対象を縛ったり、そのまま海へと引きずり込んだりする。

 表向きでの使用は、海へと落下した物やゴミの回収や船の固定など。


 人が複数人立てるほど厚い氷に覆われた海。美しい流線型を象った銀世界。鋭利なホルンを自慢げに天へと突きつける山岳。そんな極氷原でカロリックの部隊は海中の存在と駆け引きをしていた。


「まずいですカロリックさん! 対処しきれません!」


 逃げれば捕縛、攻めれば凍結。C-凍結者に襲われ足が凍りついてしまった者。助けようとした結果、海中へと引きずり込まれてしまった者。


 それらを想定し、職員の鎧にはヒーターや二酸化炭素の合成による浮上装置を装備させていたが、たった一つの存在によりそれらは無いに等しかった。

 C-暗殺者、それは鎧の機構をまるで知っているかの如く行動した。


 C-凍結者という、液化メタンを積載した機械兵と海水を駆使して相手の様々な部位を凍らせる。そして、ヒーターによって融解させられる時、どの方向からなのかを音の反射や光の屈折反射からヒーターの位置を把握。

 そこから、C-凍結者をヒーターの位置に投擲し機能不全に陥らせてから鎧全体を凍結させた。


 二酸化炭素ガス発生装置も、職員を海中に引きずり込んだ後、その職員の周りを周回し期待の発生する音の伝わり具合から背中側にあることを認識し破壊した。


「こーれーは、私だけの方が良さそうだなぁ。でもなぁ……」


 自身の設計した装備を軽く凌駕してくる存在に、カロリックは顔をひきつらせていた。カロリックの能力であれば、凍らされ動けなくなった職員を救い出すことは容易だ。だが、そうしないのには理由があった。


 熱素操作、彼女の能力。古の時代、熱というのは熱素と呼ばれる物質の移動による現象だと考えられていた。カロリックはその失われた仮説を具現化し操ることが出来る。

 だが、その能力は繊細で有限で不完全。熱素一つ一つを丁寧に動かすことが出来るが、自身を除いて熱素がどのように分布しているのかを認識できない。

 また、その場で熱素を操るならば、最も身近で唯一認識できる自身の身体から持ってくるしかない。だが、核融合をしているとはいえ、計画性もなく物体に熱素を次から次へと移動させていれば、いずれ自身の熱が無くなり、核融合が停止し、最終的には動かない融合炉を遺して水となり消えてしまうのだ。


 時間が経てば熱は生成されるため、職員が凍結されたなどのいざという時の為の暖房やエネルギー源として職員の助けとなり、戦闘は職員に任せれば良いと彼女は考えていた。


 しかし、このような全員出動の依頼は滅多に転がり込んでこないために彼女の戦闘経験の白紙期間が長すぎたのだ。


 ゆっくりと凍結された職員や一瞬にして仕組みが知られた装備、それらの前にカロリックの頭には作戦失敗の文字が浮かんできた。

 だが、カロリックは自身の頬を叩き、四本の腕に力を込めた。そしてまだ生き残っている職員に向かって叫んだ。


「まだ残ってる人らはキャンプに避難すること! 私が要求した道具をキャンプから滑らして送ること! 分かった!?」


 職員たちは顔を見合せながらもキャンプへと戻った。


「やっぱり集団戦は向いてないかもなぁ」


 そう言い訳を零し、湾曲した両刃剣を取り出した。それは青く光る綱で繋がれており、まさしく巨大な釣り針のようだ。


「でも、自分の手で解体できるのは良いかなぁ。特許と言い張って見せてくれなかった機械の中身、覗かせてもらうよ!」


 カロリックは四本腕の内、上右腕でその釣り針を持った。そのまま臨海部へと走り出す。


「鉄棒ちょうだい!」


 軽やかな音と共にキャンプから鉄棒が勢いよく転がってきた。カロリックはそれを掴み、先端を優しく手で包み込む。すると、手の甲と鉄棒の先端、両方の上に黄色く輝く歯車が出現し、二つは見事に噛み合った。回転が加速する歯車、その上を伝って細かい歯車が手の甲から鉄棒へと、離れては接続していく。それと同時に鉄棒は赤い光を煌々と発し始めた。


 鉄棒に空いていた穴に釣り針をかけ、プロペラの如く振り回しながら加速する。海へと落ちる寸前の場所で、思いっきり振りかぶり海面へと叩きつけた。

 カロリックを中心に270°の円軌道を描いて海に突入した鉄棒は、一瞬にして海水へと熱を伝えた。


 天へと舞い上がる白い水飛沫。降り注ぐ海水の雨。氷は開花し始めるように放射状の亀裂を走らせる。爆発により飛び立ち、そのまま氷へと突き刺さった鉄棒を背にしたカロリックは、ほくそ笑みながら脈動する波紋を眺めていた。

 油断したか、彼女の両脚を幅の広い布が幾重にも巻き付かんと、突然海中から伸びてきたのだ。だが、カロリックは計算通りと言わんばかりに右足を後ろへと下げて回避する。そして右足に力を込め、重心を前にし、釣り針から伸びる青い綱を肩にかけて引っ張り上げた。


「かかったなぁ!?」


 氷にヒビが入るほどの馬力をかけた末、綱に沿って巨大なクラゲが海から空へと飛び立った。巨大クラゲ、C-捕縛者は氷に叩きつけられ、触手を四方八方に伸ばしながら停止した。


「後で解体してあげるから待っててねぇ」


 カロリックは釣り針を引き抜きながら呟く。そして、職員にC-捕縛者の回収を命じた。傘の直径が2メートルはあろうC-捕縛者を回収するべく、キャンプからロープを括り付けるための三人、スノーモービルに似た車両を運転する二人が現れた。


 次の標的であるC-暗殺者を捕らえるために海の方向へと目を向けた瞬間、運転する職員の方向へと正確無比な弾道でC-凍結者が海面から射出されたのだ。すぐさまカロリックは身を翻し、C-凍結者を叩き切る。その途端、手榴弾の様に外装の破片を撒き散らしながら、轟音と共に爆発的な風を吹かせた。

 気温の低い土地とは言え、メタンの沸点はそれ以下。急速な気化を起こす。その風にカロリックが怯んだ間に亀裂が進行し、陥没が運搬車を襲った。


 職員は紙一重で落ちずに済んだが、C-捕縛者は今にも海に帰ろうとしている。穴の大きさから、引っかかることなく滑らかに入水するだろう。この状態では、一度ロープを切り離してから別の場所で再び括るのが正解に近い。カロリックはそうするべく駆け寄った。


「カロリックさんこっちに来ちゃダメです!」


「え!?」


 判断するのが遅かった。穴のすぐ近くまで到着したその時、巨大な物体がカロリック目掛けて飛びかかってきたのだ。右腕の二本を犠牲に回避したが、氷で滑って転倒。

 更にすぐに止まることができず海に転落してしまった。罠だったのだ。氷を砕く音を爆発音だと誤解させ、更にC-暗殺者はカロリックが職員のことを守ろうとして近寄ってくることも理解していた。


 正面から突撃してきたC-暗殺者を躱すことの代償である右腕二本の損失は、最小限にしてかつ大きかった。温度の低下は反応速度に酷く影響を及ぼす。それは核融合も同様である。水中は大気中よりも温度は奪われやすく、人体と同様に恒護にとっても危険だ。だが、カロリックは熱素を操ることができる。


 だが今にとってそれはメリットでありデメリットなのだった。ある場所からある場所への移動を融通させるのは簡単だ。熱素を移動させる経路を作るのみ。場合によっては量を多くするのも可能だ。それも砂を手で引き寄せるように、水を押し流すように、文字通り呼吸するように簡単なことだ。

 しかし、今の状態は違う。先程のは一部分での移動。だが今は体全体からの熱素の流出を防がなければならない。水は熱素を強く引きつける性質を持つ。そんなものから流出させぬよう対抗するには大量のエネルギーを使うのは明白だろう。


 だが、それだけではない。カロリックは右腕二本を失っているため素早く泳ぐことは難しい。更に彼女は生前泳ぐ経験が皆無であったためカナヅチでもあったのだ。目も瞑っている。

 そんな格好の的をシャチを元としたC-暗殺者が逃すはずがなかった。


 明らかにジタバタともがく彼女へと、恐怖を覚える深青色の海の下からゆっくりと接近し右足首を噛みちぎった。

 C-暗殺者はカロリックが巨大なC-捕縛者を一本釣りするほどの力を持つことを知っていた。そのため腕から遠い位置を攻撃しながら様子を見て、かつ衰弱させていく算段なのだろう。


 右腕に持っていたはずの武器を探しながらもがき、ゆっくりと上昇していくカロリックの姿は水溜まりに落ちたアリそのものだった。

 彼女は足首、ふくらはぎ、膝と段階的に削られているのには気づいていた。だが、今は登ることが優先だと考えているのだ。ただ光が瞼越しに見える上を目指して。


 キャンプには燃料である水素がある。熱素を補充するヒーターもある。職員を守らなければならない。C-捕縛者を回収しなければならない。達成すべき目標と使命。

 焦りからカロリックは歯を食いしばり、薄く目を開けた。その時飛び込んできた光景は、左太腿へと噛み付こうとするC-暗殺者の姿だった。


 驚き目を見開き我に返ったカロリックは、酷く衰弱している自分の状況を改めて知った。もがくことさえも辛く思えたカロリックは、もう少し上昇すれば脱出できる位置で漂っていた。

 ふと横に目をやると、C-暗殺者に打ち出されるのを待っているかのように留まっているC-凍結者の姿が目に入った。


(あぁ、こんな技もあったな……)


 好機と見たC-暗殺者は、大きな口を開けカロリックへと接近を始める。カロリックは薄く笑みを浮かべた。


(敵の技を使ったようで、なんだか癪だ――)


 カロリックはC-暗殺者の鼻先に手を軽く添える。


「なァッ!!」


 C-暗殺者を包み込むようにして海中に大きな氷の華が咲いた。C-暗殺者は温度の急降下により完全停止。C-暗殺者の捕獲にも成功した。

 事切れたようにカロリックの身体が上を向くと、腹の上に巨大な釣り針がのしかかってきた。


「カロリックさん! 掴んで!」


 彼女が落とした理操機である釣り針に職員がロープを括り付けたようだ。カロリックはそれを掴み、テンポよく引き揚げられた。


「あれは明らかに罠じゃないですか。こんな寒い場所で火薬なんて積んでるわけないですし、何よりこわな小さなものが爆発したところであんな大きな音出るわけありませんよ。こちらで切り離して立て直すこともできました。それでも加工を担当してるのですか?」


「すみません…… でもちょっと解体だけして来てもいい?」


 カロリックは職員から渡された水素充填飴を舐めながら謝罪した。彼女の両脚にはアドレナリン注射のような大きさを持つ応急処置用の水素充填注射が刺さっている。職員は呆れたように鼻を鳴らして承諾した。

 そんな状態で立ち上がり、引き揚げられた氷漬けのC-暗殺者の方へと向かって駆け寄っていく。


「ほおおぉぉぉぉ! 筋繊維の再現かぁ! 消化器官っぽいのもあるし機会というより生体に近いな。電力の生成とかはどうしてるの――うわっ! なんか出てきた……ヌメヌメしてるし最悪だぁ……」


「本当に自由なんですから。無事で何よりですよ」

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