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機械仕掛けの宙を廻りて  作者: ドフォー/QSO
第2章【蛇蝎の如く】
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第15話【包囲し誘い噛み砕く】

 C-潜伏者、それは地球に棲息するワニと酷似した特徴を持つ。地に埋まり、近づく物体の振動を検知し捕らえる。

 表向きでの使用は、銀行の金庫や官邸、大使館などの警備及び刑務所の脱獄防止等。


 C-包囲者、それは地球に棲息するスズメバチと酷似した特徴を持つ。単独もしくは群れで行動し、毒と顎を使って対象を攻撃する。

 表向きでの使用は、C-狩猟者と同様。C-狩猟者は陸上での戦闘に対し、C-包囲者は空中での戦闘を担う。


 C-撹乱者、それは地球に棲息するコトドリと酷似した特徴を持つ。記録された音を、位置・音量・振動数・時間による変化などを調節し出力する。

 表向きでの使用は、音の出る玩具。壊れにくい、可愛らしいフォルム、精密な録音、音質の良いスピーカー等により少し流行した。その時の音声データも収録されている。


「今回の目標は、各機械兵を一匹ずつ捕獲すること。起動するか否かは不問。加えて、限りなく全ての機械兵の破壊。そして君たちへの命令はただ一つ、声を出すな。C-撹乱者対策として、この防衛戦において発言権は私のみに帰属する。私が言葉を発する時は右腕を上げよう」


 フェアドレングはポケットから出した右手を顔の近くまで上げた。彼は左腕を機敏に動かし、進行を妨げる蔦や枝を切り裂いてゆく。

 フェアドレングは再びを右腕を上げた。


「知っての通り、C-潜伏者は振動を検知し地中より襲いかかる。前方の安全は私が確保しよう。側方の安全は盾部隊に一任する」


 フェアドレングの後ろには、四列編成の隊列が後に着いていた。外側の職員は大盾を持ち、内側の兵士は白兵武器を携えている。また内側の職員の内、前方と後方の職員は槍を持って若干外側に、中央の職員は剣を持って若干内側に寄っている。実質的な六列編成だ。まずは大盾で耐えながら槍で対抗し、押され始めたら剣で戦うという戦略だろう。

 フェアドレングは継続して右腕を上げながら言う。


「C-包囲者は小さいが、隊列を組めば驚異ではない。決してはぐれぬよう気をつけろ」


 すると案の定、木々の間を縫っておよそ三十匹のC-包囲者が、けたたましくは音を立てながら接近してきた。


「盾、槍構え!」


 槍部隊は一斉に戦闘態勢に入った。


「次からは私を見てからにしろ。その声は私ではない。盾と槍は下がれ、剣を構えろ」


 右手を上げたフェアドレングは、落ち着いた声で言う。盾部隊と槍部隊は淀みなく引き下がり、剣部隊が前に出た。森という自由の利きにくい場所において槍は悪手。早速C-撹乱者が猛威を振るってきた。


 剣部隊は丁寧な動きでC-包囲者を次々と落としていく。そして職員は、地で痙攣しているC-包囲者を徹底的に踏みにじったり、部品と部品を散らしたりしている。


「流石だ。攻撃後に指示しようとしたが、事前に把握していたのか。私から総長に剣部隊の給与を上げる許可を申請しておこう。だが、臨時とは言え私の声のみで判断するのは現状での改善点だな。次、同じミスをした場合は増額を撤回させてもらう」


 フェアドレングは忘れず右手を上げて言う。

 エクスロテータの機械兵には、C-治療者という一回のみ修復する機械兵が装備されている。それは非常に小さくただ単に破壊するだけでは、すぐに回復してしまうのだ。

 フェアドレングは右手を下ろすことなく言う。


「さて、C-撹乱者は君たちも経験した通り、全くもって私の声と同じだ。方向、音量、反響等、まるで私の立っている場所から聞こえるかのような、違和感が一切無い高度なスピーカー。かと言って姿は見えない。はぁ、この森は隠れたり群れたりと機械の分際で臆病な者が多い」


 フェアドレングの後に着く職員は互いに目を合わせた。

 彼は右手をポケットに突っ込み、その中で手を動かしている。回収したC-包囲者の頭と胴体だ。C-治療者に直されないよう、絶えず移動させているようだ。


 フェアドレングは右腕を上げる。


「さて、総員姿勢を低くしろ」


 フェアドレングは、半ばまで言ったところですぐに手を下げた。職員も一瞬のみ膝を曲げたのみで、元に戻った。


「立ち止まれ」


 フェアドレングは再び手を上げて言う。


「大盾を構えろ。今の動きで限りなく大きな振動が起きた。罠にかけられた可能性が高い」


 フェアドレングと職員は地面の動きや木々の揺れを鋭く睨んで観察する。葉は風に揺られ、カサカサと音を立てている。飛ばされた落ち葉は、フェアドレングの靴や大盾に七枚八枚と引っかかる。


 しかし何も現れることはなかった。


「すまない、これは軽々しく腕を上げた私の落ち度だ。忌々しい機械兵は我々の様子を認識している。警戒を解き、進行を再開――」


 突如、大気を貫通する鋭い音がフェアドレングの耳元を通過した。その音はバスッと鈍い音を立てて地面と衝突し、数枚の落ち葉をまきあげたようだ。


「低姿勢。敵襲か? いや、ブラフか。銃弾が着地した地点が分かる者、その場所を指し示せ」


 右手を上げたフェアドレングは、振り返って後ろの職員に視線を送る。しかし、首を横に振るのみで指し示す職員はいなかった。


(盾の森も奥まってきた。この地の歴史からあまり職員を動かしたくないんだがな)


 植民地時代、この場所はプランテーションが設置されていた。そこからの逃亡を図るクリース人を捕らえるため、大量のC-潜伏者が放たれたのだ。

 それらの除去は困難でかつ危険であり現在でもそれらが存在し続けているため、誰も近づかせぬよう樹木が植えられた。それが盾の森の由来である。


 それ故、奥に行けば行くほどC-潜伏者の遭遇率が上昇していくのだ。


 背後から樹皮が弾け飛ぶ音が響き渡った。フェアドレングが右手を上げる。


「後方に盾を構えろ。銃撃が真である可能性のケアだ」


 職員が素早く大盾を構えた瞬間、すぐ傍から地鳴りが聞こえ始めた。フェアドレングはすぐさま右手を上げて叫んだ。


「戦闘態勢!」


 並び立つ大盾の隙間から槍が飛び出し、その背後で剣が空に向かって伸びる。

 しかし地鳴りは十数秒続いたのみで何も現れなかった。


 危険を察知したフェアドレングが背後を見ると、地鳴りに羽音を隠して接近する大量のC-包囲者が視界に飛び込んできたのだ。


「来た道を引き返せ!」


 フェアドレングは職員達の方向に左手を伸ばした。しかしこの時、フェアドレングは右手を上げるのを忘れており、職員の行動が一手遅れた。

 フェアドレングはC-包囲者と職員らの間に入り、上げた右手から鋭い棘を伸ばして叫ぶ。


「来た道を引き返せ!」


 フェアドレングはその言葉と共に二本の樹木を切断し、C-包囲者の群れに向かって倒した。


 職員は一斉に走り出し、フェアドレングもその後を追って先頭に立つ。何かを喋ろうとして彼は右手を上げた。しかし、前方側方から迫るC-包囲者の群れや発砲音、狙撃音、爆発音により彼は逃げる方向を指示するので手一杯だった。


 次第にフェアドレングは音が鳴っても怯まなくなったり、C-包囲者の群れを借りた大盾で突破したりするようになった。

 そして遂に開けた場所が見えたその時、大きな発砲音が轟いた。フェアドレングの右足が弾け飛んだ。彼は受け身も取れず盛大に倒れ込む。


 職員が心配して起こそうとしたが、フェアドレングは右手で制止した。


「喋るな。そして動くな。私が許可するま――」


 ほぼ言い終わったと同時にフェアドレングの頭が消失した。左肩から右肋骨の中間にかけて切断され、彼は力無くしてうつ伏せに倒れる。

 彼の身体の上に長い頭を持った機械が乗っかり、ゆっくりと地面に潜っていく。


 フェアドレングは倒れた瞬間に気がついていたのだ。この開けた土地は盾の森に入る前のキャンプではなく、プランテーションの跡地だったのだと。

 職員らはフェアドレングの惨状を目の当たりにして口に手を当てていたが、言いつけ通り直立で静止していた。


 だが、この状況の打開策を考える暇もなく、肩に黒い鳥を乗せた一人の男が茂みから現れた。彼はスナイパーライフルの銃口を職員らに向けていた。行方不明になっていたクリース国際軍の兵士と考えられるが、酷く錯乱している。何かをしゃべり続けるC-撹乱者と考えられる鳥に曝露したのだろう。


「お、落ち着――」


 C-撹乱者の捕獲と、生存者の保護を優先した一人の職員が彼に歩み寄ろうとした瞬間、その二人の近くで地面が盛り上がった。


 職員は尻もちをつき、酷く息を荒らげている。C-潜伏者が攻撃してきたのだ。兵士は両腕両足を残して消滅してしまったが、職員は無傷。逆に攻撃したC-潜伏者がのたうち回り、何かから抵抗している様子だった。

 職員は、事前に察知したように飛び去るC-撹乱を目で追うことしか出来なかった。


「Aa xaeteen maw kaar voon ook」(私の翻訳機が壊されてしまった)


 フェアドレングは徐に立ち上がり、座り込んでいる職員に手を伸ばす。


「Oua senkeen maw zuutan iiya, zii oua taraa uoon antis sean yazira iiya」(君は命令不服従として、増額の対象外としよう)


 起こされた職員は、唐突に意味不明な言葉を話すフェアドレングに対し目を丸くさせている。フェアドレング自身も、この言葉が職員の誰一人も理解できないと自覚しているのか、身振り手振りでここからキャンプへと帰還する旨を伝えた。

 盾の森はほぼ円形。半径に沿って森を抜け、円周を歩き続ければいずれ辿り着く。フェアドレングは機能停止したC-潜伏者を担ぎ、職員を連れて素早く進み始めた。


(C-撹乱者と市場に流通していた玩具との比較研究を最もさせたかったんだがな)


『総長に伝達。C-潜伏者及びC-包囲者の捕獲に成功。両者状態不完全にして機能停止状態。C-撹乱者は捕獲に失敗。以上』

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