表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械仕掛けの宙を廻りて  作者: ドフォー/QSO
第2章【蛇蝎の如く】
14/16

第13話【陽動作戦:前編】

 C-狩猟者、それは地球に棲息するオオカミと酷似した特徴を持つ。アルファという指揮個体の下、多くの個体が狡猾に戦闘を行う。


 C-媒介者、それは地球に棲息するカと酷似した特徴を持つ。遠隔で物質等の採取や添加を行う。


 元来、それぞれは凶暴化した野生動物や強盗等の鎮圧、医療での補助としての役割を持っていた機械だった。


「C-媒介者の目的は恐らく太古の光の機能停止、C-狩猟者はC-媒介者の進行をサポートする為に配置されたと考えられます! トンネルの前に立ちはだからないようにして横から攻撃するようにしてください!」


 大地から産まれるように次々と機械兵は姿を現す。C-媒介者とC-狩猟者の大群は雄大な音を立てながらトンネルへと行進する。C-狩猟者は鋭い形の窩からカメラを覗かせて壁に並ぶ職員を睨んでいる。


 一人の職員が銃を構え、先頭を飛ぶC-媒介者に震えながらも照準を合わせる。その時、空間を裂くような吠え声が轟いた。


「うわっ!」


 その職員は驚いた拍子に天井に向かって銃を放った。三体のC-狩猟者が加わり、その職員を囲んで威嚇する。


「落ち着いて作戦を遂行しましょう!」


 ローゼンは冷静に指示を出す。吠えられた職員は決して銃を離さずに、C-狩猟者達に順番に照準を合わせて威嚇した。それらのカメラは完全に向けられた銃口を警戒している状態だ。


「作戦開始です!」


 一発の銃声が周囲の緊張の糸を張る。飛び上がろうと踏ん張った四体のC-狩猟者が地に叩きつけられた。それらの脚は強い衝撃によって切断されており、合計九本の脚が周辺に散らばっている。


 再び咆哮が辺りを劈く。四肢を飛ばした職員に向かってC-狩猟者が飛びかかる。それの胴体を剣が貫いた。それを気にすることなく、淡々と一発目の弾丸を放った職員に向かって襲いかかるC-狩猟者の脚を切断し続ける。


 初めに囲まれていた職員含めた十数名はC-媒介者を先頭を飛ぶものから順番に撃ち落としていく。それを阻もうとするC-狩猟者も脚を撃ち抜かれたり頭を破壊されたりと、機能が失われていく。


 ローゼン率いる天の川支部の隊は、クリース国際軍と合流する前に以下のような会議を行っていた。


「C-狩猟者は単体でも強力なので、複数人で相手をしましょう。恐らくプログラムされたことは、C-媒介者を守ること。なのでそれに銃口を向ければ、攻撃させないように阻んでくるはずです。ですが、攻撃はしないと考えられます」


 ローゼンは映像を見せながら部下の職員に説明している。見せている画面には、C-狩猟者が要人を防衛するためにボディーガードと共に行動している様子が映し出されている。


「この映像は稀有な例ですが、この人がナイフで要人に襲いかかるものです。そこでこれを見てください」


 ローゼンが指し示した場所から男性がナイフを持って身を乗り出した。すると男性の右下、即ち死角から突然現れたC-狩猟者が現れたのだ。恐らく人ごみの間を縫って来たのだろう。驚いた男性はナイフを手放し、C-狩猟者に囲まれた末でボディーガードに取り押さえられた。


「このように未遂であれば吠えるだけです。そして取り囲み無力化するというのが一般的な方法でしょう。もう一つ見てみましょう」


 そう言ってローゼンは画面を切りかえた。その映像には、銃を手に持った足取りの覚束無い女性が映し出されている。数体のC-狩猟者は獰猛な動物を警戒するように、距離をとって凝視している。

 警察官はその女性に武器を手放すよう説得しているが、一向に銃を離さない。


「この女性はこの後発砲するのですが、その時のC-狩猟者の動きに注目してください」


 女性は銃のトリガーに指をかけた瞬間、一定の距離をとってグルグルと回っていたC-狩猟者の動きが止まった。


「彼らの観察眼は非常に鋭いものとなっているので、脅迫と殺意の違いを確実に見極めてきます」


 C-狩猟者の近くを一発の弾丸が横切った直後、一体のC-狩猟者が銃を持つ手に飛びつき、もう二体がふくらはぎに噛みつき、最後に四体目のC-狩猟者が倒れ込んだ女性の背に乗り首元に牙を載せた。


「安易に攻撃すれば直ぐに制圧されます。そのため重要なのは役割分担。作戦は次の通りです」


 まずは飛行するC-媒介者を一体だけ撃ち落とす。要するに宣戦布告である。


「この役は重要であり非常に危険な鏑矢です。その分報酬を弾む予定ですが、誰か立候補する方はいらっしゃいますか?」


 ゆっくりと一つの手が挙がる。


「ありがとうございます、チョウトさん。その勇気をしっかりと受け取らせて頂きます」


 チョウト、通信部門の新参である。射撃の腕はあるが、如何せんこれが最初の出撃であるためビクビクとしている。


「一つ目に見せた事例と同様に、C-媒介者に銃口を向けた瞬間C-狩猟者が威嚇してきます。しかし威嚇するだけで攻撃はしてこないでしょう。その点は安心して頂いて大丈夫です」


 ローゼンはチョウトの縮めた両肩に手を置き慰めた。


 次の作戦は、鏑矢となるチョウトに襲いかかるであろうC-狩猟者を排除することである。


「チョウトの勇気を無下にしてはいけません。また、チョウトさんを避けて銃撃する必要があるため、常に冷静である人が好ましいです。そのため、ここは私が指名致します。アオさん、ヒョウさん、マシさん、カンさん、お願いしても宜しいですか?」


 四人は儀仗隊のように洗練された動きをしながら異口同音に了承した。


「ありがとうございます。後は、C-媒介者を撃ち落とす攻撃係と、彼らをC-狩猟者から守護係に分担すると良いでしょう。あと皆さんは壁を背にして彼らと戦闘してください。また、急所である首に噛みつかれないよう、ネックガードを支給しておきます。次はC-媒介者の対策です」


 ローゼンはC-狩猟者とは異なり、一枚の画像を職員に見せた。


「C-媒介者は表向きでは、医師が直接赴くには危険な地域にワクチンを支給しに行ったり、人が入ることの出来ないような場所へサンプルを取りに行ったりと、その名の通り何かを媒介することが多いロボットでした」


 画像には、C-媒介者の構造を説明するための断面図が描かれている。ローゼンは、しかしと言葉を続けながら二枚目の画像を見せた。


「これはとある場所の戦争に参加した帰還兵に関する資料です。ここには、金属でできた羽虫が大量にキャンプに現れてから、兵士が次々と熱病を出して壊滅状態に陥ったと書かれています。恐らく生物兵器を蔓延させるのに使ったのかと」


「これは、エクスロテータがこう使えと教えたのですか?」


 暗い顔をしていたローゼンに職員が質問をした。


「いえ、この使い方をした国家はエクスロテータに"医療用"として輸入したというデータが残っています。付属していた道具類も医療に関するもののみでした。しかし、エクスロテータでこれらを作っていた施設の人々は、少々言い方が汚いですが馬鹿でないので警鐘は鳴らしていたはずです。なので、恐らくエクスロテータは分かって輸出したのかと」


 その当時は憶測だけであったため、エクスロテータは利用された立場であるとして裁判にはかけられなかった。


「C-媒介者はコンピュータウイルスを物理的に運んできたというサイバーテロの事件もあります。なので、C-媒介者の目的は太古の光の破壊することと、阻止しようとする者に生物兵器を紛れさせたC-媒介者を破壊させることで隊を壊滅させることの二つがあると考えられます。なので、最低限のマスクとゴーグルを支給します。必要ならば防護服もあります」


 ローゼンは全身を包むような真っ白の服を掲げた。


「後は捕獲用のネットランチャーも用意しておきます。一人一台所持することを推奨します」


 職員は着実にC-媒介者を破壊し、彼らをC-狩猟者から守っている。数多の残骸が地を埋め尽くし、捕獲された数体のC-狩猟者とC-媒介者が端に寄せられている。


「痛っ!」


 一人の職員が、壁を駆けてきたC-狩猟者に首を噛まれた。しかしネックガードを着けていたため、血が出ることはなかった。


「ありがとうございます」


「いや、これは俺が油断したんだ。申し訳ない」


 首を噛んだC-狩猟者は既に首を落とされ、眼下に転がっている。

 やはりC-媒介者が生物兵器を持っていたか、倦怠感や咳を訴える職員が少なからず現れている。その職員を防護服服を着た別の職員がテントへと連れて行った。


「着実に数が減らされてきてる……」


 ローゼンが小さな声で呟いた。人間対機械、反応速度で負ける戦いや、生物としての弱点を突かれることが多かった。それに機械兵の行進の奥で静かに座る巨大なオオカミ、アルファの存在も厄介であった。


「あっ、すみません説明するのを忘れていました」


 職員全員にネットランチャーに行き渡り、彼らが説明書を読んでいる最中にローゼンが手を叩いた。


「個々や小規模の群れでのC-狩猟者は狡猾で非常に強力です。しかし、本領は大規模な群れで発揮されると言っても過言ではありません。その要がアルファです」


 タブレットを見つめる職員に対し、ローゼンは画像も動画もないと謝罪した。


「これは私がおっちょこちょいという……わけではなく、アルファが出動するのは単純に表には出しにくいような事件ばかりだからです。マフィアの掃討、暴動の弾圧、戦争など。血や死体が映らないものが無く、士気を下げるわけにはいかないので用意はしていないんですよ。なので、即席で説明します」


 ローゼンは机の上にあるもので説明を始めた。


「アルファは基本的に動きません。あとひと目でわかるぐらい大きいです。そして最大の特徴として、C-狩猟者などの視覚・聴覚・嗅覚を集積します。そしてその集めた情報を元にしてC-狩猟者に司令を出して適切に動かすというわけです。ちなみに、などと言った理由ですけど、映像から見た私の分析としては恐らくC-狩猟者以外の情報も集積している可能性があります」


 なぜ一本道である通路の壁を背にしていた職員が裏をとられていたのか、洗練された連携をとっていたチームが徐々に苦戦を強いられ始めているのか。ローゼンは確信した。C-狩猟者以外からも情報を得ていると。


 C-媒介者がある職員二人が背にしている壁に留まった。それが留まってから数十秒後、互いが反対を見たほんの数秒の隙を狙ってC-狩猟者が二人を襲いかかったのだ。

 ローゼンは扇を閉じ、再び開いた。すると鈍い光を放っていた扇は、縁が黄色く彩られた五本のスローイングナイフに変化したのだ。投げられた一本のナイフはC-狩猟者の頭を貫き破壊した。

 襲われた職員はネックガードや防護服のお陰で怪我を負うことはなかった。


 職員の正面から機敏に戦っているC-狩猟者からは決して得られない隙の瞬間。これは確実であった。


「アルファはC-媒介者からも情報を得ています! これは今から対策を練ることは出来ません! ただ言えることは隙を作らないこと――」


 突如、アイスクリーン通信技術によってローゼンの視界の端にメールのアイコンが表示された。それを読んだローゼンは驚愕の表情を浮かべた。


「スノウさんが帰って来ない!? もしもしローゼンです! 大丈夫ですか!?」


 ローゼンは慌てて携帯電話でカイが入院している病院に電話をかけた。


「緊急のため挨拶省略させていただきます。数十分経ってもスノウさんが帰って来ないのです。それに付き添いにいたヘリオスさんも」


「では依頼通り避難所に移動しましょう。すぐに迎えに行きます。恐らくそのお二方は無事だと思いますので、ご安心ください。皆さんすみません! スノウさんとヘリオスさんが消えたということなので、カイさんと担当の看護師さんを避難所に移動させてきます! くれぐれもお気をつけて!」


 ローゼンは空間に孔を作っては入ることを繰り返しながら高速で病院に向かって移動した。


 その様子をアルファはただ穏やかに見下ろしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ