第11話【要請された依頼】
読者の方々へ
誠に申し訳ありませんが、現在、とめどなく追加される課題の処理に追いつかず、小説を更新する余裕がありません。
余裕があれば書いておりますが、非常に更新に遅れが出ております。
ご理解頂けると幸いです。
「俺に出来ることは……?」
ヘリオスは不安げに訊いた。
「君は……できればここに留まっていて欲しい。あの機械兵は非常に危険だ」
アフィンはいつもの不器用な笑顔を浮かべることなく顔を背ける。ヘリオスは、その表情が彼のことを守る優しさからではなく、足手まといだと思っていることに対する申し訳なさから来ていると感じた。
期待されていないことや、せっかくの機会に何も出来ないという無力感に駆られて、ヘリオスは力強く言う。
「俺は、いや私は天の川支部の一員です。皆さんの助けになることを深く望んでいます。ただ優しくされるためだけに天の川支部に来たわけではありません」
アフィンは橙に光るヘリオスの瞳を眺めた。そして彼の肩に手を置く。
「クリースの地下都市にスノウがいる。彼女を外に出さないで欲しい。理由は……彼女から直接聞いた方が良いだろう。時間を稼ぐ手札にもなりうるからな」
ヘリオスは力強く承諾した。
ヘリオスの答えを聞いたアフィンの口角が少し緩んだ。いつもの放物線の様な口元とは異なる穏やかな顔だ。
「私は、健気な君のことを信用したい。どうか、裏切らないで欲しい」
そう言ってアフィンは、合図と共にヘリオスをスノウの元へと転送させた。
「んぁ……? どういう原理だ?」
度々アフィンが忽然と消失するのを見てきたが、いざ己が飛ばされるのは彼にとっては初めての体験である。まるでたった1コマで場面が切り替わったかのような感覚である。
どうやらここは、老婆改めカイが入院している病院の前のようだ。ヘリオスはその事を把握していないためスノウを探し出そうとしたその時、後ろから知った声が聞こえてきた。
「あれ? ヘリオスさん、どうやって戻ってきたんですか?」
両手に果物や花の入った紙袋を抱えているスノウが現れたのだ。スノウもクリースから基地へと通じるワームホールが使えなくなっているのには気づいていたらしい。
「あぁ、アフィンさんに送ってもらってね。いまいち把握出来ていないけど」
ヘリオスはヘラヘラとぎこちない笑顔を浮かべながら言う。
「あぁ。一旦中に入りましょうか。花が萎れてしまうので」
スノウはヘリオスに病院に入るよう促した。カイのために色々と買ってきていたようだ。
スノウはカイに目をやりながら花瓶の水を取り換え、花を生け、果物の皮を剥き始める。ヘリオスはスノウが席を立つ度にその後ろを追いかけていた。
「あの……なんですか?」
スノウはカイの仮面を半分だけズラし、切った果物を食べさせている。その横でヘリオスは目線を四方八方に変えながら立っていた。その様は不審者そのものだ。
「いや、誰かに襲われたら危ないかなーって。ほら、外には車も走ってるし」
「バカにしてるんですか? 逆に僕を倒せる人を連れてきて欲しいぐらいです」
ヘリオスは雑談が主目的ではない上、どう彼女をつなぎ止めておくかの作戦を考えるのに手一杯であったため、雑な返事をした。
スノウは何がしたいのか明瞭でない彼を不審に思いながら黙々と果物を剥いている。カイもカイでヘリオスのことを気にも留めず、ただ外を眺めながら果物を仮面の奥で咀嚼するだけであった。
「そう言えばさっきこれらを買いに行った時、すれ違った人が誰もいなかったんですよね。ここの患者さんも全員別の病院に移送されたらしいですし、ここに居るのはカイさんと僕とヘリオスさんと、あとカイさんを担当している医者の方と看護師さんだけ。基地から戻ったのなら何かしら情報は入ってると思うんですけど、何か知ってます?」
ヘリオスは言葉を詰まらせた。これは彼が先程からずっと考えていた話題、クリースの人々が避難した原因を聞かれた時の対処法である。
「あー、俺もちょっと気になってたんですよね。最初来た時はあんなに居たのに」
ヘリオスは時間稼ぎのために一先ず共感した。
「いや貴方さっき来たばっかですよね? 僕見てましたよ」
「あ、うん。いや、えっと。来たばっかでもさ、周り見渡しておかしいなって」
明らか何か隠していることを察したスノウは、溜息をついて果物の皮を捨てに行った。
「あ、ヘリオスさんはここにいてください。僕よりもカイさんを守ってくれた方が助かります」
ヘリオスは頭を抱えた。少し離れて尾行するか、能力を使って拘束するか。しかしまだ未熟なヘリオスにとって、最も強いことを自負するスノウに敵うはずもない。
とりあえず彼は窓から外を見て、スノウが外へと抜け出していないかのみに注意を払った。幸いカイの病室にある窓は病院の玄関側に設置されている。
じっと凝視する一分間、病院から茜色の頭がトコトコと出ていくのが見えた。すかさずヘリオスは部屋を飛び出し彼女を追いかけた。
「買い出し? 手伝うよ」
ヘリオスは駆け寄りながら言う。
「カイさんはどうしたんですか? 見守ってくれた方が助かると言ったはずですが」
「看護師さんに頼んだから大丈夫だよ」
スノウは身体に含まれる空気を全て出し切るかのような溜息を吐きながら、着いてきても良いと承諾した。あまりにも早く来たため、それが嘘だと察したようだ。
「今から行くのは"太古の光"、僕のお気に入りの場所です」
☆☆☆
キャンプの入口前で砂利を踏む音が止む。
「失礼します。天の川支部総長のアフィンです。ランロン指揮官はいらっしゃいますか?」
キラキラと結晶の輝く黒い台地。キラキラと星の瞬く黒い空。地上を観察する神の如き真っ赤な日。終末世界を彷彿とさせるこのクリースで、アフィンは五人の恒護の前に立ちロード指揮官を待った。
すると、キャンプから爽やかな声と共に青年が出迎えた。
「お会いできて光栄で――」
その時、浅く先端が曲がったトゲが青年の喉を狙った。しかし青年は素早く軍刀を抜き取り、トゲを上方にいなす。漆黒の空を仰ぐトゲ。しかし、それで終わりではなく、いなされたトゲは慣性を体全体に譲渡し、青年の左頬目掛けた強烈な回し蹴りへと変化した。
加速した回し蹴りが炸裂する直前、紫の光がこの周辺一帯を穏やかに包み込んだ。
「お願いだからやめてくれフェアドレング」
アフィンは槍を地面に突き刺して言った。足を高く上げた状態で停止したフェアドレングはまるで石膏像の様だった。彼の足には三本の槍が地面と垂直に貫通し、一寸でさえ動かない。
「優れた反射神経だ。だからそんなに警戒心が希薄なのか?」
青年は表情の見えぬ仮面越しであろうと動揺していないのがわかるほどに落ち着いている。アフィンが槍を引き抜くと、フェアドレングの足を貫いた槍も消失していく。フェアドレングは慣れたような動作で、軸がズレることなく元の姿勢へと戻った。
「その槍は……」
青年はアフィンの持つ槍を凝視していた。その視線に気がついたアフィンは即座に槍を収納した。
「あっ、これは……戒めというか。とりあえずこの矢先を君たちに突き立てる気は毛頭ない。それだけは理解してほしい」
「……一先ず中へ入りましょうか。暑いでしょうし」
青年は六人の恒護をテントへと案内した。
テント内は見た目相応の大きさで設備も整っているが、十人以上入れるほど空間が整理されている。空調機も完備され、非常に快適そうだ。
「改めて自己紹介させていただきます。防衛戦砂漠担当指揮官に割り当てられたランロンと申します。今回の件にお力添えいただき、心より感謝申し上げます。恒護さんのことに関しましては、アフィンさんよりお伺いしております」
フェアドレング以外の恒護は軽く名乗った。
「それでは早速、作戦の概要を共有します。まず、現在エクスロテータのものと思われる機械兵が出現した地区としましては、海洋国際軍大陸棚D基地付近、ドロンルス山上空、盾の森、そして最後に極氷原です。現在の場所であるトリースド砂漠は未だ機械兵は活動していませんが、機械兵が埋まっているとの反応が出ています。また、トリースド砂漠と同様に"太古の光"にも反応があります」
ランロンはクリースの世界地図を指さしながら説明した。それぞれの機械兵活動地点に共通性はほとんどなく、それぞれが等間隔に離れていることのみだろう。
「それぞれの地区に恒護さん一人ずつを配置し、我々国際軍と天の川支部の職員さんを指揮していただく形になります」
ここでローゼンが手を挙げた。
「トリースド砂漠や"太古の光"ではまだ活動を開始していないと説明されましたが、そこではどのような指揮を行えば良いでしょうか」
「はい、現在機械兵が埋まっている場所は判明している状態です。そのため、最初は指揮ではなくどのような配置でどのように対応すれば円滑な指揮のもと、進行を防衛できるかの作戦を我々担当指揮官と立てていただくことになります」
ローゼンは感謝をして手を下げた。
「では急を要するので、現在活動している機械兵や埋まっている機械兵に関しては現場で説明させて頂きます。それではよろしくお願い致します」