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第███話【永劫月下】
「久方ぶりか、将又初めましてと言うべきか」
波が織り成す行進曲。それは一定の間隔で大気を震わせる。
彼女はまるで指揮者の如く、穏やかなさざ波を眺めていた。
風に揺られる草原は、"本命登場"と俺に拍手を浴びせてく。
「あの衛星の名はセアティス。三日月形の"海"が特徴だ。こんな日には、是非とも月見をしてみたい。ススキを飾ってな」
舞台の上は、奏者の星々で満たされる。
仰け反る客らは、興奮の赤に包まれる。
「君の背後にある恒星はアルデバラン。直に沈み、長い夜が訪れる」
"彼女"は振り向き、俺を見つめる。
俺は止まって、"彼女"を見つめる。
塩ビの樹木が、影を落とす。
割れた夕日が辺りを照らす。
「……私は君が見えないからこそ、如何なるものより君のことがよく見える。歓迎しよう、████。共に夜が明けるまで」
俺の背後で沈み行く恒星が、俺を冷たく見つめている。
"彼女"の背後で昇る衛星が、俺を生温く嘲笑っている。
あぁ、今宵も空が澄んでいる。
あの時と同じだ。