第6話 終わりと始まり
「ピギーー!!」
俺が上を見上げると、そこには羽が生えた黒いスライムみたいな魔物がいた。
シャールはもちろん俺を構える。マイはあたふたしている。いい加減タオルを羽織れマイ!
さて、どうしようか。
シャールの手が震えているのがよく伝わってくる。
もうここらで正体を明かしてもいいのだとは思う。けど……
「ピキキー」
!?
魔物は、シャールではなくマイの方へ。
「マイっ!!」
「へ? きっ……きゃああ!!」
魔物に気づいたマイが悲鳴を上げる。魔物はそのまま真っ直ぐマイの方へと進んでいく。
「あっ……あ…………」
マイがどんどん壁の方へと後退りしていく。シャールは助けようとしているみたいだが、足がすくんでいる。
「……くっ…………」
……シャール……?
シャールの手がさらに震える。
魔物には、マイの目の前に来ると、足?みたいなところから触手がニュッと生えてくる。
「ひっ……」
マイが青ざめる。
もう……こうなったら俺が……。
と、思った瞬間、シャールが地面を蹴った。
「……マっ…………お姉ちゃんに……触るなぁぁぁぁ!!」
シャールは勢いよく走り、魔物めがけて俺を振り下ろした。
魔物はそれを躱すが、シャールは間髪入れずもう一振り。それが魔物の小さな羽にヒットし、魔物が空中で少しバランスを崩す。
……。やるじゃねぇーか。シャール。
「ピギャア!」
魔物が火魔法を放った。小さな火の玉はシャールめがけて飛んでくる。
もう…………ここまで来りゃ……いいよな? ユーフィミア。
『……主様の獲得特殊能力 言語発生の発動を許可します』
サンキュー。
俺はシャールの手から離れ、火の玉に向かっていく。
ヴォ!!
俺は剣身で火の玉を受け取り、消す。こう見えても俺、火炎魔法無効を獲得してるんでね。
「……つるぎくん……?」
俺はシャールの方へ向き直す。
「……よくやった……シャール! あとは任せろ」
俺の記念すべき第一声だ。シャールは俺の声を聞いた途端、安心したのか、もしくは魔精返上への怯えかは知らないが、涙目で地面にペタンと座り込んだ。
さて、シャールたちをここまで弄んでくれたんだ。
「終わりにしてやるよ」
こいつさっき、火の玉を飛ばしてきたよな。なら氷魔法で倒してやろう。
「凍結氷霜ぉ!!」
俺が習得している氷魔法の中で最強のやつを使ってやった。
空中で、氷の柱みたいなのが数本出来たかと思うと、それがいっきに固まり、あたりに降り注いだ。……え? ちょっとまって? まさかこの魔法、射程範囲めっちゃ広い?
それはまずい。シャールやマイにも危害が及ぶ。マイに至っては全裸だ。風邪引くどころじゃ済まない。
「……炎水操作!!」
技名は適当だ。火炎操作と、水流操作を同時使用した。とりあえず、この巨大な氷が俺たちに落ちる前に火炎操作で大部分を溶かす。それで溶かして出てきた水を、水流操作で全てこのお風呂外に流す。
完璧だ。
ここまで0.7秒。
ザッパァァァァン!!
俺の作戦は的中した。が、お風呂の壁が一部壊れてしまった。まぁ、これはあとで直せばいいか。
でも、魔物1匹にこの魔法は無駄使用だったか。
ふぅ。これで問題解決。
ではないか。
「……つるぎくん……?」
俺はシャールの手へと帰る。
「……まっ」
「魔精返上ではないっ!」
よし、言いたいことは言えた。
「でも……どうして? なんで……喋れるの?」
「話せば長くなる。またいつか話せるときに話すよ。今は不思議な剣だとでも思っていてくれ」
「……うん……」
マイもこっちへ寄ってくる。ちょうどいい。
「あと、1つ言いたいんだが……」
「なに?」
「お前らタオルを羽織れ! 俺一応男だぞ!?」
「……タオル……? …………!? ………っ!!」
全てに気がついたシャールとマイは、同時にタオルを身にまとう。
「……つ……つるぎくん……みた……?」
マイが声を震わせて聞いてくる。
「……そんなもん……見ようとしなくたって勝手に目に入ってくるんだよ!! 第一マイは無防備すぎる! 男にでも襲われたらどうするんだ!! もっと警戒心を強めろ!」
「……てことは……みたんだ……」
おいシャール! そのなにか気持ち悪いものを見るような目をやめろ。
「お前もだシャール。……大きいんだからすぐに狙われるぞ」
「……!? つるぎくんのバカっ!!」
シャールが俺を叩いてくる。
「……あと、俺の名前、なんで『つるぎ』なんだよ?」
「名前があったほうが愛着湧くじゃない?」
「安直すぎなんだよ! なんかもっと名前らしいのでも良かっただろ!」
「えっーと……じゃあ…………シャイニングダーク・スターソード!!」
それはどっちなんだよ。あと……
「普通にダサい」
どう考えたらこんな名前が思い浮かぶんだよ。
「え!? 私、結構真面目だったんだよ?」
「あーはいはい。というか俺は『リウス・レティーウェル』って名前があるんだから、そっちで呼ぶことにしてくれ」
シャールとマイはいかにも嫌そうな顔をする。
「えーー……」
「えーじゃない! 俺にも名前があるの!」
「だって面倒くさいじゃん……」
おいマイ!
「もう私たちだけ『つるぎ』でいい?」
「はぁ~。わかったよ……」
ーーこうして俺は剣に転生したが、伝説の大賢者と、シャール、マイという2人の女の子に出会った。正直、スキルやら魔法やらというのもあんまり理解はしていない。けど、こいつらとはこの先、仲良くしていけそうだ。
この時お風呂の中で、俺はそう思った。
いずれはこいつらと一緒に、冒険なんかもしてみたい。
これがこの世界に来て、俺が、1番最初に願った想いだった。
この先、この世界が、壮大な運命が、俺を待ち受けているとも知らずに。
そして、次話、俺は……俺の正体を知ることになる。
転生初期編 完結。
第7話に続く。




