第13話 俺の正体
「ただいまー!!」
部屋の入り口の方からハイテンションな声が聞こえる。
シャールたちが帰ってきたな。実に1時間ほど経っている。長湯しすぎなんだよこいつら。
「つるぎくんいるー?」
俺がいる方の部屋につながるドアを開けて、ふらふらのシャールが入ってくる。
「は!? シャールどうした?」
そのシャールに続いて、ラミがピタッとくっついたマイが入ってくる。
「ちょっ……! お前ら風呂で何があった!?」
シャールは酔ってる?し、マイとラミがくっついて離れない。
「……甘酒風呂っていうのがあって……止めたのにシャールがずっとそこに浸かってて……」
マイが解説する。
だから、こんなに酔ってんのかこいつ。てか、シャールってまだ未成年だよな?
「マイちゃんも入ってたじゃないですかー!」
「私はちょっとだからいいんだよラミちゃん!」
マイちゃん!? ラミと、マイどんだけ仲良くなってんだよ?
「そうらよー! マイちゃんはなんで酔わないのー?」
シャール……。駄目だこいつ、完全に夢の中だ。その後もゴニョゴニョと何かをつぶやき、パタンとベッドに倒れ込んだ。
「シャールさん! 起きてください!」
ラミがベッドに寝転がったシャールを、起こそうとする。
あ、シャールはさん付けなんだ。
「ラミちゃん。それ、もう寝かしといたほうがいいと思うよ?」
「えっ……分かりました」
シャールにお酒は厳禁だな。
「マイ、こいつ未成年なんじゃないの? お酒とか駄目だろ?」
「え? 男性は15歳で、女性は13歳で成人なんだよ?」
いかにも当たり前かのように、マイが返してくる。
13歳って……。早いな。現代日本では男女ともに18歳だからな。いや、日本でも平安時代とかはそれぐらいの年齢だったっけ?
コンコン。
突然部屋のドアがノックされた。
「夕食をお持ちいたしました」
そう言って、海の幸を惜しげもなく使った豪華な食事が運ばれてきた。
いろいろな魚の刺し身類、海老、カニ、あら汁に、炊き込みご飯まである。
なるほど。このホテルの宿泊料金が高いのは、こういうところがあるからか。
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
食事を運んできてくれた人が帰っていく。
もちろん、2人で泊まっている設定なので、ご飯は2人分。
「どうします?」
ラミが聞く。
「ラミちゃん食べていいよ? シャールはどうせ朝まで起きないだろうし。いただきまーす!!」
マイはそう言うと、目の前の刺し身を食べ始めた。いや、マイもそこそこテンションバグってるぞ。
ーーえ?
これどういう状況?
マイとラミがご飯を食べ始めたから、俺は窓辺でユーフィミアとたそがれてたんだが。
あれから10分くらいしか経ってないのに、マイもラミも寝てるんだが。
「なんでご飯中に寝れるんだよ……」
「……つるぎさん……?」
「へ?」
呼ばれた気がして、マイたちの方を見ると、ラミが起き上がってた。
「ラミ……起きてたのか……」
「少し、話しませんか?」
ラミがこっちに来て、俺を持つ。
「あぁ、いいよ」
「つるぎさん……貴方……転生者ですよね?」
「へ?」
なんで? バレた? どういうことだ?
「そ……そんなわけない。俺はただの喋れる不思議な剣で……」
「じゃあ、日本のどこ生まれですか?」
「東京だよ」
「ほら。日本から来たでしょう?」
あぁーー!! しまったァァァァァ!!!!
くそぉそういうことか。
「……くっ……そうだよ。てことは、ラミも転生者」
「ううん。私はれっきとしたこの世界の生まれです。日本のことは他の転生者から聞いたんです」
「俺の他にも転生者がいるのか?」
「転生なんて、よくあることなんです。つるぎさんが住んでいた日本がある世界を、『異世界』と呼ぶんですが、そこで死亡した人の実に0.02パーセントもの人が転生を果たしているのです」
やっぱり、この世界は俺がいた世界とは違う世界なんだな。あっちからすれば、ここは異世界だけど、ここからすれば日本がある世界が異世界になるのか。
「つるぎさんがいた『異世界』、そしてこの世界『イロハギルデ』、まだ多数の世界が存在しますが、それらをすべて管轄している管理者がいます」
それが、ユーフィミアのよく言う『女神様』ってやつか。
「女神様。全知全能を持つ神々のうちの1人です。世界を渡り歩く、つまり転生についての神です」
神々ってことは、神が何人もいるのか。
「女神様は、転生者に転生の意図があるのかを聞き、その人が望む世界に転生させます。転生時には、その人の特性、例えば転生初期から高いステータスであるとか、強いスキルを持っているとかが与えられます」
転生するってすごいことだな。
「ただ、これらの動作を複数人ですると、エラーが発生しやすくなり、本来転生者に与えるべきではないスキルが贈与されてしまったりするのです」
うん。多分それ、俺だわ。
最初から伝説能力持ってたんだもん。
じゃあ、『魔王勇者』ってのもこのせいなのかな?
「って、こんな話聞いてても面白くないですよね……。もう寝ましょう!」
ラミはそう言うと、俺をベッドの縁におき、シャールに毛布を被せた。そして、マイを隣のベッドに運んで、そこにラミも潜り込んだ。
そう。ここ、ツイン部屋なので、ベッドが2つしかないのだ。
「つるぎさん。おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
さて、俺も寝るとするか。
と、思ったが、なかなか寝られずにユーフィミアと喋っていると、外が明るく光った。
なんだ? 今、深夜の1時だぞ?
と、窓に炎が映った。
「は?」
俺は窓のそばに行き、下を見下ろす。
すると、街が炎に包まれていた。
「……か、火事だっ!」
シャールたちを起こさないと!
ゴォォォォォォ……
なんでこんなに火が。
「おいっ! シャール! マイ! ラミ! 起きろっ!」
俺の声で、ラミが1番最初に起き上がる。
「つるぎさん……どうしたんですか?」
「火事だっ! 逃げろ!」
「え?」
マイと、シャールも起きたようだ。
「逃げるぞ!」
俺たちは廊下にでて、ホテルを出ようとした。
第14話に続く。




