第12話 謎の少女
うーわ。すごいなー。
俺たちは今、星蘭の一時という、超高級ホテルに来ている。
「あ、ここだよ! 私たちが泊まる部屋!」
シャールは受付の人からもらった鍵を使って、今日泊まる部屋のドアを開ける。
部屋の中はとてもきれいで、今からここで夜を明かすとは思えないほどだった。
「すごい……」
シャールたちも、息を呑んで部屋に上がる。
と、ベッドに水色の髪をした少女が1人、座っていた。
(あれ? 部屋間違えた?)
シャールが小声で聞いてくる。
(いや、ちゃんと524号室だ。あの子が間違ってるんだろう)
俺も小声で返す。
すると、シャールは少女のそばまで行って声をかけた。
「……あの……部屋を間違われてると思うんですが……」
「え……?」
その少女が顔を上げる。
透き通った水色のきれいな瞳だ。
「えっ……あっ! すっ……すみませっ……!」
その少女は、ベッドから立ち上がり、部屋を出ようと走りかけたが、入り口付近に突っ立っていたマイと勢いよくぶつかった。
「きゃああ!!」
そして、マイもろとも倒れ込む。
「!? だっ大丈夫!?」
シャールがマイと、少女を起こす。
「大丈夫ですっ……ご迷惑おかけしてすみませんっ!」
その少女はまた走りだそうとしたが、シャールが止めた。
「大丈夫じゃないでしょ。一旦落ち着いて?」
シャールはどうにか少女をなだめ、またベッドに座らした。
「マイ! お茶かなにかあったら入れて?」
「分かった」
マイは部屋に付属しているキッチンのそばに行き、なにやら漁った後、シャールに声をかけた。
「紅茶でいいー?」
「いいよ! 3人分ね!」
マイは鍋で湯を沸かし、紅茶の葉を入れて、3つのマグカップをこっちに持ってくる。
「ありがとう! ほら! あなたも!」
シャールはマイから2つ、マグカップを受け取り、そのうち1つを少女に持たせた。
「……あのっ! ありがとうございます……」
「私はシャール! こっちがマイ! あなたの名前は?」
こいつすごいな。
初対面の相手にこんなに喋りかけれるなんて……。
「…………ラミ」
少女が小さく呟く。
「……ラミちゃん?」
「うん……」
なんだろう。シャールのハイテンションと真逆すぎる。この子。
「シャール! ちょっとテンション高すぎだ……もっと」
俺はシャールに忠告したつもりだった。しかし、小声でしゃべることを忘れて、ラミと言った少女まで聞こえていたみたいだった。
「!? っ……剣が……喋った!?」
あーもうしょうがない。この際、俺の正体もバラしちゃうか。
「驚かせてごめんな。俺の名前はリウス・レティ」
「この子の名前は、つるぎくんって言うんだー! なぜか喋れる不思議な剣なんだよ!」
おいシャール!
「つるぎくん……?」
あーほら困惑してる。『つるぎ』なんて名前のやつ存在するわけねーだろ。
「いやラミ。それはあだ名でな……。本当の名前は」
「いーじゃん! 別につるぎくんでも!」
シャールが遮ってくる。
「なんでだよ? 俺にも名前が……」
「いいから! ラミちゃん! この子はつるぎくんって呼んであげてね!」
「うん。よろしくねつるぎくん!」
シャールのゴリ押しがすごい。
もうラミには、なんと言っても無駄だろう。
「なんでラミちゃんはここにいたの?」
「……泊まるところもなくて……たまたまこのホテルのこの部屋の窓が空いていたから……泊まる人がいないのかなって……思って……」
「そっかー……お金は持ってるの?」
「ほとんど……ない……」
ラミはポケットから、銀貨を出す。
「……70ゴールド」
シャールが数える。
「ラミちゃん何歳なの?」
「分かんない。多分10くらい……」
「親は?」
「いないよ……」
「家は?」
「ない……」
訳ありっぽいな。
というか、気になってたんだけど、ここホテルの5階だよな? どうやって窓から入ってきたんだ?
ちょっと見させてもらうか。
失礼しますよー。
《千里眼》
このスキルは、相手の行動や気持ちが分かるだけでなく、遠くの出来事(見える範囲は決まってるけどね)や、自分の目に見えてないことを見えるようにするスキルだ。応用すると、相手のステータスを覗けるんだ。
ラミ・ライトウェル
職業 ーー
体力 19
魔力 568
素早さ 59
知識 322
攻撃力 12
防御力 17
【称号】 天空の民
【使用可能魔法】
神聖魔法 . 千
【獲得スキル】
超能力
氷雪操作
【獲得特殊能力】
空中浮遊 魔法反射
…………なんだこれ?
いろいろと分からないことだらけなんだが……? 【獲得スキル】と、【獲得特殊能力】はまだ分かる。神聖魔法ってなんだ? あと、なんでこんなに魔力だけ高いんだ?
合計しても、とても10歳のステータスではない。
『神聖魔法とは、神、と呼ばれる者の力の一端を借り、打ち出す強力な魔法のことを指します。これは、神聖魔法 . 千と表示されているので、神聖魔法をすべて習得しているのだと分かります』
えげつないな。神聖魔法。
『魔力が高い理由は私にも分かりません。ただ、獲得称号の天空の民、というところを見ると、普通の人間族ではないのだとは分かります』
本当だ。天空の民。てことは、この世界には、天空に国があったりするのかな。
「つるぎくん!!」
あ……まただ。ユーフィミアとの話に夢中になると、こいつらの話が全く入ってこないんだよな。
「どうした?」
「私たち、温泉に行ってくるから留守番よろしくね!」
シャールたちが着替えを持って立ってる。
「分かった。いってらっしゃい」
よし。今回はお風呂に連れて行かれることはなかった。
まぁ、これが当たり前なんだけどな。
昨夜がおかしかっただけだ。
さて、じゃあこのホテルからの景色でも1人でゆっくり楽しみますかー!
第13話に続く。




