第11話 南西の街サウスエスト
「サウスエストってのは、どんな街なんだ?」
俺、もといシャールたちは大都市イルイヒヲで、殺人未遂を犯してしまい、サウスエストなる街へと逃亡中なのである。
とは言っても、おそらく追っ手が来るのはまだ先だろうから、ゆっくりと歩いて平原を移動中だ。
「んー特に変わったところもない街だよねー」
「港街ってとこかな?」
シャールもマイも、あんまりよくは理解してないらしい。
「ただの港街ってことか?」
「そうだね。多分……」
シャールはまだテンションが低い。まぁ、あんだけのことをやってしまったあとだからな。
そもそも、この世界において人を殺すと、どうなるんだ?
『……その人が冒険者であった場合、冒険者証明書、つまり冒険者としての権利の剥奪、ギルドへの一定期間立ち入り禁止、最悪の場合、懲役5年以下が課されます』
5年? ちょっと少なくないか?
『以下』ってことは、3年とか、1年とかの場合だってあるんだろ?
『それについては返答不可能です。そもそも魔物の存在するこの世界では、戦争など大きな争い事が起こらない限り、殺人事件というのはほとんど起こらないのです』
確かに。
人に殺された人より、魔物に殺された人のほうが多いのは納得できる。
こんな世界なんだから。
「あ! 見えてきたよ!」
マイが指をさす。
ここはちょっと小高い丘の上らしい。サウスエストなる街が見下ろせる。イルイヒヲほど広くはなく、真っ白い家々が建ち並んでいるのが印象的だ。道路も整備されていて、現代のヨーロッパっぽい。ヨーロッパに旅行に来たのかと思えるほどだ。【注 ヨーロッパ行ったことないです。】
その先を見てみると、青い海が広がっていた。
久しぶりの海だ。
てか俺、まだ転生して5日ほどしか経ってないのにな。前世で海に行かなさすぎたのだろう。
「きれいな街並みだな」
「あーーーー!! 思い出したーー!!」
突然、シャールが叫ぶ。
「シャール……? どうしたの?」
マイが心配そうに聞く。
「サウスエストって……有名な観光地だよ!!」
え? そうなの?
「サンゴ礁とか見れて、しかも白い砂浜がずっーと続いてて、ほらあそこ! 海水浴場がある!!」
シャールの指の先には、確かに真っ白に輝いたビーチがあり、人々が遊んでいる姿が見えた。
沖縄みたいだな。
「それに……確かここ、100年くらい昔に起きたルート戦争で唯一陸上戦になった街で、今でも防空壕とか、戦争の跡が残されてて……。当時、無理矢理剣を持たされて……戦わされた子どもたちの慰霊碑とかもあって、戦争について学べる街とも言われてる……」
沖縄でした。
というかこの世界にも、防空壕っていうものがあるんだな。
それよりも、異世界なのに前世なみに戦争繰り返してることに驚きなんだが……。
異世界ってこんなんなのか?
「それに……ルート料理って言って、めちゃくちゃ美味しい料理もあるし、ホテルとかもいっぱいあるから、観光の名所として名高いんだ!」
時々シャールってめちゃくちゃ物知りになるよね……。
で、さっきから話題になってる『ルート』ってなに? ルート戦争やらルート料理やら……。ここサウスエストじゃないの? 何? 数学が大好きなの? √って便利だけど、俺は大嫌いなんだよ!
「……ルートってなんなんだ? ここ、『サウスエスト』って街だろ?」
「あぁー。ここの地名がもともと『ルート』っていうんだよ。『サウスエスト』っていうのは、ここに移り住んできた人々が、街の名前を決めるときに『南西の方角に来た』って意味で、南と、西を繋げて、『サウスウエスト』って名付けたんだよ。」
マイによる詳しい説明が入る。
「それがいつの間にか、なまっちゃって『サウスエスト』ってなったんだー!」
「ふーん。そうなのか。とりあえず行ってみよう!」
俺たちは丘を降りて、サウスエストへと向かった。
「すごい……ちゃんとした観光地だ……」
街の入口には街の看板と、案内板、地図など色々なものがおいてあり、店も立ち並んでいた。
そして、ものすごく人が多い。
いやまぁそりゃ……観光地なんだから仕方ないとしても、イルイヒヲの5倍は軽く超えてくるんじゃないかな。
「人が多いな……」
「えっと…………イルイヒヲの10倍はいってますねー!」
マイがサラッととんでもないことを言う。
「えげつない。で、こっからどうする? もう商船に乗るか?」
「いや、ここで一旦宿泊しよう。もう日が落ちてきてるし、商船もないだろうし」
うん。そのほうがいいな。
おそらくシャールはここに泊まりたいんだろう。
「……お金はあるのか?」
「貯金を家から全部持ってきたのと、冒険者登録をしたときにギルドからもらった給付金がある」
給付金なんてもらってたっけ?
まぁいいや。
「どのくらいだ?」
「2000ゴールドだよ」
うーーん。分からん。この世界においてのお金の価値が分からない。
例えば、日本で1000円って言われると大体どれぐらいか分かるけど、1000ドルって言われてもパッとこないのと同じことだ。
前世の某国民的RPGゲームでは、1ゴールドは現実世界における100円くらいだと言われてたな。
じゃあ大体、20万円くらいか。
高っか!
金持ちかよこいつら。
「普通のホテルに泊まったら、大体何ゴールドくらいなんだ?」
「普通のホテルなら、ご飯付きで160ゴールドで泊まれるよ」
安っす!
というか1600円で宿泊できるホテルってどうなんだ?
「まぁそれくらいあったら泊まれるか……」
シャールはホテル街を探して、1番良さそうなホテルを1つ選んだ。
「ここにしよう!」
そこはいかにも高級そうなホテル。黒い看板に金色で『星蘭の一時』と書かれていた。
コ○ンの映画かよ。
「すみません。1泊2日で宿泊したいんですけど……」
「2名様でよろしいですか?」
「はい」
シャールが答えると受付の人は紙に何かを記入し、鍵と一緒にシャールに渡した。
「……チェックインが完了しました。お部屋は524番となっております。料金が2名様で、1460ゴールドとなります」
高っか。
え、ちょっと待って。2人で1泊すると15万円もかかるの!?
普通のホテルの比じゃないんだけど!
「これで……」
シャールがお金をだす。
「丁度、お預かりします。それでは、最高の一時をお過ごしくださいませ」
いやー。
俺も初めてだわ。1泊15万円もするホテルに泊まるの。
1週まわって楽しみだわ。
ーー今夜、何が起こるとも知らずにーー
第12話に続く。




