序章 転生。
「さよならっ……!」
「っ! あゆっ!」
彼女はそう言うと、交差点の向こう側へと走って行った。岩倉 あゆ。俺の幼なじみで、好きだった人。さっき俺は、フラれたのだった。
俺の名前は、佐藤 颯真。16歳。高校1年生。勉強も、運動もそこそこしかできず、何の取り柄もない、ただの高校生だ。
今日は12月24日。クリスマス・イブ。だというのに、俺は好きな人にフラれたのだ。別にフラれたというわけではないけど、恋は終わった。好きな人に、あゆに、他に好きな人がいるみたいだ。
「帰るか……」
家に帰って、ご飯を食べよう。今日は親も姉もいないから、1人で気楽にご飯が食べられる。
俺は、赤信号が青に変わったのを見て、あゆが走って行った方へと歩き始めた。
と、その瞬間。
キィィィ!!
向かい側の交差点を車が、猛スピードで突っ込んでくるのが見えた。そして、そのまま対向車線を走ってきた車と衝突した。
キキィィ……ドォォォォォォォォン!!
大きな爆発音と、煙が一気に広がる。
やっば。てか、ここに居たら危険だ。
逃げよう。
俺は、交差点から離れようと横断歩道を渡りきって……、
え?
目の前に車が現れた。
その車は、俺もろとも交差点の1角、つまりショッピングモールの壁に突っ込んだ。そして大炎上した。
何分経ったのだろう。
俺は、崩れたショッピングモールの壁(瓦礫)の中にいる。身体が半分以上押し潰され、首から下の感覚がもうない。死んだな。俺。
まさか、自分が死ぬことを自覚する日が来るとは。
《身体を作成中・・・必要な魂を確認しました》
まぁ、この世界に思い残すことなんて無い。高校生活は、思っていたより楽しくなかったし、活躍する場なんて俺には無かったしな。
唯一心残りがあるとするのならば、あゆに想いを伝えきれなかったことだな。
《意識の覚醒を確認。進化に挑戦・・・》
と、いうか身体が押し潰されているのに、痛みとかは全く感じないんだな。あれか? 死ぬ瞬間はめっちゃ気持ちいいってやつか? どこかで聞いたことあるな。
《進化に失敗。不死の身体を作成します》
なんだか眠たくなってきた。これが死ぬってことか……。思っていたよりも怖くないな。来世では楽しく過ごしたい。
《意志を確認。直接通話に切り替えます》
と、いうかさっきから気になっていたんだが、この声なんなんだ?
意志を確認? それかこれも死ぬときに聞こえる幻聴ってものなのか?
《颯真……颯真……聞こえますか?》
暗闇の中で優しそうな声が聞こえる。いや、聞こえるというよりは、頭の中に語りかけてきているような。
《選びなさい。貴方はこのまま死ぬのか。それとも生きるのか》
選べ? 生きるか、死ぬかって……? まぁ、無理だとは思うけど生き返れるなら、生き返りたい。
《分かりました。では、いってらっしゃいませ》
ん? どういうこ……と……。
眠気が……もう…………耐えられな………………
暗い。何も視えない。何も感じない。
あれから何時間経った?
ここはどこだ?
俺は死んだのか?
確か、生きるか死ぬか選べみたいなことを、問われた気がする。じゃあ生き返っているのか?
無数の疑問が、俺の頭の中を駆け巡る。
とりあえず起き上がろう。
あれ? 起き上がることが出来ない。いや、もう起き上がっているのか? 微かに足が地面に刺さっているのが感じられる。
手も伸ばしてみようとしたけど、手がなかった。もしや、俺、人間じゃなくなってる!?
俺が、身体を左右に動かすと、
ズボッ!!
足元で何かが抜ける音がした。
そのまま俺の身体は、傾いていっているのが分かった。よし、感覚がだいぶもどってきたぞ。
カランッ カラァァン!!
鉄の棒が転がったような音が聞こえた。音は聞こえるんだ。あと、背中が冷たい。俺が倒れて、仰向けになってるんだな。
うん。
俺もう、人間ではないらしいな。
認めなくねぇ。じゃあ、俺これからどうやって生きてくんだよ。
と、いうか俺、何になってんだ? 人間じゃなかったら、鉄筋にでも生まれ変わったのか?
おっ! 目が慣れてきた。
えっーーと。俺の身体は。硬く、でもちょっと柔らかい柄の部分。左右に伸びる金色の棒。そして、真っ直ぐ銀色に光る剣身。これは。
剣だね。
俺は剣に転生したんだね。
認めた訳じゃないよ? 認めたくもないよ? でもさ……
「寄りにもよってなんで、剣に転生なんだよっ!!」
あのさぁー。転生って言ったら、勇者とか、魔王とかもっと……こう……良い者になれるんじゃないの? 剣って、なんにも出来ないじゃんっ!! このまま人が通るのを待つ以外、動けないし。というか、動けるのか?
俺は身体を起こそうとしてみた。ま、動けないよね。はい。転生した瞬間、動けなくて詰みましたーー。
おしまい。
あーーーー。絶望とは、このことを言う。こんなことになるんだったら、大人しく死んどけば良かったな。これ以上の絶望なんかないだろ。動けない上に、意識はあるとか、5億年ボタンより酷い気がするんだが。
誰かーー!! 助けてくれぇーー!!
ま、誰も来るわけ無いか。
『ようやく見つけました』
ん? なんか聞こえた。
すると、俺の目の前に光り輝く女の人が現れた。光で顔は見えないが、雰囲気がただ者じゃない。
「貴方をお待ちしていました」
え? 俺を待ってた?
ってかアンタ誰?
「私は、大賢者ユーフィミア、七大神戦士が1人です」
七大神戦士?
「七大神戦士とは、2500万年前に超星帝王と戦い、勝利し、世界を創造した7人の神の戦士たちです」
世界を創造した? 神?
ってか、なんで俺、喋ってないのに会話できてるんだ?
「超能力、念力通話です。貴方は転移したときに既に獲得しています」
そういえば転生する前に、変な声が聞こえてたな。
覚えてないけど。
「神は、この世界を創造した際にいつか闇が復活すると悟り、私をこの世にとどめなさったのです」
そこから2500万年も生きてきたのか?
「私の肉体は既に2500万年前に死んでいますが、魂がこの世に残っていますので、生きながられることが出来ているのです」
ふーん。本当に俺、転生したんだな。
こうして、俺はただの高校生から、剣へと転生し、大賢者ユーフィミアと運命の出会いを果たしたのだった。