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第1章 第3話 特別

「よぉ」



 俺は廣瀬を連れ、その足で駅から少し離れた美容院「BOOST」へと訪れた。



「いらっしゃ……10分待ってて」



 そう言ったのは店長の根尾恵(ねおめぐみ)。若い女店長は俺の姿を視認すると途端に笑顔をやめ、淡々とカットに戻った。



「お知り合いのお店ですか?」

「まぁそうだな」


「でもデートで美容院とか……普通デートに行く前でしょ? それに先輩がちょっと髪切ったくらいじゃイケメンにはなりませんよ」

「あぁ髪切るのは俺じゃないよ。お前だ」


「はぁっ!? ちょっと失礼すぎません!? わたしがかわいくないって言うんですか!?」

「平たく言うとそうだ。まぁちょっと待ってろ」



 ぷんぷんしている廣瀬だが、俺の言うことを聞いて椅子に座ってスマホを弄り出した。そしてジャスト10分後に客の散髪を終えた根尾が店を閉じ、シャッターまで下ろして店員を裏に下げた。



「いつも言ってるよね。来るなら事前に連絡してって」

「嫌なら追い出せばいいだろ?」

「……ほんと最悪」



 俺に逆らえない根尾がぶつぶつと文句を言いながら準備を始めた。そして廣瀬を理容椅子に座らせる。



「まさか先輩がカットするんですか……?」

「なわけないだろ。俺がするのは、お前をめちゃくちゃかわいいと自覚させることだ」

「なっ……!」



 廣瀬の後ろに立ってそう言うと、鏡越しに彼女の頬が赤くなるのが見えた。



「いいか? お前はかわいい。このかわいさはお前の武器だ。でもお前はその武器を封印している」

「それは……わたしがかわいくないってことですか?」


「違う。普通にかわいい止まりなんだよ、今のお前は。お前の第一印象はギャルだった。かわいいギャルだ」

「ギャルって……。まぁ陽キャを目指したんで成功! ってことですね」


「そうだな。それが目的なら成功してる。でもお前の目的はカーストを上げることだ。そういう意味では失敗している」

「……どういうことですか?」


「トップを目指すなら。普通にしていては駄目だってことだ。普通に勉強したって東大には入れないし、普通に部活をしていても全国大会には出られない。特別になりたいのなら特別な努力をする必要がある。お前の場合は特別にかわいくなればいい」



 根尾が様々な器具を持って戻ってくる。普通に注文したら軽く1万は超えるであろう量だ。



「いいか? 人間は第一印象が八割だ。そして第一印象は容姿に直結する。しっかりとしたスーツを着ていると仕事ができるように見えるし、だらしなければ期待はされない。つまり特別かわいいだけで、自然とカーストは上がるんだ」

「……あの。先輩って何なんですか? 普通の陰キャ……じゃありませんよね」



 廣瀬が恐る恐る訊ねてきた。まぁそろそろ明かしてもいいだろう。この美容院のやり取りだけでも廣瀬は俺に反論しても、逆らうことはしなかった。つまり。



「特別な詐欺師だよ」



 廣瀬こころは俺の説得力に、完全敗北している。

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