第1章 第2話 カースト
「先輩。詳しいことを教えてください」
その日の放課後。廣瀬こころに呼び出され、俺は空き教室に連れ込まれていた。
「詳しいことって?」
「とぼけないでください! 私の地位を高めてくれる……そうでしたよね?」
「ああそうだったな」
言われて思い出す。一応俺とこの子は付き合っているということになっているんだったか。金にならないことにあまり興味はないので忘れていた。
「まず君のところのリーダーを教えてくれ。カーストが一番高い奴」
「……浅矢塗絵です」
「ああ浅矢か……」
その名前は俺も知っている。1年A組のカーストトップ。確か良くない噂があったな……彼氏が暴力団だとか、痴漢冤罪とかをやって金を稼いでるとか。
「お前、そのグループ抜けた方がいいぞ。あんまりよくないから」
「そんなのできませんよ! ……わたし、中学生の時、いじめられてたんです。でも高校に入って絶対陽キャになってやるって思って……。このグループにいることは、私の生命線なんです」
「ふーん。まぁどっちでもいいや」
「先輩友だちもいないクソ陰キャなんでしょ? そんな人にはわかりませんよ。わたしの気持ちなんて……」
「そもそも陰キャとか陽キャとかよくわかんないんだよな。結局は他人の評価だろ?」
「……他人の評価こそが、絶対評価でしょう」
ま、そっちの方が正しい考え方なんだろう。何が正しいかも俺にはわからないが。ただ一つはっきりとしているのは、この廣瀬こころという女。詐欺に引っかかりやすいということだ。社会的な評価を重視する奴は、社会的に成功している人間に弱い。医師の説明は正しいと思い込みやすいというやつだ。
「よく考えたらお前に協力するメリットって俺にはないよな」
「はぁっ!?」
思ったことを口にすると、廣瀬がぷんぷん怒りながら迫ってきた。
「先輩みたいなクソ陰キャと、かわいいわたしが付き合ってあげるって言ってるんですよ!? こんなメリット他にないでしょう!?」
「へぇ……わかってるんだ」
わかってるなら、メリットが生まれた。
「お前、どこまでやれる?」
「どこまでって……?」
「前言ったことと同じだよ。俺に忠誠を誓えるか。どこまでやってくれるかだ」
「……カーストが上がれるのなら。何でもやってやりますよ」
「ん? いま何でもって……」
「言いました! 何でもやってやります!」
本当に扱いやすい。実際メリットはあるんだよな。優れた容姿。特に男にモテそうな容姿をしている。それを自由に使いこなせるとなったら、できることはいくらでもある。
「よし、まずはデートするぞ」
「……は?」