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第1章 第1話 運の尽き

「先輩、わたしと付き合ってください!」

「いいよ」



 言ってからしまったと気づいた。友だちのいない俺。見知らぬギャルっぽい後輩。その後ろで多数の女子がクスクス笑っている。どう考えても嘘告白というやつだったからだ。



 職業柄というか、趣味柄というか。すぐ了承してしまうのは悪い癖だ。ただし、「ただし」が付くわけだが。



「ただし条件がある」



 そう言うと後輩は明らかに機嫌が悪そうな表情を見せた。俺なんかに上から条件なんて付けられて不服なのだろう。次に言うべきことは決まっているが、こいつは誰だったかと思い出すためにあえて間を作る。



 職業柄、全校生徒の名前と顔は全て一致させてある。俺は高校2年生だが、「先輩」と呼んだあたり1年生で間違いないだろう。1年の情報は少ない。だが状況である程度推測することはできる。



 嘘告白なんて見てる分には楽しいが、当人からしたら面倒なだけだ。したがってこの子……そう、廣瀬(ひろせ)こころはグループの中で地位が低い。グループからはぶられないためにやっているのだろう。



 それは容姿からも見てとれる。顔はかわいい。後ろの奴らとは比べものにならないくらいに。それなのに肩にかかる程度の長さの髪を明るい栗色に染め、メイクをばっちり決め、量産型っぽい感じになっている。つまり自分のかわいさを隠してもグループに溶け込もうとしている。その理由は単純にはぶられたくないからだろうが、150cm前後の低身長でトランジスタグラマー。声も耳にこびりつくようなかわいらしいもの。女子に嫌われそうな要素が詰まっている。つまりいじめ防止のためにも一軍に入ろうとしているのだろう。



 だがその中でも上手くいかず、今こういった役をやらせられている。そう考えるのが妥当か。まぁ全部推理や憶測にすぎないが、そこまで外れているわけではないだろう。



 プロファイリングすると、プライドは高いが力不足。上に媚びへつらうが、下だと定めたら徹底的にマウントを取る。典型的なキョロ充女ってところか。多少の誤差は後々訂正していこう。とここまでが約2秒間。話をすぐに進める。



「俺に忠誠を誓え」

「は?」



 廣瀬だけではない。後ろの女たちも怪訝な顔をしている。まぁ廣瀬の場合は怪訝って言うより嫌悪だが。



「あなた何を言ってんですか?」

「言い方が悪かった。付き合っても先輩後輩はしっかりしておこうって意味だよ」

「それくらいなら……まぁ……」



 俺の言葉に渋々納得する廣瀬。成績はまだわからないが、あまり頭は良くないのだろう。ここまで簡単なドア・イン・ザ・フェイスにかかるとは。最初にあえてレベルの高い要求をし、次にレベルを下げ本命の要求を通すというテクニック。しかも今回は実質的に言っていることは同じなのにな。



「それよりも……」



 廣瀬が後ろを確認する。おそらくネタバラシ。今の告白は全部嘘だと笑い者にする合図をした。別にそれで傷ついたりはしないのだが、これで勝ったとされるのも気分が悪い。なので俺は。



「きゃぁっ!?」



 廣瀬に抱きついた。一応まだ付き合ってるということになっているので構わないだろう。どちらもその気はないのだが。



「じ……実は……」

「お前、今辛いだろ」

「!?」



 耳元で囁くと、廣瀬の身体がビクリと震える。図星、というより辛いと感じていない人なんていないと言う方が近い。いわゆるバーナム効果。誰にでも当てはまることでも指摘されると当たっていると思ってしまうというものだ。それにさっきのプロファイリングを踏まえ、話していく。



「あいつらに下に見られてるな?」

「そ、そんなこと……」


「強がらなくていい。あいつらには聞こえてないから」

「……はい……少し」


「でも逆らえない。逆らったら仲間外れにされるから」

「……はい」


「だから嘘告白をさせられた。そうだな?」

「……気づいていたんですね」



 そろそろ。俺に対する信頼も生まれてきたか。



「大丈夫。君は悪くない」



 俺は彼女の自己肯定感を高めながら、言う。



「俺が君の立場を高めてやる」

「わたしの……立場……?」



 耳に口を寄せているので顔は見えないが、声音は明らかに明るくなった。



「種明かしはまだするな。このまま付き合ったフリを続ける」

「どういう……ことですか……?」


「金を引き出すため、と説明するんだ。チョロすぎていくらでも金を毟り取れる。そういう風に言えば君を見る目は変わる」

「そう……かもしれないですけど……」


「君はこれ以上考えなくていい。俺が全部上手くやってやる」

「……わかりました」



 廣瀬を放す。すると後ろの女子たちに駆けていった。一瞬見えた表情は間違いなく、期待に溢れていた。そして一言二言話し、女子たちがクスクス笑いながら帰っていった。



「……本当に、チョロすぎるな」



 俺もそれだけ口にして教室に戻ることにする。廣瀬はともかく、周りの女子たちは悪人だ。悪人相手なら、いくらでも鬼になれる。



「相手が悪かったな」



 方法は悪くない。ただ本当に相手が悪かった。



 相手をこの真影凍司(まかげとうじ)にしてしまったのが運の尽きだ。1億以上稼いでいる、詐欺師にしてしまったのが。あいつらの運の尽きだった。

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