三十七
ギルド窓口にて
「リニューアルッ?!」
台に身を乗り出す勢いでファウスティーナはおねーさんに顔を寄せた。
可愛い異母弟とマリアちゃんの結婚式やお祝いのため、一週間程里帰りしていたファウスティーナは「さぁ、迷宮に帰るぞー」と寄ったギルドの窓口で衝撃の事実を聞いた。
「はい。偶にあるんですよ。
基本は数十年から百年に一度ぐらいなんですけど…」
衝撃の事実。
それは、≪最悪の迷宮≫のリニューアル!!
迷宮が何のためにあるのかはいまいち不明だが、隠し部屋やら宝箱が配置されていたり、セーフティポイントがあったりと冒険者の訪れを想定されているのは確実。
つまり、何のためかはわからないけど……迷宮は人を呼びたいということである。
だが、いつ訪れても同じ内装・一度きりの宝箱……となればどうなるだろう??
A、人の訪れがなくなる。
なのでリニューアル。
全ての迷宮は数十年から百年に一度の割合で迷宮の内部やGET出来る宝箱、果てやボスのリニューアルが行われるらしい。
因みに難易度は上がることもあれば、下がることもあるとのこと。
毎回魔物が強くなってたり罠がえげつなくなってたら冒険者が来なくなっちゃうからね。
迷宮のアトラクション施設感がハンパない。
たぐいまれない経営努力(?)の末にこの世界の迷宮は存在している。
「リ、リニューアルってどんなですかっ?!!」
「えっと、今回は罠の難易度、魔物の強さ共にかなりグレードアップしているようですね。
ボスは……まだ辿り着いた方がいないので不明ですけど……低階層の魔物の強さから考えるに相当な強敵かと。
得られるものも大きいのでしょうが…、規模もその……更に拡大してるようです」
ファウスティーナからは見えないが、何やら手元の画面をのぞき込んでおねーさんが顔を曇らせた。
運営上、ギルド職員は迷宮のマップ的なものがみられるらしい。
その規模がやばいようだ。
ただでさえ長くて≪最悪の迷宮≫の名を誇っているのに更に拡大した、と。
低階層でも中々のモノをGETできるので、踏破を目指さずに短期の修行や金稼ぎに潜る冒険者が多いのだとか。
説明を聞きながらファウスティーナは震えた。
両手を組み、頬を薄っすら染めて歓喜に震えた。
「素敵っ!!」
熱を孕み掠れた声と上気した目元は、うっかり被弾した冒険者一同が真っ赤になって硬直するほど無駄に色っぽい。
「マンネリを解消するためのリニューアル。そしてバージョンアップ…っ」
恍惚に浸るファウスティーナの脳内では、擬人化したハイスペックイケメンが「お前の帰りを待ってたぜ!」と両手を広げて恰好良く微笑んでいる。
「……好きっ…」
熱い吐息と共に漏れたその言葉に、周囲の男性陣が崩れ落ちる。
「あ…あのっ?ファウスティーナ…さん……?」
どっかにトリップしてしまったファウスティーナにおねーさんが控えめに声をかける。
おねーさんたちはもうわけがわからない。
…ファウスティーナがよくわからないのはわりと毎度のことだが。
「手続き、お願いしますっ!!」
我に返ったファウスティーナは光の速さでギルドカードを差し出した。
手続きしてもらっている間、愛しのダーリンへと想いを馳せる。
全然我に返ってなかった……。
というよりも素でヤバい人だった。
ギルドカードを受け取り「待っててね、ダーリンっ!!」とダッシュで去っていったファウスティーナに、「ダーリン―=迷宮」とは夢にも思わないギルド内は「あれ?迷宮行くんじゃなかったの??」と盛大に疑問を浮かべていた。
そうしてファウスティーナは今日も迷宮内で気ままに過ごす。
≪最悪の迷宮≫?
いいえ、≪至高の楽園≫です!!
ファウスティーナの物語はこれにて完結となります。
お付き合い頂き、ありがとうございました。
このお話のメインはざまぁではなく、休暇と自由を求める引き籠り生活のお話しとして書き始めたのでファウスティーナのお話しとしてはこれで終わりとなります。
…………が、
あっさりさっくり退場なさったクズの皆様。
積極的ざまぁはしませんでしたが、彼らにはしっかり零落れて頂くつもりで一人一人の末路も決めてあります。
なので、番外編的な形で彼らの末路も更新します!
彼らのざまぁに興味がある方はあと数話お付き合いくださいませ。




