三十三
たらり、と背を汗が流れるのを感じる。
言葉にしなくてもこれ程に雄弁に感情って伝えられるものなんだな……どこか現実逃避気味にファウスティーナはそんなことを思った。
だって痛い。
期待に満ちた一同の視線が痛い!!
同じテーブルを囲んでいる二人はもちろんのこと、周囲に控える全ての人間から注がれる期待に満ち溢れた瞳が光線のようにぐっさぐさと突き刺さる。
だが、しかし!!!
私にも譲れないモノがあるっ!!!
テーブルの下、クロスに覆われたその中でファウスティーナは強く拳を握りしめ、そしてそっと瞳を伏せた。
決意は強くともその強さを今は全力で隠し通して代わりに儚さを醸し出す。
「…ごめんなさい」
掠れるように零した声に一同が揺れた。
「っどうして……?!皇帝、いえ、あの男は罪人として裁かれます。
ファウスティーナ様の冤罪も全て明らかにしてすぐに民へと知らしめます。もう貴女を苦しめる者は誰も居ませんっ!
貴女こそっ…尊き正当な血族であられるファウスティーナ様こそ新たな玉座につくに相応しいっ」
私に女帝になれとっ?!!
お姉ちゃんてっきりセドリックが皇帝になるんだと思ってたんだけどっ?!
ちょ……しかも周りもナニうんうん頷いてんの?!
セドリックの嘆願とも言える言葉に俯いたままひくひくと口の端を引き攣らせた。
因みに唇を震わせているのは先の心情を声に出さないよう必死に堪えているから。
もう滝汗が止まらない。
「……ごめんなさい…」
弱弱しい声でそれだけを紡ぎながらファウスティーナは必死だった。
だって絶対に御免。
元々国のトップなんて面倒だから成りたくないし、
第一ファウスティーナは知ってしまった。
この世の楽園、迷宮の居心地の良さを!!!
ダーリン(仮)の元へと必ず帰る為にも、演じろ、演じるのよ!
ファウスティーナ!!
今の私は自国を去ったこと、兄を抑えられなかったことに深い悔恨と罪の意識に囚われている悲劇の元皇女。
そして決して癒えぬ傷を負ったか弱い女性。
女優になるのよ、ファウスティーナ!!!
今、この瞬間に自分の今後がかかってるとそう自分自身へと言い聞かせる。




