二十二
その少し前、迷宮の外では…
「民を抑えるのももう限界。悪役が必要ですわ。
民たちが怒りを向ける矛先が」
真っ赤な唇をぺろりと舐めて正妃が告げた。
子を産み、母となったにも関わらず衰えることのないその派手派手しさはどこか毒々しく、誘う蛇を連想させる。
美しかったかつてはその毒々しさでさえ一種の魅力であったが、衰えを知らない派手派手しさと裏腹にその美貌には陰りがさしつつあった。
「…どういう意味だ?」
皇帝の問いに真っ赤な唇を釣り上げた正妃は視線を騎士団長と宰相へと向ける。
一歩進み出た宰相が読み上げた内容に、皇帝は目を見張った。
証言者は神子の使用人の一人。
荒れ狂い、周囲に八つ当たりを繰り返す神子の癇癪に我慢出来なくなり、神子の《他人の魔力を奪う》ギフトのことを洗いざらいぶちまけたのだ。
“神子”と呼ばれる功績の全てがそうして“他の誰か”から奪ったものでしかないのだと。
「ずっと、可笑しいと思っていたのです。
全てあの神子の、いえ、あのペテン師の所為だったのです!」
満足に動かない利き腕を握りしめ、騎士団長が忌々し気に告げる。
「沢山の犠牲が出ていますわ。あの女には責任をとってもらわないと」
「あの神子の不正を知っていれば……
初めからファウスティーナ様を国から出させたりもしませんでしたものを…」
“断罪を”。
正妃が、宰相が、騎士団長が そう告げる。
その光景は皇帝にかつての記憶を思い起こさせた。
ファウスティーナが生意気だと。
嫌がらせや不正を行っていると、そう詰め寄ってきたかつてのことを。
違うのは、
この場にあの時そう提言してきた一人の神子が居ないこと。
そしてファウスティーナでなくあの神子がその対象なこと。
かつてを思い起こさせる光景に、重い何かが皇帝の胸を過った。
だが、
「民たちの怒りは私たちへ向いているのですよ?
このまま暴動が起きれば私たちとてどうなることか」
焦燥を孕んで正妃が告げる。
皇帝の視線が騎士団長へと向いた。
憎しみに目を燃やし、神子の断罪を訴える彼の利き腕へ。
それは、民の怒りの表れだ。
側に居た騎士達がすぐに暴徒と化した民たちを斬り殺したからこそ片腕のみで済んだが……そうでなければどうなっていたことか。
「……っ!!」
皇帝たる自分へ歯向かう愚民どもに奥歯をきつく噛みしめる。
肘掛を壊れそうなほど強く握った。
「神子を呼べっ!!!」
そうしてまた、彼らは間違えた。
己で己の首を絞め、
互いの足を引っ張り合って、
破滅への道をひた進む。




