十九
※ in 迷宮
「てぃやぁぁ!!」
上段蹴りで魔物の頭を力強く蹴り飛ばす。
たん、たんっとステップを踏み、ファイティングポーズからの右ストレート。
決まった。
満面の笑みを浮かべ、口元に両手をやってぶりっ子っぽいポーズでジャンプ。
両足を軽く曲げるのがポイントだ。
別にまた転倒して頭を打ったとかそういうことではない。
………何をしているかというと。
ゲームのキャラに成りきっているのである。
ここ数日やり込んでる格闘ゲームのキャラに成りきって魔物を倒すのがファウスティーナのマイブーム。
技もそうだし、勝利のポージングももちろんそう。
何なら服もイメージの近いモノを選んでみた。
……流石にコスプレはしてないからあくまでそれっぽい系統といったところだが。
因みにコレ、日替わりである。
今日は可愛い系の子で、昨日はクール系のキャラだった。
一昨日は確か…スマートな紳士っぽいオジサマキャラ。
男物の服はないから服装は諦めたが。
自分の中で迷宮内、魔法攻撃禁止!!のルールを掲げているので、
使うのはもっぽら体術メインの格闘家系のキャラオンリー。
一人で謎のポージングやら何なら台詞まで口にしてるファウスティーナは傍から見たらかなりのヤバい人だ。
だが、ココは迷宮内。
誰の視線も気にすることなくファウスティーナは今日も自由気ままだった。
迷宮最高!!!
正に最高の引き籠り空間!!!
一歩間違えれば死もあり得る迷宮内でそんな悪ふざけを続行中のファウスティーナは、ムチャクチャ強くなっていた。
悪ふざけしながらでも余裕で魔物を倒せるし、何なら武器さえほぼ必要ナシ。
最高の空間の中で最高の自由を手に入れつつ、人としてのナニか大切なモノを色々失くしていってるファウスティーナだった。
「さて、と。帰りますか。
サントゥアリオ・デッラ・サンタ・カーザ」
※
リボンを解けば、長い髪がひらりと揺れた。
三つ編みになっていた部分に指を差し入れればその部分だけ軽いウェーブがついた。
この髪型も今日のキャラをイメージしたもの。
リボンをテーブルの上に置きつつ、まずは冷蔵庫へと足を向けた。
ジュースのパックを取り出し、軽く揺すってそれほど量がないことを確認しそのまま口をつけた。
あと一杯分ぐらいしかないし、コップ洗うの面倒。
こくこく喉を潤し、空いたパックを軽くゆすいで流しに放置。
ソファに戻ってどかっと腰を落とせばスカートの端が僅かにめくれた。
それを直しながら改めて自分の恰好を見下ろす。
ハマってる格ゲーのキャラたちは二次元爆発的な容姿でなく割と現実的な容姿のキャラたちなので別に服装に違和感はない。
服装自体に問題はないのだが…。
汚れ一つない服を見下ろして改めて感動する。
「魔物倒しまくって返り血の一つも浴びないなんて……。
ドット絵調の魔物サイコー!!」
グロさもなければ、血痕も死体すら残さない。
更にはレベルを上げて、金貨やアイテムまで残してくれる。
何て素晴らしい存在っ!!
この世界の迷宮と魔物、本ッ当に最高なんですけどっ?!
そうして今日も、ファウスティーナは迷宮への称賛と依存を高めていく。




