十五
その頃、迷宮の外では…
「そんな」と呟いたのは誰だったか。
だけど声の主以外も、誰もがその思いだった。
「……迷宮、だと?」
呆然とした呟きに、その報せを持ってきた男が跪いたまま深く俯く。
「はっ、ファウスティーナ様は冒険者となられ、現在は迷宮に潜っておられるとのことです」
「ふざけないでよっ?!そんなワケないでしょう?!
あの子に冒険者なんて出来るわけないじゃない!!」
正妃が怒鳴りつけるも、報告は唯の事実だ。
「もしそれが本当なら一刻も早く迎えを送らなくては」
動揺を押し殺し、眼鏡をあげながらそう告げた宰相に報告役の男は首を振った。
「いえ、それが…ファウスティーナ様は迷宮内の捜索の契約をなされなかったようで…。
それどころか、連絡が可能な魔道具の類も所持しておらず……」
「どういうことですの?契約があろうとなかろう関係ないでしょう」
ファウスティーナ本人が捜索を望んでようと望むまいと関係ない。
迷宮事情に詳しくない神子が冷めた眼で男を見下ろし、皇帝、正妃も頷いた。
本人の希望など聞いてはいない。
早く国の諸々を何とかしてもらわないと困るし、何より追放された女を元の立場に戻してやるというんだから寧ろ感謝して身を粉にして働けと言わんばかりだ。
だが問題、大アリです。
騎士団長がそんな三人に、迷宮の内部が異次元状態で同じパーティを組んでるメンバーか、事前に契約を交わしていない場合迷宮内で遭遇することがないこと。
迷宮内部はあらゆる外部からの干渉が無効化され、唯一の例外である専用の魔道具以外通信手段もないことを説明する。
「外部からの干渉が…無効化……?」
「ええ、なので転移などでその者の元へ飛ぶことも出来ません」
騎士団長は淡々と告げるが、神子にとって問題はそんなことではない。
つまり……、その所為で魔力が奪えなくなっているということ?!
口元を押さえ、心の中でそう呟く。
「しかし何故そんなことを……?」
眼鏡をクイクイと上げながら宰相が呟き、そしてはっと目を見開いた。
「まさかっ…。ファウスティーナ様は世を儚んで?」
その言葉に一同が騒めいた。
か弱い女性が、しかも皇女として生きてきた彼女が危険な迷宮へ、しかも敢えての外部との連絡手段を発ってまで向かうなどただごとではない。
正気の沙汰とは思えないし、無謀極まりない決断だ。
(※当のファウスティーナさんは迷宮を絶賛満喫中!)
「そんな…、じゃあ国はどうするのよっ?!」
自分で皇帝をけしかけて於いて正妃が宰相へと喰ってかかる。
「そうだ(そうよ)!!」
冤罪をでっち上げて断罪に加担しておいて以下同文……。
詰め寄られた宰相は下がってもいない眼鏡をクイクイ。
「とりあえず、かの国に人員を待機させましょう。
幸い、ギルドで日々の生存確認は可能です。
もしファウスティーナ様が迷宮から出てこられ次第保護し帰国の手配を」




