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09ファルマンの回想1

いつも読んでいただきありがとうございます!




 


 私が生まれた時、ルフトクスト家はすでに王家よりルーモフォレの番人を任されていた。


 御伽噺にあるように、人間と妖精は深く繋がった関係で、それは交流や力が弱まりつつある今もその契約はまだ生きている。


 その証拠に、我々人間は魔法の力が使えるし、その力を持って妖精の住まう森を守っている。


 そう聞かされたのが、5歳。

 幼心に、妖精とは人間に守られ、使われる存在だと思っていた。

 

 ルーモフォレを守る一族には、大きな誇りと、大きな責任が重くのしかかる。


 そのため、幼い頃から魔法や剣術、武術に学業全てが完璧でなくてはならなかった。


 どんなにベソをかこうが、どんなに逃げたくてもこの家に生まれた以上は誰もが通る道だ。


 父も、母も。弟も。誰もが。


 その中でも一等劣等生だったのが私だった。


 7歳。

 4歳の弟に剣術で負け、魔法も先を越される始末。


 この頃には、心から笑うことなど無くなった。

 擦り寄る女達も気持ちが悪い。

 ニヤニヤと慰めるふりをして取り入ろうとするメイドや使用人や懇意にしている貴族連中も気味が悪くて仕方がない。


 地位や名誉を欲しがった貴族たちは、私から弟へ雪崩のように乗り換え、手のひらを返した。


 私の周りで媚びを売って婚約者候補に名乗りを挙げていた奴らは一気に去っていった。


 心が潰されて、粉々に、散り散りになった気さえした。

 

 どいつもこいつも、王家のため、地位のため、名誉のため、魔法のため、妖精のため!誰かのために私を使い潰そうと躍起になる連中ばかり。


 クソだ。


 どいつもこいつも。


 きらいだきらいだきらいだ


 いるかいないかもわからない文章の中の存在に。


 一体どれほど、私から奪うのだろうか。


 当たり前のように魔法を使っている連中は私のような努力はしていない。視界の端で小さな木の剣で遊んでいるあいつも、こいつも、誰もが当たり前に魔法を使っているではないか。


 使用人や教師の制止も聞かず、私は逃げた。


 逃げた先にあったのは、ルーモフォレ。

やはりどこまでいっても私はこの呪縛から逃れることができないのかと、そう絶望したとき、ふと、考えた。


 妖精なんていないんじゃないのか?

 妖精が居るのだとしたら。

 そいつらは守る価値があるのか?

 魔物は魔法がなくとも倒せる

 きっと魔族だって問題ないはずだ。



 なら妖精だっていなくなっても問題ないはずだ。

 

 今思えば大罪人の考えだ。


 誰もが震え上がる、恐ろしい考え。


 

 だが迷いはなかった。


 見たこともない幻想に振り回されてボロボロになっていくなんて耐えられない。


 そんなことばかりがぐるぐると巡る。




 森の中に足を踏み入れ、道なき道を奥へ進んでいくと、少し開けた場所に出た。


「あれ...?こんなところに広場が...?」


 人が休憩するために作られたような場所に頭をかしげる。

 この森に入るには、王家の許可や我が家の許可も必要になる。

勝手な開拓は許されていない。


 採取できるのは薬草や聖水のみで、呑気にピクニックをしていい場所ではないのだ。



「鍋や、木の実?それと...火を起こした跡だな」


 明らかな人のいた痕跡に緊張が走る。


 ガサガサと草木をかき分ける音が聞こえ、咄嗟に物陰に隠れた。



 そこに現れたのは、2人の青年を連れた黒い髪、黒い瞳の美しい妖精だった。



「!」


 思わず息を呑んだ。


 見たこともない漆黒の髪

 夜をいっぱい詰め込んだような、吸い込まれそうな瞳。それを縁取る睫毛も混ざりけのない黒。

 

 思わず後ろに後ずさると、少女と並ぶ緑とピンクの男とがこちらに気がついた。


 少女の形をした妖精の瞳が、一瞬、私を映す。


 言いようのない感覚が体を駆け抜けた。


 それも一瞬間の事で、その姿はパッと消えてしまったけれど。


 体が痺れて動けない。

 息が、できない。

 顔が熱い

 


 あれが妖精...







 それからだ。


 私はルーモフォレを守る目的ができ、懸命に腕を磨いた。


 全てはまたあの妖精を見るため。

 あの妖精が居る森を守るため。

 

 あの少女が本当に妖精なのか、それとも人間なのか


 知りたかった。


 勉学、剣技、魔法、武術


 全て、誰にも負けないくらいに力を入れて父や、母にも、途中で入った騎士団の誰にさえ負けなかった。


 突如現れた騎士達、天の才を持つベルモンド一族には一歩劣る部分もあるが、それは努力で穴を埋めた。血反吐を吐く程に自分を追い詰め、鍛えたが、何一つ苦に思うことはなかった。



 あの全てを飲み込むような黒を見た瞬間に全て、私の中を支配していた虚無感は取り除かれた。


 その時から私は全てを彼女に捧げている。



 しかし公爵家という家、王家と関わりがあるという地位は年齢とともに煩わしさを増していった。



「ファルマン様是非うちの娘と婚約を」

「わたくし、一生懸命ファルマン様にふさわしい淑女になれるよう頑張りますわ」


「くだらん。興味がない」


「な、なんという...そんな、しかし貴方ももう16。世継ぎを、公爵家の繁栄の事を考えねば...!」


「私はルーモフォレの妖精にこの身を捧げている。貴方の娘にも興味がない。すまないが、今すぐお帰り下さい」


 煩わしい。

 五月蝿い。

 至る所で声をかけてくるハイエナの様な気質にうんざりする。


 ここは王城のど真ん中だ。


 パーティーでもなんでもない。勤務する騎士に気軽に縁談を持ち込む場所ではないというのに、大きな声で喚く親子にうんざりとした。







「気持ちがわるい」



 呼び出された王城の一室で、ジル第二王子が吐き捨てる様に言った。


 騎士や王族が通う学園に足を踏み入れた時より、指南役兼友人として共に切磋琢磨する仲であったためか、卒業してもこうして度々呼び出されるのだ。


「突然呼び出してなんだ」


「お前が気持ち悪い、と言ったのだ。知っているか?どこへ行っても、どこであっても麗しい御令嬢達に冷たい態度をとるから『冷徹の貴公子』や、『妖精しか愛せない可哀想な騎士』と呼ばれてしまっているぞ」


「知らん。興味がない。不都合でもない。勝手に呼ばせて置けばいい」


「いいか。御令嬢はな、花よ蝶よ妖精よと育てられているのだ。そう鼻息荒く蹴散らしては綿毛の様に散ってしまうのだ。可哀想だろう。私が!」


 はぁ、と大袈裟なジェスチャーまでしてジル王子が肩を落とした。


「お前も少しは私を労え。お前が蹴散らした綿毛達がこちらに寄ってくるのだ。奴らは実に逞しいわ」


 つまらなさそうに爪を弾きながら煩わしそうにジル王子は言った。

 それは大変だなと賛同もするが、それとこれとは別だ。私が優しくしたとしても、結局はそちらに流れることになる。


「そんな事を言いたくて私を呼んだのか?」


 はぁ、と息を吐き出し、この気だるげな王子を見やる。

 

「ああ、違う違う。お前が読みたがってた王家の禁書棚の妖精や伝記に関する書物の写しを持ってきてやったのだ。ほれほれ感謝せよ」


「!」


 なんでもないと言った様に懐から取り出したそれを放り投げ「読んだらすぐ燃せよ」と添え付けた。


 丁寧な文字で書かれた書物を開くと、昔あった大きな戦や、妖精との契約、その時の王家の話や妖精の正体、食べるものや役割、交流、伝記などが記されていた。


 残念ながら、その中には私の見た妖精については何一つ書かれてはいなかった。


 仕方がない。

 魔法で火を起こし、パチリパチリと空中で燃えて消えていき、黒焦げになった紙をさらに火力を上げチリも残さず消す。


 その様子を黙って見ていたジル王子は、突然閃いたとでも言わんばかりに、意地の悪そうな笑みを浮かべている。先ほどまではつまらなさそうにしていたのに、忙しいやつだ。


「そうだ。ここまで来たら、お前が見たという妖精は人間だったかもしれんぞ。迷い込んだ人間。ありえるだろう。お前が見たのは幾つの時だった?7か?8か?」


「9つだ」


「ふむ。まぁ、お前の妖精もそれくらいだろう。もうそろそろ私も18。色々せっつかれている。大義名分がある今のうちに国中の未婚の女性を集めて、宴をひらけばいいのだ。もしかしたらそこに現れるかもしれないだろう?」


 すごい案だろう!と高笑いしているが、そんなにうまく事が運ぶとも思えない。それほどふわふわした案だ。



「どうだか」


「まぁ、お前は女性が嫌いだものな。気乗りはせんだろうが。当たるも八卦当たらぬも八卦だ。」



 たしかに人間だったのではないかと思い、散々招待されたパーティーにも参加したし、城下町にも通ってみたが、この国にはあれほど見事な黒い髪と黒い瞳を持つ人間はいなかった。

 今回もぬか喜びになるだろうと、期待などしないように気を引き締めた。






数ある小説の中から、この小説を読んでくださりありがとうございます。


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