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06 冷徹の貴公子の妖精

いつも読んでくださりありがとうございます!

沢山の方が読んでくださっていて、毎度のことながら感動しております。





 あれから、1ヶ月が経った。

 まだ1ヶ月しか経っていないというのに、今までの生活とは比べ物にならないほど濃密な日々になっている。



 というのも、ファルマン様が我が家に訪問され、お帰りになられた日から、毎日のように綺麗な花や手紙が届いているからだ。

 そこには私と友人になれた事、妖精への崇拝具合などがつづられている。


 どんな姿の妖精だったのか、写真や動画のないこの世界では確認するのはとても難しいことだ。

 前世では誰もが簡単に写真を撮って、共有する事ができたし、そう難しいことではなかった。


 ファルマン様の話しぶりではどうやら私に似た妖精らしいが、その妖精に心当たりはない。


 フィフィやドドリに聞けばわかるのだが、いかんせん彼らは呼べば現れるものではないので、運に頼るしかないのが現状だ。


 妖精を知っているという理由だけで、あんなにも見目の麗しい青年を私なんかが独占しているようで、悪い気がしてならない。

 

 しかし友人にさえあんなにも優しく、穏やかな青年なのだ。

 年増と言われている私とは違い、きっと引く手数多だろう。


 今日も今日とて送られてきた手紙と小さな花束を手でサラリと撫でる。


 情熱に溢れた文字で彩られる文章に、つい笑みが浮かぶ。



 あのパーティーでは酷い侮辱を受けたと、随分と腹が立ったけれど、今ではそれで良かったとも思えるようになった。私は存外現金なもので、手紙や花が届くだけで全部許せてしまうようだった。


 顔もまた良いので仕方がない。一生に一度見られれば幸運の美青年を毎週のごとく見られるのだ。許さないわけにも行かないだろう。

 妖精を長年追い求めてきたようなので、情報をもつ人間が現れた事で居ても立っても居られない気持ちからなのか、随分と親切にしてくれている。


 先日もできたばかりの人気のカフェへ誘われ、ご馳走になったところだった。


 甘いものが好きだと言うこの青年は、噂ほど冷徹でもなんでもない。やはり噂ほど信用ならないものはないようだ。私の手作りの菓子も食べてみたいと強請る様子は随分と噂と違うな、と思ったものだ。


 ちょうどこの時から、私の中にある、噂で聞き出来上がっていたどんな御令嬢にも見向きもしない『冷徹の貴公子』のイメージは崩れ去ってしまっていた。


 早くフィフィとドドリが現れないだろうか。



 私にとっては何でもない、早く過ぎ去る1ヶ月であっても、はやる気持ちのある彼からすればなんとも焦れったい1ヶ月だった事だろう。



 妖精に会ったら、思い人に会えたら、彼はどんな表情をするだろうか。こんなにも熱烈に思っているのだ。

 きっと泣いてしまうかもしれないなぁ。


 早く彼が会いたいと思っている『憧れの妖精』に会わせてあげられるといいなと思う。


 




「ぐえっ」

「うぐっ」


「貴様ら、それでもこのルーモフォレを守る騎士か!この森がどんなに希少かよく考えろ」


「は、はい!」


「よろしい次」


「はい!よろしくお願いします!」



 王城にほど近い場所、そこには広く大きな演習場が聳え立っている。


 騎士を志す学生から、魔法使いと呼ばれる魔法に特化した者たち、そして長年に渡り王家を支えてきた熟達の騎士達もまた、そこで腕を磨き切磋琢磨している。



 その中でも一際熱の入っている部隊があった。

 ルーモフォレの近隣の警備をする部隊だ。



 熱が入っている部隊が、というよりも、熱が入りすぎている男が1人そこに君臨していた。



 その男の名はファルマン・ルフトクスト。


 泣く子も黙る、ルーモフォレ特別部隊長。


 鬼気迫る迫力と実力を持ち、『冷徹の貴公子』とはよく言ったものだと部隊の所属の騎士たちは思った。


 この男が、奇人かつ変人であることは周知の事実であったが、それ以上に周囲を震え上がらせているのがその演習の厳しさであった。


 彼はルーモフォレを守る者として、一切の妥協を許さない、鬼神の如きしごきで有名だったのである。


 

 彼らの中では『妖精』とは、この黙って立っているだけならば、国宝にもならんとする美しい男の心を食い尽くし、忠誠を誓わせる、魔物よりも恐ろしい生き物となっていたのだった。










「ファルマン隊長、今日は機嫌が良さそうだな」

「......そうか?」


 演習がひと段落し、森の警護へと移動している道中、ふと、気がついた事を口にしてみた。


 この日、ファルマン隊長はとても機嫌がいいようだった。

 

 数年一緒にこの隊を率いてきただけに、そういった変化はわかってくる。


 この気安い話し方も、長年一緒に居ると許されてくるもので、最初こそ周囲に叱られたものだが今となっては気にする者はいない。本人はもとより気にしていないようなので、注意を受けたことはない。 


 いつもならば、無表情でなおかつ短い会話「ああ」「そうだな」「そうか」「...」で会話が終わってしまうというのに、少し、というかだいぶソワソワと落ち着かない様子だったのだ。


「今日はいつもより新規入隊者が多かったが、見どころのある奴でもいたのか?」


「いや」


「...そうか。まぁ、相変わらず一騎当千、ちぎっては投げちぎっては投げしてたもんな。泣いてるやつもいたな。そういえば」


「そんな野蛮なことはしていない」


「......してるんだよ」


「...…ルーモフォレは国の大事な宝だぞ。上質な聖水や薬草も多いから魔物や魔族にも狙われやすい。あそこでしか上級回復薬の薬草は収穫できないんだぞ?それほど貴重な場所を任されているんだぞ。私くらい軽く倒せなくては困る」



 何を今更、とファルマン隊長は、怪訝そうに眉を顰めた。

 さすがは実力主義者。

 言うことが群を抜いておかしい。

 筋肉ゴリラめ。


 剣術化け物クラスにそうホイホイ平騎士が勝てるかよ。ルーモフォレ、妖精様至上主義め。



「それにあれか?隊長の心を奪っちまった大切な隊長の初恋妖精様も居る森だから、俺が死んだら誰が守るってやつかい?」


 つい、からかい半分で、妖精を引き合いに出す。

 機嫌が良い理由は大概その妖精がらみで間違いないからだ。


「は? ちがう。あそこは大事な思い出の場所であって、あそこに私の妖精はいない」


「は?」


「? …...なんだ」


「いや、いやいやいやいや! 心だけじゃなくついに頭まで取られちまったんですか?」


「おい。お前は随分と失礼なやつだな」



 非常に嫌そうな顔をした隊長は、なんだこいつと言わんばかりにはぁ、とため息を一つついた。


 いつのまにか森には到着し、この時間まで勤務にあたっていた隊と交代をする。


 会話をしながらもスムーズに引き継ぎをするあたりは本当にさすがです隊長。


 しかし今まで「隊長が異常なまでに熱心にルーモフォレの警護や訓練に力を入れているのは全て心を取られた妖精が住んでいるから」という噂話を「そうだな」としか返さなかったので、そうだとばかり思っていたのに、今ではそこには妖精は居ないという。


 最近はどうやら王族関連の大きなパーティーで何かやらかしたと聞くし、本当に頭を取られたのではなかろうか。



「私は私の妖精を見つけたからな。」


「えっ」


「え」

「え」

「え」


 ばっと振り向いた、先ほどまで勤務にあたっていた3名の騎士は、これでもかというほど目をかっぴらいていた。もう帰宅するのみだというのに、足は両方地面にくっついたまま、一向に進んではいなかった。


 足を止めた騎士達の表情を見ると、ピッタリ3人同じように振り向いたまま信じられないという顔をしている。


 恐ろしい物を見てしまったという顔と、美しくて頬を染めるというめちゃくちゃな表情を俺は生まれて初めてみた。




 信じられないと思うのも、無理もない。


 俺も信じられない。




 男でも頬を染めてしまうほどの、恐ろしいほどの美貌で蕩けきった表情をした隊長は初めてみた。




 大変だ。

 これは本当に頭を取られたかもしれない。



前半→ティナ視点

中盤→第三者視点

後半→部下視点


わかりにくかったでしょうか?

一話づつ区切って投稿した方がよかったでしょうか?難しいですね。





数ある小説の中から、この小説を読んでくださりありがとうございます。



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