05 友人ができた日
ちょっと短めです。
たくさんの方に読んでいただけて幸せです!ありがとうございます!
「昔々、地上には妖精の王様と人間の王様がおりました。
とても凶暴な魔族や魔物と戦って生き残るためには、妖精は人間と、人間は妖精と手を取り合って闘うしかありませんでした。
妖精が人間に力を貸すおかげで人間には魔法が使えるようになり、簡単に魔物が人間の住む場所には来なくなりました。
妖精に深く感謝した人間達は、サーチャというお菓子を作り、友好の証に妖精達に振る舞い感謝を伝えたそうです。
ずっとずっと昔のお話」
10年間と比べ、するりと内容が頭に入ってくるようになった子供向けの絵本を、パタンと閉じる。
私の入れた紅茶と、私の作ったクッキーとジャムをこれでもかとたらふく食べて帰っていったドドリとフィフィ曰く、2人はルーモフォレに住まう妖精であり、神様ではなかった。
そう、妖精だったのだ。
私が小さな頃見ていたアニメのように羽も生えていなかったし、親指ほどの小ささでもなければ、鈴のような声でもない。
しかし妖精だったのである。
気まぐれに訪れる時のカゴいっぱいのベリーも、自分達の住む場所にたくさんあったのだ。
それを持ってきていたのだからルートも何もない。
直輸入だった。
妖精の食べ物とは、実は人間の食べ物とは全くの別物であり、互いに相入れることはない存在なのだという。
味、成分、有毒性、それらはこれっぽっちも一緒の部分はないのだそうだ。
しかしその壁を壊すものがある。
曰く、転生者である事。もしくは聖女と称しても良い。
人間や妖精と言った輪廻の輪からはみ出し、どちらとも言えない魂の持ち主であるから、妖精の物と人間の物を掛け合わせる事が可能だったという話だった。
全くピンとこない話だが、妖精界では有名な話で、昔からよく言われるそうだ。
その話しぶりから人間の人生観と違い、妖精の人生観は随分とそれから逸脱しているようだった。
なので、「ちょっと昔」という物がどれほど昔なのかは不明だが、少なくとも10年20年とかいうスケールではなさそうだ。
日本には、多種多様な神様が存在していて、森羅万象に神を感じるという考え方がある。たくさんの神様が存在する八百万の神という考え方だ。
どうやらこの国ではそれが妖精という考え方だったようだ。
人が使える火の魔法は火の妖精が、水の魔法には水の妖精が、風の魔法には風の妖精が。
数多の数の妖精が存在し、それぞれにカテゴライズされている。姿は見れないがそこにいる。そういう物なのだそうだ。
私はしっかりみえているし触れ合えているのだが。
どうやら、妖精の力が弱くなればしっかり見えることはないそうで、100年ほど前は見せようと思えば普通に見ることができたとか。
今現在私が見る事ができているのは、私が輪廻を外れてる云々に関わっていることらしい。
シックスセンス的な超能力的なあれかな?
どうやら、転生人が現れるとすごくラッキーで、人間にも妖精にもラッキーらしい。
私を介することで、妖精は力が強くなるし、それによって人間の力も強くなるのだとか。
そんな事をざっくりと説明してくれた。ものすごくざっくり。
妖精の食べ物を人間が食べられるのは私が作ったから。そういった感じの説明だった。
色々と説明が足らない気がして仕方がない。
そういえば彼らはかなりマイペースで偏った知識の持ち主だった。
私と初めて森で出会った時も、なんだこいつらはと見入っていた私に突如魔法めいた物をかけたのだ。
「!?!?!?言葉わかる!喋れる!」と興奮と混乱していた私に、「ふむ。あなたは私たちが見えているのですね」「あなたって...転生者、もしくは聖女か何かですか?何か料理でも作ってくれません?」「えっなんで?」「あ、あそこに良さそうなものが生えてますよ」
こんな会話をしたようなしてないような。
まさか10年も放置して、今更ながら解るというのも変な話だった。私が気にしなさ過ぎたのか、あちら側が適当なのか。どちらもあり得る。
この時がきっかけで言われるままに提供される食材でお菓子を作っていたのは事実だった。
しかしながらこれがどういう事なのか、どのように利益がもたらされ、どのように弊害が現れるのか。私には計算のしようがない。
この世界にとってそれがどんな影響を与えるのかも知らないのだ。
雉も鳴かずば撃たれまい、口は災いの元
ちょっと違う気がするが、言いふらす事でもないだろう。聞くところ、害があるわけでもないようなのだから。
他人事のように思ってしまうのは自分が転生者だからなのだろうか。
まさかこの時に得た知識が、私に思わぬ混乱をもたらすという事を、この時の私はわかっていなかった。
◆
◆
翌日はよく晴れていた。
お日柄も良く、というやつだ。
打って変わって、私の表情はずっと固まったままである。それはそうだ。その原因は目の前にいる人物のせいである。
「あの、ルフトクスト様...」
「ティナ嬢、私のことはファルマンとお呼びください」
「あ、いや、それは...」
「ファルマン」
「ファルマンサマ」
我が家にやってきたのは、思いもしなかった人物だった。
忘れもしない、あのパーティーで訳のわからない事を言ってきた「冷徹の貴公子」様だった。
思わず表情がこわばったが、許していただきたい。
随分な辱めを受けたというのにこの仕打ち。追い討ちをかけるとはこれまたなかなかな周到ぶり。
嫌がらせにもほどがあると言うものだ。
同席していたルノワールも、同じように思っているのか、その表情は私以上にこわばっている。
しかし、どうにも様子はおかしく、いじめに来たと言うよりも、ソワソワモジモジした様子にこっちが不安になってくる。
しばしの静寂と緊張の中、ようやくファルマン様が口を開いた。形の良い唇から恐る恐ると言ったように音がこぼれ落ちる。
「あ、あの」
あの時、あのパーティーの時と一緒の、美しい銀の髪が耳からサラリと流れた。
「父君が不在の時にすみません。しかしどうか、ほんの少し、貴女の時間を頂けないでしょうか」
「それは...もちろん、構いませんよ」
「よかった...ありがとうございます」
ファルマン様はほっとしたように胸を撫で下ろした。やはり、噂されるほどの美貌は確かな物で、ついうっとりと見惚れてしまう美しさだ。噂ほど『冷徹』であるかと聞かれるとそうではないほど上機嫌そうなのが不思議なところだ。
「先日は失礼いたしました...しかし貴女がとても、その、私の憧れる妖精に似ていたので、つい」
「まぁ。私がですか?」
「はい。なので、お恥ずかしながら、ついあのような愚行に。お許しいただけますか?」
私が「もちろんですよ」と答えると嬉しそうに申し訳なさそうに「ありがとうございます」と答えた。
しかし驚いた。この人は妖精を見たことがあるらしい。不思議なもので、同じ事を体験した話を聞くとグッと距離が近く感じてしまうのはなぜだろうか。かく言う私も、その1人。
悪戯心というのだろうか。あの大きなパーティーで年増と噂され、遠巻きにこそこそと悪口を言われる私に声をかけるほどに焦がれ探す妖精は一体どんな姿をしているのだろうか興味がわいた。
ルノワールに目配せをして、お茶を用意するよう指示を出す。
お父様やお兄様に留守を任されたルノワールはしばし渋ったが、さっと立ち上がると、お茶の用意をしに部屋を出て行った。
そうなると客間に2人きりだ。
「ファルマン様。私は貴女の望む妖精ではないですが、私は妖精を知っておりますよ」
「!本当ですか?」
「はい。頭のおかしな娘だとお思いですか?」
「とんでもない!お恥ずかしながら......私はよく奇人変人と言われます。幼心の恋心故に妖精の研究ばかりで。心を妖精に喰われたのだとまで言われる始末です。なので、周りは私の話など聞きはしません。貴女と、その、お話ができて...嬉しい」
「では、妖精友達ですね」
「と、友達っ...!?妖精友達...」
「お嫌ですか?」
「あっいえ、嬉しいです...とても」
肩をすくめて嬉しそうに小さくなる姿は、いつもの刺さるような美しさは身を潜め、随分と幼く見えた。
「でも、申し訳ありません。妖精様は随分と気まぐれで、いつ会いにきてくれるかはわからないのです。短ければ数ヶ月後、長ければ数年現れません」
本当のことだ。すぐにでも会わせてあげる事ができれば1番良いのだが、連絡を取る手段もなければ偶然ばったり道端で会うなんてことは今まで一度もない。
「構いません。私は...いや、妖精友達ですね。友達...是非よろしくお願いします。」
ばっと両手を出して握手を求める姿は、随分と可愛らしく、あのパーティーで頬を染めていた御令嬢たちにはとてもじゃないけど見せられないな、と密かに思う。
しかし同じくらいきっとあの令嬢たちの誰もがこんな可愛らしい姿を見ていないなんて勿体無いとも思わずにはいられなかった。
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