04 突然の訪問者
ゆっくり更新です
たくさんの方が読んでくださっていて、とっても嬉しいです!ありがとうございます
それでは仕事がまだ残っているからと、それぞれ昼食も済ませ、お父様もお兄様達も仕事へと戻っていった。
それを見届けて私も自室へ戻ることにした。
「や!」
「ひぃっ」
ガチャリと扉を開くと、さかさお化けよろしくズルンと何かが現れた。
自室の扉を開けてすぐに天井からこんにちはと突如人が現れたわけである。情けない声が出てしまった。
いや出るだろうこれは。
危なかったもう少しで気絶するとこだった。
幸いにもいつでもどこでも一緒なルノワールはお兄様たちの元へ行っているので、この状況を見られてはいない。
何故「幸い」と言う表現をしたかと言うと、ひょっこり天井から現れた人間は然るべき手段で訪問していないからだ。
例えばしっかりとした手順で招かれたお客さまは窓からは入らないし、こっそり天井からも現れない。
玄関から入り、メイドや執事と挨拶を交わし、その先にようやく尋ね人と会うものだ。
大前提として、私の今住む家はそうであるし、生まれ変わる前の日本でも大体がそうだ。
窓伝いに訪問する、なんて言うのは大概アニメや青春漫画の幼馴染くらいのもので、それ以外は犯罪者のそれである。
つまるところ不法侵入者である。
ひょっこり現れ、私が驚き自分の心臓の働き過ぎを心配して胸を押さえている様をゲラゲラと笑っているこの不届き者は、間違いなく知り合いで、友人なのである。
「ド、ドドド、ドドリ...あなたってやつは......!」
「わははっティナってばっ......っひぃー!すげえ顔してた笑える」
「なっ」
ささっと部屋の隅のソファーに移動した男は、ピンクの短い髪を逆立ててゲタゲタと笑って足をバタバタさせている。
ピンクの髪の先から線香花火のように光の粒がぱちぱち弾けている。ドドリほんと嫌な野郎だな。
絶対モテない。
私の手の届く範囲に居ると殴られると踏んで避難するとこも絶対モテない。「こーんな!こーんな顔だった!」とかなんとか言って私の顔マネをするのも地味にイライラする。顔がいいけど絶対モテない。顔がいいけど!
「ティナ、扉を。閉めなければなりません」
「ああ、ありがとう....いや、うん...?ありがとうも何か違うような気がするんですけど...」
いつのまにか背後に現れ、涼しげな顔をして扉を閉めた彼はもう1人の侵入者、名前はフィフィである。
美しい緑の髪が優雅に空中を舞う。
人間にはない、光の粒が、髪が跳ねるたびにピカピカと溢れ舞っている。
かなり背が高い方のルノワールよりもさらに背の高い彼は、190も超え、2メートルも超えるんじゃないだろうか。随分と高いところから見下ろされている。なかなかに美形なので目の保養。涼しげな目元が私を捉えた。
おっと見ているのがバレたようだ。
「どうぞ存分にご覧ください。貴女のフィフィですよ。お代はジャムでかまいませんとも」
「なにその突然の押し売り」
「ご安心下さいね。ほらここにたっぷりの果物ですよ。なんとルーモフォレ産です。特別ですよ」
「あっ!これってめちゃくちゃ美味しかったベリーだ!ありがとフィフィ〜!」
「かまいませんとも。あ、私甘めのジャムが好きですよ。砂糖は多めでクッキーに乗せてくださいね」
「注文がおおくない?」
ジャーンとばかりに差し出されたカゴには山になった果物。結局は自分の食べたい思いをぶつけられただけな気もするが、なんといってもルーモフォレ産。
ルーモフォレ。
これは妖精の住まうとされている国の管理する森の名称だ。普通の人は絶対入れない森である。
物理的にではなく、入れるけど捕まるってやつ。何せここ10年ほどでこの森を守護している公爵家の力が格段に上がり魔獣や魔族も入れない結界と賊の侵入を許さない警備がなされているので、誰も立ち入ることは許されていない。
許されているとするのなら、王国の専属の薬師や魔法使い、守護を任されている公爵家。そのくらいだろう。
噂によると、ルーモフォレの薬草はとても質が良く、上質な回復薬になるようなのだ。
彼らはどんなルートを使っているのか知らないが、そんな森から素敵なプレゼントをくれる。
そうこの2人こそが私の神様なのである。
「ちょろちょろだな」
「しっ! ドドリ!」
聞こえてるが、聞かなかったふりをしてあげた。なんと言ってもルーモフォレ産のベリーだ。私はこのベリーにとても弱いので、もう言うことはない。私はこのプレゼントを前に馬鹿になってしまうのだ。仕方ない。美味しいのだもの。この果実を使ったお菓子を食べるとこころなしか元気にもなるし、体調も良くなっている気がするのだ。ルーモフォレ産すごい。これが無農薬の力なのか。変な幻覚作用がある、とかじゃないよな...?
「そんなわけないだろ」
「えっ幻覚作用のほう?」
「うーんそれはなんとも言えないけど」
「えっちょちょ、ちょっと......!」
嘘だ......嘘だろ......。
興味本位でドドリに聞いてみると、凄く曖昧な返事が返ってきた。
つい手元からぽろりとジャムをたっぷり乗せたクッキーが落ちた。「あー落ちたっもったいねー」とドドリが喚くがお皿の上なのでセーフ。
いやいや、セーフじゃないセーフじゃない。
衛生的にセーフ!倫理的にアウトってか。うるさい。
幻覚作用という単語に前世の知識がやばいやばいと訴えている。
つい先ほどフィフィにお願いされた通り、キッチンに向かい砂糖たっぷりのジャムと小さなクッキーを作りそれをおやつにお部屋でティータイムをしていたところだったのだ。
正確にいうと、キッチンを使わせてもらったので料理長にも口止め料として少し分けた。
常習的犯行なのだが、子供のお遊びみたいなもんなので許されている。が、まじモンの幻覚作用のブツならば私はさながらに密売人じゃないか。
絶望していると、フィフィが「ドドリの言っている事を真に受けなくて大丈夫ですよ」と口の端にクッキーのカケラをつけたまま、すました顔で答えた。
「よ、よかった...」
「まぁ、ルーモフォレ産という事と貴女が調理をしたと言う点が問題なだけです」
「え?」
「ですから、ルーモフォレの妖精の食べ物を使って貴女が作っていると言うのが問題なのです」
「え?」
私が作っていることが......
問題......?
というか
妖精の食べ物???
私はただただ、自分が作ったベリージャムをたっぷりつけて満足そうに頬張るフィフィをポカンと見つめた。
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