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26 ハッピーエンドのその先み匙



 グラグラする意識の中で、目を開けば、僕を覗き込む影がいくつか現れた。


 瞼が重いし、頭はガンガンしている。

 ぼんやりとして、自分が今何をしているのか、なぜベッドに寝転び、見知らぬ天井を見上げているのか見当がつかない。


「あれ......」


「タトラー、大丈夫ですか?」


「ああ、ありがとうございます......」


 体を起こすと、酷い倦怠感が体を襲ってくる。またすぐにでもベッドに逆戻りしてしまいそうなほどの気怠さと、頭の重さにくらりとした。


 アーノルドが体を支えてくれたため倒れ込む事は避けられたが、それでもようやっとという体調具合だ。

 く、兄さんに会いたい...

 一瞬で治る気がする。

 おい、そんな目で見るんじゃないアーノルド。

 眼鏡の反射でほとんど見えないがわかる......わかるぞ。その呆れたと言わんばかりの視線が突き刺さっていることを......!


「元気そうで何よりですよ」

「アーノルド君......。君、どこを見て言っているのかね?」

「元気だろ。特に頭の中と馬鹿力は」


 眩暈でよろりとよろければ、吐き捨てるようにアーノルドが言ったので脇腹に一発入れてやった。



「ああ、よかった。気が付いたんですね。頭を酷く打ち付けたんですか? すごい血でしたよ」



 声のする方を見れば、そこに居たのは、黒髪、黒目の女性の姿だった。艶やかな流れるような髪は、几帳面に結い上げられていて、清潔感がある。シンプルで質素なワンピースに真っ白な白衣を着用していて、それがさらに清潔な印象を植え付ける。

 白い肌に白い白衣で、黒髪と黒目が強烈なインパクを与えてくる。


 あれ?黒髪の......?女?


 思いのほか血を流していたのか、ぼんやりとしてなかなか頭が回らない。


 あれ?さっきの男は?兄の恋人は?


 いつまでもポカリと口を開いたまま何も言葉が出てこない僕に痺れを切らしてか、はたまた心配してなのか、女性は僕に近付き、顔色を伺っている。


「大丈夫ですか?ご自分のお名前はお分かりになりますか?」


「な、そ、それくらい! もちろんです! 馬鹿にしないでくださいね! 僕はタトラー・ルフトクストです」


「ルフトクスト......? ファルマン様の、ご家族の方......?」


「おや、ファルマン・ルフトクスト殿をご存知で?」


「あ、はい。そう......ですね」


「失礼レディ。私はアーノルド・スペイドです。このタトラーの友人です。お見知りおきを。ぜひ仲良くしていただきたい」


 突然話しかけられて戸惑う女性にアーノルドがぐいぐいと迫り話しかける。

 普段は嫌味なほどすかした顔をしているというのに、女性の前だとニコニコと人好きのする笑顔になるのだから、嫌なやつである。


「あ、ありがとうございます、スペイドさん」


「アーノルドで結構ですよ。レディ」


 おいおい。

 なんだその笑顔は。僕はそんな笑顔見たことないですが。胡散臭さが爆発した。僕の中で!

 うう、この胡散臭い笑顔で頭がおかしくなる...!気分が悪くなってきた......。


「ルフトクスト様、この回復薬をお飲みください。かなりの出血量でしたので、早急に作りました。鮮度はいいので、きっとちゃんと効くはずです」


「君が作ったのですか?」


「はい。新人ですがちゃんと許可をいただいてます」


「そうなのですね......こ、これは...!」


 手渡された回復薬は、今まで見た事ないほど見事なもので、小さな瓶の蓋になっている留め具を外せば、清々しい香りが鼻に届いた。


 どうにも回復薬というのは青臭く苦手であったが、清涼感のある香りに、あまりにも自分の知っている回復薬との違いに戸惑いながらも口をつけた。


「!」


 そうするとどうだろう。

 口に含んだ瞬間に、あっという間に身体中に浸透していくのがわかった。

 ジクジクと痛んでいた傷口はあっという間に痛みが吹き飛び、重く怠かった体はふわりと新鮮な風に包まれたように軽い。

 

 何か未知のものに遭遇してしまったような、不思議な感覚に襲われる。しかし全く悪いものに感じない。


「こんな、よく効くと言っても限度がありますよ......アーノルド、口をつけたものですみませんが、あなたも飲んでみてください。これは......僕はなんと言っていいのかわかりません......」


「?まぁ、いいですけど...」


 不思議そうに、ほんの少し嫌そうに回復薬の入った小瓶を受け取ると、ぐいと残りの回復薬を飲み込んだ。ほとんど一気に飲み干した事もあってか、香りには気が付いていないようだったが、一瞬難しい顔をしたかと思うと、その表情は驚愕に変わり、ゆっくりと僕の方を向いて、小さく横に首を振った。


 いやわからん。どういう意味それ?


「嘘だろ......タトラーに殴られた場所が......全然痛くない...だと?いつも馬鹿力だから青痣になっているのに...」


「いつもアーノルドが一言多いからじゃないですか!」


 嘘だろ......じゃないわ!

 あっ、いけない。

 女性の前で大声を上げるとは何たる失態。


 兄さんのようにクールに。兄さんのように落ち着かなくては......!深呼吸深呼吸。


「......この回復薬は信じられないほど良く効きます。何か特別な方法で作られたのですか?」


 女性はキョトンとした後、穏やかに微笑み、首をふった。


「いいえ、いたって普通の作り方ですよ。何故かすこし、他の物よりも効くようで」


 ふふ、と恥ずかしそうにハニカム様子は、控えめに言っても淑やかで、上品だ。そして可愛らしかった。

 頬に熱が集まっていくのがわかる。

 何故だろう。何故だかは、わからない。

 黒髪の女性が、小瓶を受け取ろうと手を出してきたので、アーノルドから小瓶をひったくり僕から渡そうとした。

 もしかして、この女性が兄さんの恋人なのだろうか。さっきの男が化けているのか?

 あまりにも想像していた悪女像とはかけ離れていて、これではまるで噂通りの聖女だ。

 ああ、きっとこの女性なら、兄さんの隣でもいいのかもしれない......それならば、僕もきっと......


 小瓶が、僕の手から女性の手に渡る瞬間、バンっと大きな音が医務室内に響き渡った。


 何事かと音の鳴った方向へ向けば、そこには壊さんばかりの勢いで扉を開いた兄さん、ファルマン・ルフトクストの姿があった。


「! 兄さん!」

「ファルマン様!」


「また! またじゃないですか! まだ私も回復薬をいただいていないのに! 回復薬を! いただけていないのに!」

「だって」

「他の男には渡せて私には渡せないと......?タトラー......我が弟といえどこの罪は重いぞ......」


「えっ!兄さん!?」


「私の妖精に施しを受けるなんて......羨ましい......!!」


「えっ!」


 私の妖精という言葉を聞き、ばっ、と勢いよく黒髪の女性を見ると、ポン、と顔を赤らめているではないか。


「タトラー、ティナは私の妖精だ。私の恋人であり私の妖精であるティナから...手ずから...! 許せん...!」


 ぶわり、と兄さんの背中に燃えたぎる炎の幻覚が見える......!


 あのクールで、滅多に表情を変えない兄さんがここまでコロコロと感情を表している事に驚きしかない。


 一瞬だが、この女性なら兄さんを取られても仕方がないと思ったが、前言撤回。


「嫌です! 兄さんには幸せになってもらいたいけど、なってもらいたいけど...! 認めたくないぃぃ!!!」


「男の嫉妬見苦しすぎ」


「黙れアーノルドぉぉ」



______________


「シェリーさん、何あれ怖すぎなんですけど」

「グンジさん、あれが三角関係という物なのですよピュアピュアグンジさんにはちょーっと早いかもしれませんね」

「な! さわ、さわるなぁっ!ツンツンするなっピュアじゃねーわ!」

「かわいい〜」


______________



酸化酸素様(@skryth)より素敵なイラストいただきました!

美しいイラスト感激です!

めちゃくちゃ嬉しいです!

ありがとうございます!


挿絵(By みてみん)



数ある小説の中から、この小説を読んでくださりありがとうございます。

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